横光利一 『旅愁』 「吾人は須らく現代を超越すべし、というわけ…
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GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
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青空文庫図書カード: 横光利一 『旅愁』
現代語化
「俺らって、現代を超えちまうべきじゃねぇの。この家みたいに。」
「マジだなぁ。久慈くん、募金箱あそこにぶら下がってるじゃん。」
「いや、あれ空だ。」
「でも、横に置いてあるよ。」
「東野さん、俺ばっかイジるけど、俺そんなに気に食わねぇ?」
「だって、お前の現代を超越しなさすぎ。」
「もっとマジメな話してよ。」
「マジだよ。日本人ってのは、全員一度は現代を超越してきたのが伝統だから、俺が言ってるのが冗談に聞こえるんだ。」
「そうか。超越したあとが、俺ら日本人の課題ってことか。」
「でも、現実じゃ、俺らそんなに簡単に超越できねぇよな。そこに苦しみってやつが生まれるんだろ?」
「そうなんだよ。日本人の伝統が、たとえ現実を超越したものだとしても、西洋から入ってきてもんが超越したもんじゃなかったら、俺ら無視できねぇだろ。できねぇんだから。どっちも一番小さい共通点ってやつは、大事にしなきゃダメだ。それを大事にせずに、俺ら近代人に何の誇りがあるっていうんだ。何の意味があるっていうんだ。」
「でも、一番小さい共通点の単位ってのは一だろ。一の質が全然違ったらどうすんだよ。」
「一の違うわけねぇだろ。一が違えばそこから出てくる抽象的なもんも全部違う。それじゃ世界成り立たねぇよ。一ってのは自我だ。自我を信じずに、俺ら一体何を信じるんだよ。」
「お前は自我より一の方が大事なんだよ。もし本当に自我を信じるなら、日本人である自分を信じるはずだ。でもお前は、日本人を信用したことなかっただろ。共通点ばっか信用して、それが自我だと思ってる。じゃあ、お前の自我はどこなんだ。お前の中の日本人はどうした?」
「俺は日本人だからこそ一を信じるんだ。一を信用しない日本人は、日本人じゃねぇ。」
「じゃあ、一と一を足したらなんで二になるんだよ。」
「何だよそれ。」
「何でもないよ。幼稚園児でもわかることだ。一と一を足したらどうして二になるのかって話だよ。二にする何かがお前の中にあるだろ。その、するやつが自我じゃないか。それは一でも二でもねぇ。子供だけが欲しいってやつだ。」
「そんなもんいらねぇよ。」
「何だ。朝帰りしたやつが戸袋蹴飛ばしてるみたいだな。」
「ふん、猫がいくらガラス箱に爪立てたって、ダメだよ。」
「おい、勘定。」
「おい、塩野くん、塩野くん、ちょっと待ってよ。」
「ノートルダムだよ。後からでも来なさい。」
「ノートルダムに行こう。あそこの方が白系よりいいや。」
「よし、俺も行くぞ。」
「じゃあな。」
「やぁ。」
原文 (会話文抽出)
「吾人は須らく現代を超越すべし、というわけにはいかんのかね。ここの家みたいに。」
「それや真面目だよ。久慈君、寄附金の箱があそこに下ってるじゃないか。」
「いや、あれは空だ。」
「しかし、横になってるぞ。」
「東野さん、あなたはこの間から、僕ばかりやっつけるが、どうしてそんなに僕が気に食わぬのです。」
「それや、君があんまり現代を超越しないからさ。」
「いや、もっと大真面目な話でですよ。」
「冗談じゃない。日本人は誰だって、一度は現代を超越してしまったのが伝統なんだから、僕の云うのが冗談に見えるんだ。」
「それやそうだ。超越してから後の問題が、僕ら日本人の問題だ。」
「しかし、現実じゃ、僕らはそう無暗と超越するわけにはゆかんですよ。そこが苦しみという奴じゃないか。」
「そうでしょう。日本人の伝統が、かりに現実を超越したものだとしたって、西洋から這入って来たものが超越したものじゃないなら、僕らは知らぬ顔の半兵衛出来ますかね。出来なけれや。どっちもの最小公約数というものは、大切にしなきゃならん。これを大切にせずに、僕ら近代人に何んの誇りがあるというのだ。何んの意義があるというのだ。」
「しかし、最小公約数の単位は一だ。一の質がどこだって違ったらどうする。」
「一の違う筈がない。一が違えばここから出て来る抽象性というものは皆違う。それなら世界は成り立たん。一とは自我だ。自我を信用せずに、何をいったい僕ら信用するのだ。」
「君は自我より一の方を信用してるのだよ。もし自我を真に君が信用するなら、日本人という自分を信用するに定っているのだ。ところが君は、日本人を信用したことがない。公約数ばかしを信用して、それが自我だと思っている。そんなら、君の自我はどうしたんだ。君の中の日本人はどうしたのだ。」
「僕は日本人ならこそ一を信用するのだ。一に信頼を置かぬ日本人なんか、日本人じゃない。」
「そんなら、一と一とよせるとなぜ二になるのだ。」
「何んだそれや。」
「何んでもないさ。尋常一年生だって出来ることだ。一と一とよせるとどうして二になるのかというんだよ。二にするものが君の中にあるだろう。その、するものが自我じゃないか。これは一でもなければ二でもない。子供だけは欲しいというものだ。」
「そんなもんいらんよ。」
「何んだ。朝帰りが戸袋蹴ってるみたいな声出すな。」
「ふん、猫がいくらガラス箱へ爪立てたって、駄目だよ。」
「おい、勘定。」
「おい、塩野君、塩野君、一寸待ちなさいよ。」
「ノートル・ダムだよ。後からでも来なさい。」
「ノートル・ダムへ行こう。あそこの方が白系よりやいいや。」
「よし、僕も行くぞ。」
「サヨウナラ。」
「コンニチハ。」
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