横光利一 『旅愁』 「おい、チロルはどうだった。」…

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青空文庫図書カード: 横光利一 『旅愁』

現代語化

「おい、チロルはどだった」
「うむ」
「うむか。まあ、そういうとこか」
「氷河はいいよ」
「氷河のことじゃないよ」
「じゃあ、何だ」
「お前は馬鹿な奴だ。あれほど忠告したじゃないか。結婚しなさいって。君の日本主義は幼稚だけど、君は僕にとってかけがえのない人だ。千鶴子さんと結婚してしまいなさいよ。じゃないと、日本に帰ったら、きっと君とあの人とはもう会うことはないだろう」
「僕の日本主義がどうして幼稚だ。日本人が日本主義になるのは当たり前の話だろ」
「幼稚だよ君のは、そんなもんをここで威張ってみたって、一体このパリで誰が真似してる」
「真似の出来る奴が、誰がいたって」
「こやつ」
「真似のできない商品を出して、成功した例があったか、真似させてこそかっこいいんじゃないか」
「じゃあ、君は何の真似してるんだ」
「僕は世界の真似をしてみせてやってるだけだ。真似一つもできずに威張ったところで、それって、真似できないってことだよ」
「いつまで猿まねだ」
「真似できないならできるまで一度やってみろ。それが修行というものだ。僕らがここのこの坂をせっせとこうして登ってるのは、何のためだ。君は真似も一つせずに、この急な坂が登れると思うのか。ふん、ここは胸突坂だぞ。それも世界の胸突坂だ。もっと胸を突かれて修行しろ、しろ。チロルで一体何を君はしてたんだ」
「君は歴史という人間の苦しみを知らんのだ。日本人が日本人の苦しさから逃げられるか。逃げるなら逃げてみろ」
「おい、ちょっと、やってるよ」

原文 (会話文抽出)

「おい、チロルはどうだった。」
「うむ。」
「うむか。まア、そう云ったところか。」
「氷河はいいよ。」
「氷河のことじゃないよ。」
「じゃ、何んだ。」
「お前は馬鹿な奴だ。あれほど忠告したじゃないか。結婚をしなさい結婚を。君の日本主義は幼稚だけれども、君は僕にとっちゃかけ替えのない人だ。千鶴子さんと結婚してしまいなさいよ。じゃなくちゃ、日本へ帰ったら、きっと君とあの人とはもう会うことはないにちがいない。」
「僕の日本主義が何ぜ幼稚だ。日本人が日本主義になるのあたり前の話だろ。」
「幼稚だよ君のは、そんなものなんか、ここで威張ってみたって、いったいこのパリで誰が真似してる。」
「真似の出来る奴が、誰がいるのだ。」
「こ奴。」
「真似の出来ん品物を売り出して、成功したためしがあったか、真似さしてこそ豪いんじゃないか。」
「じゃ、君は何んの真似してるんだ。」
「僕は世界の真似をしてみせてやってるだけだ。真似一つ出来ずに威張ったところで、それや、真似が出来んということだよ。」
「いつまでの猿真似だ。」
「真似出来んものなら出来るまで一度してみろ。それが修業というものだ。僕らがここのこの坂をせっせとこうして登っているのは、何んのためだ。君は真似も一つして見ずに、この急な坂が登れると思うのか。ふん、ここは胸突き坂だぞ。それも世界の胸突き坂だ。もっと胸を突かれて修業しろ、しろ。チロルでいったい何を君はしてたのだ。」
「君は歴史という人間の苦しみを知らんのだ。日本人が日本人の苦しさから逃げられるか。逃げるなら逃げてみろ。」
「おい、一寸、やってるよ。」

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