横光利一 『旅愁』 「あなたはサロンへなんか出這入りするように…

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青空文庫図書カード: 横光利一 『旅愁』

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「あなたもサロンとかに出入りするようになっちゃったら、俺たちと話にくくなるよ」
「そんなものかしら。でも、あそこに出入りしてる男性たちは、大変そうよ。私たち女性はただ座ってればいいけど、男性は家に帰ると骨なしみたいにくたくたになってるらしいよ」
「塩野さんとか、あの手のサロン術はうまいんですか?」
「あの人は気楽だから、どこでもテキパキやってるわよ。向こうのお嬢さんたち、会ったら頬にキスするでしょ。そういうときでもちゃんと上手に顔を差し出して、サロンの女性たちをマドモアゼル〇〇って呼び捨てで、必要ないのにサロンを持ったりしてるの。マドモアゼルを外して呼び捨てにするようになるまでには、1年はかかるんだってよ。そういうサロンを1つ作るたびに、『また陥落させたぜ!』ってはしゃいでるのよ。おかしいでしょ」
「つまり、サロンを落とすのが仕事なんですか?」
「そう。だから、あの人たちが日本人に不満を持ってるのは、日本人が大使館員を冷たく扱うからなんだって。こっちとしてはサロンを落とすのに必死だから、そんなの構っちゃいられない。『城を落とすようなものだよ。疲れる!』って言ってるわ。私も納得したわ」
「確かに、日本人の面倒を見るのは領事の仕事だもんね。大使館員がサービスまでしてくれるわけじゃないだろうし」
「それに言葉も、モンパルナスあたりで使うようなのをサロンで使うと、相手にしてもらえなくなるんだって。だから、言葉が上手になればなるほど、自分の言葉の欠点に気づいて不安になって、それで神経衰弱になるんだって」
「なるほど」

原文 (会話文抽出)

「あなたはサロンへなんか出這入りするようになられちゃ、僕たち話し難くなりますね。」
「そんなものかしら、でも、あんな所へ始終いってる男の方たちは、気骨が折れると思うわ。あたしたち女はただじっとしてればいいんだけど、男の方は家へ帰ると、もう骨なしみたいに、ぐったり疲れてらっしゃることよ。」
「塩野君なんか、あれでサロンの技術は上手いんですかね。」
「あの方は気軽な方だから、どこでもさっさとやってらっしゃいましてよ。向うのお嬢さんなんか、逢ったとき頬へ接吻するでしょう。あんなときでも上手にちゃんと顔を出してらっしゃるし、サロンのお嬢さん方をマドマアゼル何何なんて呼び方で、呼ばなくってもいいようなサロンも幾つも持ってらっしゃるの。マドマアゼルを除けて相手を呼ぶようになるのには、どうしても一年はかかるんですってよ、あの方たち、そんなサロンを一つ造ってくる度びに、さア今日は一つ落して来たって云って、はしゃいでらっしゃるのよ。おかしいってないの。」
「つまり、サロンを落すのが仕事なんですか。あの人たち。」
「そうなの。ですから、あの方たち、日本人に不平を云ってらっしゃるのはね、日本人が大使館員を冷淡だと怒ったってこっちはそれどころじゃない、一つサロンを落すのだって、城を落すようなもので、疲れて疲れて溜らないってこぼしてらっしゃるのよ。あたしも、無理がないと思いましたわ。」
「それや、そうだな、日本人の心配を引き受けるのは領事の方の仕事だから、日本人のサービスまでいちいちしておられないだろうからな。」
「それに言葉だって、モンパルナスあたりの言葉を一寸でもサロンで使おうものなら、もう相手にしてくれないんですって。ですから、言葉が自由になればなるほど、一層自分の言葉の欠点が分って不安になるので、それで神経衰弱になるんだと仰言ってたわ。」
「ふむふむ。」

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