横光利一 『旅愁』 [Gemini]
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横光利一 『旅愁』
「明日千鶴子さんがロンドンから来るんだよ。…
「あのう、失礼ですが、パリのほうへいらっし…
「あは、あは、」…
「じゃ、やりますわ。」…
「皆さん、今の御演奏はまことに御立派なもの…
「向うに見えます島は、デュウマの小説に出て…
「では、皆さんどうも、長長お世話になりまし…
「じゃ、さようなら。」…
「そうそう、そうしなさい。今夜はゆっくりマ…
「ここは去年、ユーゴスラビヤの皇帝がピスト…
「ぼうとるさんて。」…
「いかが?」…
「あたし、なるだけ早くパリへ行きますわ。日…
「まア、静かですこと。」…
「やはり、僕はパリに行きますよ。その方があ…
「千鶴子さんは、日本人がどんなに見えました…
「どなた。」…
「じゃ、僕があなたにお世話されて来たあのへ…
「フランスの田園の美しさは、世界一だと威張…
「あなたも豪いもんだな、国際列車を停めたん…
「どうも俺の感覚はこりゃ蛙に似てるぞ。」…
「君が千鶴子さんの世話をするのが困るなら、…
「君、僕も会話を勉強したいんだが、暇があっ…
「フランソア一世だか八世だか、世の中にこれ…
「さアて、明日は千鶴子さんが来るんだが、弱…
「君、君はパリへ来て一番何に困ったかね。」…
「知識というものはたしかに人間を馬鹿にする…
「矢代さんはどこにいらっしゃるの。」…
「ロンドンへもそのうち、一度行こうじゃない…
「もうここパリなの。何んて優雅なところでし…
「千鶴子さんがパリへ来て下すったので、僕も…
「君の云うことはいつでも科学というものを無…
「この木の並木は藤村が毎日楽しんで来たとい…
「君、もう帰らないといけないじゃないか。ア…
「ブールジェへ行きましたよ。千鶴子さんは久…
「今日はこれだけにしときましょう。」…
「失礼ですが、僕は一年ほど前にあなたが講演…
「そうですね、日本にいれば僕らはどんなこと…
「パリにいる日本の方、みな半気違いに見える…
「懐疑主義か、ふん。」…
「日本のお寺の壁画は、まア、地獄極楽の絵が…
「どうです。これからボアへ行こうというので…
「ボートが流れるといけないわ。もう行かない…
「何んだ。」…
「白鳥の巣なんてあたし見始めよ。でも、真黒…
「千鶴子さん。」…
「この森をパリの街の真ん中に是非残しておけ…
「よし出来た。今度は傑作だぞ。」…
「じゃ、あなたはロンドンの宇佐美君の妹さん…
「僕は一度こんな所を見ましたよ。」…
「何んで凄い景色だろう。」…
「それはあたしも自分で知らなかったのよ。初…
「あなたはサロンへなんか出這入りするように…
「洋服なんかあなた困りませんか。」…
「先日塩野さんが、ノートル・ダムの写真を撮…
「あなたのお考えにはなかなか大胆なところが…
「いやね、どうなすったの。」…
「ここは人の休みに来るところね。休もうと思…
「あんとれ。」…
「あの山は鉄ばかりだから雷が集って来る。戦…
「あなたも俳句お作りになるといいわ。」…
「塩野さんも去年そこの氷河を渡ったとか、仰…
「お疲れになったら、あたしが先に行きまして…
「ここのことかしら、あたし、何んかで読んだ…
「どっかでサンドウィッチ食べましょうか。お…
「お疲れになって?」…
「もう撮りましたよ。どうぞ。」…
「まだかな、羊。」…
「よく降りましたね。」…
「ふん、どこからでも来い。」…
「いったい、知識に右でもない左でもない中間…
「あなたは?」…
「僕はこのごろ人を見ると、ひっかかりたくっ…
「しかしですね。ここに鰈と饂飩の栄養分の統…
「久慈君、もうしばらく議論をやめよう。折角…
「あなたは左翼にも右翼にも、本当に興味を感…
「やア、いつ帰った?」…
「しかし、僕らから理想がとれるか。理想をと…
「フロンポピュレール」…
「今夜はどういうもんか、論争がしたくて仕様…
「ああ気持ちが悪い、どっか、せいせいすると…
「このあたりはびっくり箱だね。」…
「ここの女は本物だぞ。まさかこれまで嘘じゃ…
「あ、ここはこれやお寺だ。」…
「おい、チロルはどうだった。」…
「お珍らしいな。旅行は案外早かったようです…
「久慈さんはほんとにお変りになったのね。何…
「こんなに静かな街の中でも、人の頭の中には…
「畜生。」…
「久しぶりだなア。」…
「大丈夫だよ。」…
「中国人というのはこのパリを見ていても、み…
「大丈夫なの?」…
「はア、もうイタリアではボラれたボラれた。…
「僕らはまだ若いから分らないのかもしれない…
「沖さん、矢代はね、なかなかこ奴不良になら…
「自分の青春をパリで送ったものは、極楽へい…
「君、なんて云うの。」…
「仰言いよ。何んです。」…
「でも、切符は今からじゃないと間に合わない…
「あなたがピエールという人と行くのなら僕も…
「やア。」…
「はだかん坊の中で議論するとは見ものだろう…
「それはそうと、東野さん、久慈は二三日行方…
「御用意できて、あら。」…
「本当の椿姫の生きていたのは千八百四十二年…
「椿姫まだ見えないわね。」…
「後からついて行きましょうか。」…
「お一人なの。」…
「真紀子さんまだ?」…
「もういかなくちゃいけないわ。幕よもう。」…
「御免なさい。ひとり抛っといて。高さんに面…
「駄目だな、行っちゃ。」…
「やっぱりここが一番いいや。のんびりとする…
「君の恋人何んだかしきりに云いわけしとるぞ…
「云うのを忘れたが、今夜オペラへ真紀子さん…
「昨夜はよくお眠みになれて?」…
「ホテルへはもう一度お帰りになるの。」…
「ロンドンのお兄さんから、何かお便りあった…
「ここは疲れたときにはいいのね。どうしてこ…
「もうすぐ巴里祭ですが、あそこの無名戦士の…
「これみんな前には馬車だったのね。そのころ…
「いつかの夜、あの島の中で道に迷ったときは…
「一寸待ちなさいよ。これやみな蕨ですよ、素…
「君、これは後へも帰れなければ、前へも行け…
「ほんとに失敗ね、御免なさい、こんな所へお…
「これや、冗談じゃない。とても駄目だ。」…
「テニスの音ね。どっちかしら。」…
「ピエールさんね、日本へいらっしゃるんです…
「昨夜、高さんに会ったんだってね。」…
「しばらく。」…
「それはそうと、日本と中国の問題、大使館の…
「吾人は須らく現代を超越すべし、というわけ…
「ああ、不幸が一つ増したぞ。」…
「これや、どっちも十九世紀初頭の猛者だった…
「一つ出来たぞ。」…
「どうです東野さん。俳句でも作りましょうや…
「このお寺はいつごろの産かしら、十四世紀?…
「今日はこれや、死にそうだ。君たちも来てく…
「おお、恐わ。何か出て来たんだと思ったわ。…
「どこまで昇ったらいいんだ。まだか。」…
「あら、塩野さん危い、あんなとこ撮ってらっ…
「どうも分らん。ノートル・ダムを見てから、…
「分らなくなったところへ、これか。」…
「どうもこの部屋へ来ると、自分の部屋のよう…
「あなたさっき、何んだか分らなくなったって…
「いらっしゃるのよ。ここへ。」…
「ゆうべ矢代があなたにお会いしたとか云って…
「高さん、あなた覚えてらっしゃるかしら、沖…
「日本人のインテリというのは、高さんたち中…
「どうも、おかしいぞ今夜は。酔ったのかな。…
「だって、そんな面白いお話はないわ。おお面…
「あたしが差してあげますから、じっとしてら…
「僕、久慈だ。久慈。」…
「今夜は真紀子さんと僕、お話にならぬことが…
「ああ、もう眠い。帰ろう。」…
「まったく考えれば馬鹿馬鹿しいと思うんだが…
「むかしのよしみですからね。だって、僕はこ…
「何んだかどうも僕の云い方がへんなんだね。…
「真紀子さんいらしって?」…
「君、今日はこれから矢代と会うの。」…
「もう一つ二つ作ってあなたから東野さんに見…
「まだ俺は美しさが好きなんだ。こんなに美し…
「真紀子さん、今日はどんな御容子でして?」…
「噴水を見ているというのは実に面白いものだ…
「もうお帰りになるの。あたしも帰りたい。」…
「ロンドンへはそのうち僕も行ってみたいと思…
「いや、それは何より土産だから買って帰りな…
「僕らがこうしてパリの街を歩いていて、ふと…
「それはそうと、千鶴子さんいつ帰ることにな…
「失礼なことお訊きするようですが、あなたは…
「円周率は三コンマの何んとかじゃ割り切れん…
「いやに閑静だね。」…
「いやに静かだね。気味が悪いや。」…
「君のいうように、どこの国でも通用するのは…
「サンゼリゼの方、三時半だって?」…
「東野さん、人民戦線なんか御覧になりたくな…
「やア、ひどい目に会った。」…
「いや、どうも、殴られた殴られた。痛いやま…
「おう、おう。」…
「もうこの街も二度と見られないかもしれない…
「それでは明日はお疲れだから、今夜はこれで…
「あたしの帰るときに、どうしてまたそんなこ…
「さア、もう僕も帰りましょう。こんなにはし…
「もうパリはこれで見おさめだから、よく見と…
「君、昨日殴られたんだって?」…
「どこの子です。この子。」…
「しかし、わたしはたしかにT社から頼まれた…
「これは預っときます。」…
「矢代耕一郎さんいませんかア――矢代耕一郎…
「もうじき涼しくなるが、まだ暑さは相当つづ…
「幸子はだいぶ良くなりましたよ。今夜も来た…
「やア。珍らしい人だね。」…
「僕は君らの一番いやがる人間になっているの…
「絵は見たか?」…
「あなたお金足りたの。先日も三千円ばかり送…
「もう外国へ行くのは、あたしこりこりしまし…
「そうだなア。」…
「東京は初めて行ったの?」…
「栄えるためには、人は何ものかに殺されねば…
「東野さんその後どうしてました。あの人も、…
「あの巴里祭のとき、君が殴られながら撮った…
「千鶴子さん、来るそうですよ。どうもしかし…
「どうだったアメリカは?」…
「いつお帰りになりました。」…
「それはそうと、男爵は日本へ帰るつもりがあ…
「僕はこのごろ、日本の中を旅してみたくて、…
「真紀子さんからその後お便りありましたか。…
「どうです、このごろは。あッ、そうだ、今日…
「千鶴子さん、あなたお疲れになったでしょう…
「あたしこんなに幸福でいいのかしら。こんな…
「毎日何をしてらっしゃる。このごろ?」…
「何んだか、あなたがカソリックだのに、僕が…
「今はむかし、という言葉があるでしょう。僕…
「一度、僕にその侯爵を見せていただけません…
「あなたがここの切符を買って下さったという…
「ね、君、今日もまただが、千鶴子さんのこと…
「もう暫くすれば君ともお別れだね。」…
「しかし、千鶴子さんの熱は、あなたのと同じ…
「どういうものだか君、日本にいなかった間だ…
「いま幾時。」…
「自炊してらっしゃるようでしたけど、お続き…
「しかし、仕方がないじゃないか。今はこっち…
「いいお湯でしたわ。お入りになりません。」…
「明日のお昼に矢代さん、あたしたちに御馳走…
「あら、雪がやんだわ。あなたの山小屋ここか…
「あなた風邪はひきませんでしたか。昨夜は少…
「千鶴子さん、まアここへおかけなさい。御馳…
「僕の知人で一人、日本へ帰ると一ヵ月東京に…
「まア、それぞれ、お好きなものからめし上っ…
「あなたのプウレオウリ、思い出すわ。この方…
「しかし、あなたもう一度行くのそれだけはお…
「あたしたち、明日の朝帰ろうと思いますの。…
「お父さんの方はどうですか。」…
「しかし、僕は失望はしていないのですよ。一…
「ああでなくちゃ駄目だ。あの子はきっと出世…
「僕たちは人より一つ、余計なことで苦しまね…
「じゃ、古神道って、カソリックも赦して下さ…
「あら。」…
「あれからよく眠れましたか。」…
「どうも写真というものは実物を考えさせて困…
「あなた、今日はどうなさるの。あたしたち今…
「御招待いらっしゃることになりまして。」…
「いいなアこれは。」…
「どうも遅くなりました。」…
「じゃ、作曲は今でも毎日されるんですか。」…
「矢代さん、東野さんとお会いになりまして。…
「どうもこんなことは面倒くさいが、して置く…
「私は――実は、私もそこを一番知りたいので…
「僕はやはり科学の合目的性を信じるんですよ…
「綺麗なお庭ですことね。」…
「やはりわれわれに難しいのは、科学のことだ…
「そいつは面白いなア。」…
「それは十六世紀のカソリックの政治が悪かっ…
「皆黙りこんでしまったなア。みっちゃん、そ…
「そのうちわたしは旅に出ますからね。そこへ…
「しかし、僕は困りましたよ。お父さんがむか…
「お父さんが久木さんの会社にいたのは、幾つ…
「赤い襯衣を着る年だとか、云ってられたよう…
「お父さんの苦労がそう僕に分っちゃ、うっか…
「お父さんまだ温かいわ。もう一度お医者さん…
「お父さんお幾つでしたの。」…
「突然ということは、突然に来たにしても、や…
「これでやっと、まア、すみました。」…
「兄さん告別式のとき玄関で一寸物を云った方…
「僕はね、昨夜も叔父から結婚をすすめられた…
「宇佐美、もう行くこと云うなよ。」…
「船がここの港のあの灯台のところまで入って…
「あなたはどうでしたか、僕は、外国の旅とい…
「とにかく、あれは世界戦争の始まりだよ。も…
「君、僕はいま非常に気持ちが良いのだよ。わ…
「そういえば、世界の都会のうちで、一番愉し…
「僕の大学時代の学友で、数学の専門家があっ…
「一番静かなものの中が、一番論争が激しいと…
「平尾さんのお嬢さんはパリでお生れになった…
「そうそう、久木さんにさきからお訊きしたい…
「面白うてやがて悲しき鵜舟かな。」…
「君、今晩ここで泊ってらっしゃいよ。先日お…
「じゃ、ここで失礼しよう。さようなら。」…
「今夜の東野さんは凄かったね。本当の平和は…
「あれがね、でもないよ。君は知らないからね…
「じゃ、この一ぱいだけはピエール氏のために…
「この子はわがままな子なもんですから、皆さ…
「千鶴子さん、何か他になかったかしら、こん…
「お母さん、もうお寝みになって下さいよ。」…
「はい。お手紙。」…
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「本当ですかね、お母さんのことなどあんなに…
「いつがいいかな。」…
「さア、行きますか。」…
「まア、いつの間にかそんな風になったのだな…
「実はそれでお願いがあるのですよ。」…
「とにかく、諸君は人に気骨を折らせるお二人…
「眉子山房も真紀子さんの弟子だと容易じゃな…
「それじゃ、筆と紙とならたいへんですのね。…
「あなたもクリスチャンですか。」…
「いまお呼びしようかと思ってたところよ。」…
「どうしたの、兄さん。」…
「どうも有りがとうございました。」…
「あたくしは慶んでよいのでしょうか、悲しん…
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「虚無的になれば、どんなに深かろうと結局は…
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