横光利一 『旅愁』 「いったい、この懐石料理というのは、どうい…

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現代語化

「そもそも、この懐石料理って、どういう意味なの?名前だけど」
「それはね、河原の石を集めて、獲ったばかりの魚を焼いて、そこで食べるのが一番ってことだよ」
「じゃあ、野蛮人の名残りだね」
「でも、盆栽みたいに陶器で包んで丸めてあるでしょ。ここまで来るのも、かなり長い旅をしてるよ」
「こんなもの食べてたら、戦争には負けるね」
「でも誰もが、良いタイミングで帰ってきたよ。これからはどこの国の歴史も、知らないところを旅するんだからね。僕らはまァ間に合って、それが何より良かった。君もそうだろ」

「僕はパリでは、君に当たり散らして失礼したけど、もうそんなことはしないよ。当時は本当失礼したね。僕らもいろいろ大変だったし、楽しかったりしたけど、考えてみると、なんだかよくわからないね。君もだろ」
「うん」
「それでいいんだよ。わかったら嘘みたいだろ。事物の自然化だとか、科学化とか、そんなこと言ってる暇に僕らの生命力は、誰やら知らないけど、榴散弾みたいに進んでいく。同じことは2度と繰り返さないよ。ただ新しくなるだけだ。西洋が良いとか、東洋が良いとかさ。ねえ、君。僕は最近妻を亡くしてね、このごろになって初めて、空の美しさってのが分かってきたんだ。人生50年、空の美しさだけがやっと分かった。後は空虚なだけさ」
「今夜の比谷の講演では、それについて話せば?」
「いや、まだ考えてない。それより、僕は君に褒めてもらいたいことがあるんだ。君から預かったものを、何も壊さずに日本まで持って帰ってきたんだよ。君はそんなもの、もう忘れたかもしれないけど、それは僕の知ったことじゃないさ。でも、君との約束を守ったことは、忘れないでくれたまえ。それでいいだろ。人生で必要なのはそれだけだよ」

原文 (会話文抽出)

「いったい、この懐石料理というのは、どういう意味だい。名前だよ。」
「それや、河原の石を集めて、漁ったばかりの魚を焼いて、そこで食うのが一番だということさ。」
「じゃ、野蛮人の名残りだな。」
「しかし、盆栽みたいに陶器で包んで丸薬にしたんだからね。ここまで来るのも、相当永い旅をしているよ。」
「こういうものを食っちゃ、これや、戦争には負けだ。」
「誰もしかし、良い潮どきに帰って来たよ。これからはどこの国の歴史も、見知らぬところを旅するんだからね。僕らはまアやっと間にあって、先ず何よりそれが良かった。君もだ。」
「僕はパリじゃ、君にぽんぽん当り散らして失礼したが、もうあんなことはやらないよ。当時は実際失礼した。随分僕らは苦しかったり、愉しかったり、しかし、考えてみると、何んだかよく分らないね。君もだろ。」
「うむ。」
「それで良いのだよ。分ったら嘘だ。事物の自然化だとか、科学化だとか、そんなことを云ってる暇に僕らの生命力は、誰やらじゃないが、榴散弾みたいに進んでゆく。二度と同じことを繰り返さないよ。新しくなるばかしだ。西洋が良いの、東洋が良いのといったところで。おい、君、僕は近ごろ女房を亡くしてね、このごろじゃ、空というものの美しさが初めて分って来たのだよ。人生五十年、空の美しさだけがやっと分った、後は空空漠漠、――」
「今夜の日比谷の講演は、それをやりなさいよ。」
「いや、まだ考えちゃいない。それより、僕は君に賞めてもらいたいことがあるんだよ。僕は君から預って来たものを、破損もせずちゃんと日本まで持って帰って来たんだからね。君はそんなもの、もう忘れたというかもしれないが、それは僕の知ったことじゃないさ。しかし、君との約束を重んじたことだけは、忘れないでくれたまえ、それでいいだろう。人生で必要なものはそれだけだ。」

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