横光利一 『旅愁』 「お父さんお幾つでしたの。」…

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青空文庫図書カード: 横光利一 『旅愁』

現代語化

「おいくつだったんですか？」
「71でした。」
「そうだったんですね。今日お写真拝見して、もっと早くお会いしておけばよかったと思いました。」
「僕も会わせてあげたかったんですけどね。――そうそう、今日お手紙ありがとうございました。まだ忙しくて、読んでないんです。」
「こんな時に差し上げて、いけなかったんじゃないかと思って。あれはもう読まずに破いておいてください。」
「どうして？」
「変なんです。おとうちゃんが悲しんでいる時に、あんなこと書いて。」

原文 (会話文抽出)

「お父さんお幾つでしたの。」
「七十一でした。」
「まア、そう、今日お写真を拝んで、あたしもっと早く、お目にかかっとけば良かったと思いましたわ。」
「僕も残念なことをしたと思いましたね。父には一度会っといて貰いたかったんだが、――そうそう、今日お手紙いただいて、どうもありがとう。まだ急がしくって、拝見してないのですよ。」
「こんなときさし上げて、いけなかったんじゃないかと心配だったの。あれもう御覧にならないで、破っといていただけませんかしら。」
「どうしてですか。」
「でも、何んだか変だわ。あなたのお悲しみのときなのに、あんなこと書いたりして。」

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