横光利一 『旅愁』 「日本のお寺の壁画は、まア、地獄極楽の絵が…

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「日本の寺の絵は地獄極楽の絵ばっかりだけど、こっちはヨーロッパ人が野蛮人を征服して十字架差し出してるとこばっかりだね。こんな絵見せられると祭壇も生々しくなって、すぐに出て行きたくなるけど、当時は誰も東洋人がこんな絵を見るなんて思ってなかったんだな。」
「あたし、この間パリ観光してて、フランスのいいところも怖いところも、やっぱりこの国の歴史なんだなって思ったわ。でも、それなら日本にもあるんだって思うと、パリもそんなに怖くなくなってきたの。もし日本で歴史がなくて、あたしがこっちに来たら、どんなに惨めな思いをしなきゃいけなかったのかしら。」
「そうですよ。でも、クジはそれを言うと怒るんですよ。あの人は僕らを黙って元気づけてる日本の歴史まで認めないから、困っちゃう。」
「でも、クジさんだって、口ではあんなこと言ってても、先日もあたしに『パリもいいけど日本もいいよね』って言ったあと、『こんなこと、矢代君には言えないよ』って仰ってたわ。藤田嗣治さんの絵見てるときでした。やっぱりそうよ。あの方だって。」
「藤田嗣治はパリに来て初めて豪傑なんだなって思いますよ。よくあんなにこの街を引っ掻き回せたもんだって。」
「女の人の線が牡丹の花びらみたいに見える絵よ。それがね、それが面白いんですのよ。」
「あら、雀まで来てるわ。かわいいこと。見てごらんよ。」

原文 (会話文抽出)

「日本のお寺の壁画は、まア、地獄極楽の絵が多いですが、こちらのお寺の壁画は、ヨーロッパ人が野蛮人を征服して、十字架を捧げている絵ばかりですね。僕らはあんな絵を見せられると、聖壇もいやらしくなって、すぐ出て来たくなって困るが、あのころは、誰も東洋人にあんな絵が見られようとは思わなかったんだな。」
「あたし、この間からパリを見物して、フランスのいい所や恐ろしい所は、やはりこの国の伝統だと思いましたわ。でも、それなら日本にだって有るんだと思うと、パリもそんなに恐くなくなって来たの、もしこれで日本に伝統がなくって、あたしこちらへ来たんだったら、どんなに惨めな思いをしなければならなかったかしらと思うわ。」
「そうですよ。ところが、久慈君はそれを云うといやがるんですよ。あの人は僕らを無言の中に勇気づけてくれている日本の伝統まで認めようとしないんだから、困ってしまう。」
「でも、久慈さんだって、口でだけあんなに仰言っていらっしゃるのよ、先日もあたしに、パリもいいけれども日本もいいなアって仰言ってから、こんなこと、矢代君にはうっかり云えないがってそう仰言ったわ。藤田嗣治さんの絵を見てるときでしたの。やっぱりそうよ。あの方だって。」
「藤田嗣治はパリへ来てみると初めて豪いもんだと思いますね。よくあれだけこの都をひっ掻き廻したものだと思う。」
「女の人の線が牡丹の花びらのように見える絵よ。それがね、それが面白いんですのよ。」
「あら、雀がこんな所まで来たわ。可愛いこと。御覧なさいよ。」

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