横光利一 『旅愁』 「あたしの帰るときに、どうしてまたそんなこ…

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青空文庫図書カード: 横光利一 『旅愁』

現代語化

「私が帰るときに、どうしてまたそんなこと言ったのよ。あなたがいつもそんなこと思ってらっしゃるのが、何だか嫌な気持ちよ。毎日あんなに楽しかったのに――」
「そこが問題なんだよ。俺だって同じだよ」
「私は前からこんなこと気づかれるんじゃないかって、いつもドキドキしてたのよ。何も私とあなたが特に二人にとって、間違ったことしてると思ってないわよ。だけど、どう言っても、ここは外国でしょ。だから、私達も島流しになった二人みたいで、私達の心が通じるのは広くても3、4人でしょう。それなら、親切にしたり喧嘩したりするのは当たり前で、檻の中の友達みたいなものだから、こいつらがそれぞれ日本へ帰って自由になったら、島流しになってたときと同じ心でいるわけじゃないと思うの。それも無理に島流しになってるこんなときを、大切にしてるならともかく、それだって、帰れば周りの奴らがそのままにしておくもんじゃないでしょ。だから、それを考えると、もっとあなたを自由にしておかないと、いつかあなたが私を恨むようなときが必ず来るんじゃないかと、実はまあ、あなたの困ることばかり考えて、不吉な話もしたわけ」
「そんなこと――まあ、あなたって何て用心深い人なの!私、本当に感心しちゃったわ。でも、怖い人だわあなた」
「私はとてもあなたみたいに考えられないわ。私は間違ってたと思えないけど、でも、あなたがそんなに思ってらっしゃるのでしたら、私は何を言っても駄目かもしれないわ」
「そんなことをいつも考えてらっしゃれば、あなたみたいになっちゃうのね。でも、私はそんなこと、もっと簡単に考えてるのよ。そんなこと、いくら深く考えたって、それは駄目なことだと思うの。ここで起きたり思ったりしたことは、私は一番変わらないと思うの。本当にそう思うわ」
「それは、あなたがカソリックだからでしょ。そこが私と違うんだよね」
「あなたは物事を考えるのに、ヨーロッパを基準にして考えてるのよ。でも、私はやっぱり日本を基準にして考えてるからね。それだけはどうしようもないものだと思うよ」
「じゃ、日本へ帰ってから違うのは、やっぱりあなたの方が違うわけね。私の今の考えの方が正しいわけだわ。きっと私のほうが正しくてよ。私はあなたが変わっても私が変わらないと思う。きっとあなたの方が変わると思うわ」
「とにかく、そんなことは言っても始まらないことばっかりだからね。そこだよ。私がこんなに用心深いのは」

原文 (会話文抽出)

「あたしの帰るときに、どうしてまたそんなこと仰言ったのかしら。あたし、あなたがいつもそんなこと思ってらっしたのが、何んだかしらいやアな気持ちよ。毎日あんなに楽しかったのに――」
「ですからそこじゃないですか。僕だって同じですよ。」
「僕は前からこんなことを気づかれはしないかと、いつもびくびくしてたんですよ。何も僕とあなたが特に二人にとって、間違いなことをしているとは少しも思っちゃいないですよ。けれども、何んと云ったところで、ここは外国でしょう。ですから、あなたも僕も島流しになった二人みたいで、僕たちの心の通じるのは広くたって三人か四人でしょう。それなら、親切にしたり喧嘩をしたりすることは当然なことで、檻の中の友人のようなものだから、これらのものがそれぞれ日本へ帰って自由な身になったら、島流しになっていたときと同じ心でいるわけはないと思うのです。それも無理に島流しにあっているこんなときを、大切にしているならともかく、それだって、帰れば周囲のものがそのままにさせておくものじゃないんですからね。ですから、それを僕は考えると、もっとあなたを自由にさせておかないと、いつかあなたが僕を恨むようなときが必ず来るんじゃないかと、実はまア、あなたの困るときばかりを想像して、不吉なお話もしたわけです。」
「そんなこと――まア、あなたは何んて用心ぶかい方なんでしょう。あたし、本当に感心してしまったわ。でも、恐ろしい方だわあなたは。」
「あたし、とてもあなたのように考えられないわ。あたし、間違っていたと思えないんだけれど、でも、あなたがそんなに思ってらっしゃるのでしたら、あたし、何を云ったって駄目かもしれないわ。」
「そんなことをいつも考えてらっしゃれば、あなたのようになるのね。でも、あたしはそんなこと、もっと簡単に考えていましてよ。そんなこと、いくら深く考えたって、それや駄目なことだとあたし思うの。ここで起ったり思ったりしたことは、あたし一番変らないと思うの。本当にそう思うわ。」
「それは、君はカソリックだからでしょう。そこが僕と違うのだなア。」
「あなたは物事を考えるのに、ヨーロッパを基準にして考えているのですよ。しかし、僕はやはり日本を基準にして考えてますからね。それだけはどう仕様もないものだと思うな。」
「それじゃ、日本へ帰ってから違うのは、やはりあなたの方が違うわけね。あたしの今の考えの方が正しいわけだわ。きっとあたしの方が正しくってよ。あたし、あなたが変ってもあたし変らないと思う。きっとあなたの方が変ると思うわ。」
「とにかく、そんなことは云ったって始まらないことばかりですからね。それですよ。僕がこんなに用心ぶかいのは。」

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