夏目漱石 『道草』 [Gemini]
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夏目漱石 『道草』
「時に姉さんはいくつでしたかね」…
「比田さんは近頃どうです。大分年を取ったか…
「それで姉さんの話ってえな、一体どんな話な…
「実はこの間島田に会ったんですがね」…
「私ゃ島田に二度会ったんですよ、姉さん。こ…
「あなたどうなすったんです」…
「まだ食気が出ませんね」…
「ありゃ何時だったかね。よッぽど古い事だろ…
「その名刺の名前の人はまた来るそうですよ。…
「なるほど」…
「どうせ御金か何か呉れっていうんでしょう」…
「それで素直に帰って行ったんですか、あの男…
「御前や御前の家族に関係した事でないんだか…
「この間二度ほど途中で御目にかかりましたが…
「芝というと、たしか御藤さんの妹さんに当る…
「本というものは実に有難いもので、一つ作っ…
「あなたまだ其処に坐っていらっしゃるんです…
「どこかへ行くのかい」…
「御兄さんは貴夫のために心配していらっしゃ…
「己も実は面白くないんだよ」…
「何か変った事でもあるのかい」…
「己は決して御前の考えているような冷刻な人…
「あの人ですか。――でも御留守でしたから」…
「貴夫どうしてその御縫さんて人を御貰いにな…
「健ちゃんの宅とこんな間柄にならないとね。…
「健ちゃんあれだから困るんですよ。口ばかり…
「比田さん比田さんって、立てて置きさえすり…
「少し変ですねえ」…
「どうもやっぱり立食に限るようですね。私も…
「しかし他事じゃないね君。その実僕も青春時…
「先ほど御留守に御兄さんがいらっしゃいまし…
「開けて見たって何が出て来るものか」…
「おやじは月々三円か四円ずつ取られたんだな…
「その縁故で貴夫はあの人の所へ養子に遣られ…
「あんまり古くなって、弱ったのね」…
「袴位ありそうなものだがね」…
「雌蝶も雄蝶もあったもんじゃないのよ貴方。…
「これが要るんでしょう」…
「先達ては」…
「送籍願が紛れ込んでいるなら、それを御返し…
「御幾年でしたかね」…
「自分も兄弟だから他から見たらどこか似てい…
「御常さんて人はその時にあの波多野とかいう…
「何しに来たんでしょう、あの人は」…
「御前はそう思わないかね」…
「御通し申しますか」…
「能く寐ているのね」…
「どうせ分っているじゃありませんか。そんな…
「好い紙入ですね。へええ。外国のものはやっ…
「貴夫が引っ掛るから悪いのよ。だから始めか…
「一体どの位困ってるんでしょうね、あの男は…
「放って置け?」…
「島田がそんな心配をするのも必竟は平生が悪…
「己が執拗なのじゃない、あの女が執拗なのだ…
「腹でも揉むのかい」…
「何もう好いんだ。寐てはいるが危篤でも何で…
「しかし己たち夫婦も世間から見れば随分変っ…
「女のくせに」…
「何か用でもあったのかい」…
「あんな汚ならしいもの」…
「所相応だろう」…
「何しろ電報が来ただけで、詳しい事はまるで…
「産婆は何時頃生れるというのかい」…
「何しろこう重苦しくっちゃ堪らない。早く生…
「御安産で御目出とう御座います」…
「蒲団は換えて遣ったのかい」…
「どうだ」…
「実際今度は死ぬと思ったんですもの」…
「産が軽いだけあって、少し小さ過ぎるようだ…
「女は子供を専領してしまうものだね」…
「貴夫何故その子を抱いて御遣りにならないの…
「ええ、針を持つのは毒ですけれども、本位構…
「そりゃ誰の着物だい」…
「つまり己の金で己が買ったと同じ事になるん…
「だから元は御姉さんの所へ皆なが色んな物を…
「そう損をしてまでも義理が尽されるのは偉い…
「あなたは年を取って段々御肥りになるようで…
「あの御婆さんは御姉さんなんぞよりよっぽど…
「段々暮になるんでさぞ御忙がしいでしょう」…
「また金でしょう」…
「永い間の事はまた緩々御話しをするとして、…
「一体どうしたんです」…
「そう頭からがみがみいわないで、もっと解る…
「変な子が出来たものだなあ」…
「何だい」…
「御前の宅の方はどうだい」…
「どうも分りませんね」…
「その縁故で今度また私が頼まれて、島田さん…
「まあ百円位なものですね」…
「相場に手を出したのが悪いんですよ」…
「どうも御忙がしいところを度々出まして」…
「また百円どうかしなくっちゃならない」…
「縁起はどうでも好いが、そんな高価いものを…
「どうせ高利なんだろう」…
「やっぱり御兄さんか比田さんに御頼みなさる…
「しかる上は後日に至り」…
「こっちの方は虫が食ってますね」…
「まあ好かった。あの人だけはこれで片が付い…
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