「大阪都」住民投票の結果分析

2015年5月17日に実施された大阪市の特別区設置住民投票の結果を分析します:

渡辺 輝人 氏のまとめ(辛坊治郎氏に贈る大阪市の住民投票結果の分析(渡辺輝人))から、
  賛成多数の区では、2・30代人口が65歳以上人口よりも多く
  反対多数の区では、2・30代人口が65歳以上人口よりも少ない
ことが言えます(例外は、天王寺区のみ)。

大阪市全体の出口調査の結果として、70代以上の反対比率が他の年代に比べて高かったです。

また、賛成多数の区が北部・中央部・東部に、反対多数の区が湾岸部・南部にきれいに分布しました。

以上を起点として調べた結果、以下が相関を持っていたことが分かりました:

(0) 反対率が高い区
(1) 特別区設置によって直接の経済的恩恵を受けない区
(2) 高齢者人口の割合が高い区
(3) 生活保護受給率が高い区

(1) 特別区設置によって直接の経済的恩恵を受けない区とは、例えば、主な開発対象になる都心(新大阪・キタ・ミナミ)から遠い区を指します。

(2)高齢者人口の割合が高い区とは、65歳以上人口が2,30歳代人口に比べて大きい区を指すとしました。資料: 辛坊治郎氏に贈る大阪市の住民投票結果の分析(渡辺輝人)

なお、辛坊治郎氏に贈る大阪市の住民投票結果の分析(渡辺輝人) (賛成率と高齢者率)では、区毎における賛成率と高齢者率の決定係数(相関係数Rの2乗値)は R^2=0.472 だったとしています。よって、反対率と高齢者率の相関係数Rは0.687 です。Rが0.7を超えると「強い相関」だと言われるので、反対率と高齢者率の間には、およそ強い相関があると言えます。

(3)生活保護受給率が高い区とは、生活保護受給率が40‰以上である区を指すとしました。資料: http://osharebantyoh.blog.fc2.com/img/20121022205703860.jpg/ *1

例外は、以下の4区だけです。

天王寺区: 
(2) 65歳以上人口が2,30歳代人口の0.67倍であり高齢者人口の割合が低く、
(3) 生活保護率20~40‰であり生活保護受給率が低いですが、
反対率 53.2%で反対多数でした。

浪速区:
(3) 生活保護率100~120‰であり生活保護受給率が高いですが、
反対率 47.3%で賛成多数でした。
(なお、賛成多数と相関がある(2) 65歳以上人口が2,30歳代人口の0.48倍であり高齢者人口の割合が低いという性質を浪速区はもっています。)

東淀川区:
(3) 生活保護率60~80‰であり生活保護受給率が高いですが、
反対率 48.8%で賛成多数でした。
(なお、賛成多数と相関がある(2) 65歳以上人口が2,30歳代人口の0.79倍であり高齢者人口の割合が低いという性質を東淀川区はもっています。)

西成区:
(1) 豊かな中央特別区の一員となり、中央特別区の行政中心となることにより、特別区設置により直接の経済的恩恵を受けますが、
反対率 53.25%で反対多数でした。
(なお、反対多数と相関がある(2) 65歳以上人口が2,30歳代人口の2.06倍であり高齢者人口の割合が高いという性質、(3) 生活保護率 220~240‰であり生活保護受給率が高いという性質を西成区はもっています。)

ここで、天王寺区と西成区に焦点を当てます。

天王寺区

前述の相関関係から2項目外れた天王寺区において反対多数であった理由として、私見ですが、文教地区である天王寺区の区民が、他の区よりも強い自尊心を持っており、中央特別区として他の中央特別区を構成することになる区と一体視されることに反対したのではないか、と考えます。天王寺区に投票率は、71.8%で、24区中2位でした。なお、投票率 1位は、天王寺区の隣の阿倍野区で、74.0%でした。商業エリアとしては、天王寺と阿倍野は一体的に捉えられますが、天王寺区は中央特別区、阿倍野区は南特別区に分かれていたことも、反対理由になったのかも知れません。

西成区

西成区は、
(2) 高齢者人口の割合が高い区 (65歳以上人口が2,30歳代人口の2.06倍 ((前掲))。全人口に占める65歳以上人口の割合(高齢者率)は24区中最高の 34.5%、資料:平成22年 国勢調査<人口等基本集計結果(大阪市> (表2-4 年齢3区分別人口の割合(平成 17 年、平成 22 年) のうち、平成22年[:2010年]))
(3) 生活保護受給率が高い区 (24区中最高の220~240‰ ((前掲)) )
でした。

しかし、(1) 西成区地域は、中央特別区の行政中心として整備される計画でした。中央特別区の当面の区庁舎は、現・西成区庁舎が使用され、将来的に西成区と浪速区の境界にある新今宮周辺の再開発に合わせ、当該地域に区庁舎を建設する構想でした。

中央特別区を構成する5区の、1人あたりの税収入は、中央区が24区中1位、西区 3位、浪速区 4位、天王寺区 5位です(なお、西成区は24位です)。資料: http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/9799/00056953/shiryou06_05_zeishu.pdf (平成20年度 大阪市区役所ごとの税収及び1人当たり税収の状況)

1人あたりの税収入の24区中トップ5区のうちの4区を含む中央特別区は、24位の西成区を含んでも、1人あたりの税収入が、東特別区、南特別区、湾岸特別区のおよそ3倍です。資料: 【大阪都否決】橋下市長はなぜ、敗れたのか(木村正人)(5つの特別区1人当たりの税収)

単独では最も貧しいにも関わらず、最も豊かな特別区の一員となり、行政中心としての投資がされる西成区は、都構想によって大きな実利を得ることになるのです。

しかし、西成区での投票結果は、反対率 53.25%で、反対多数でした。実利は、大阪市下で最も高い高齢者率、最も高い生活保護受給率に相関する強い反対支持傾向に、勝てませんでした。

まとめ

大阪市特別区設置住民投票の結果において、以下は相関を持っていました。

(0) 反対率が高い区
(1) 特別区設置によって直接の経済的恩恵を受けない区
(2) 高齢者人口の割合が高い区
(3) 生活保護受給率が高い区

これらは、相関関係を持っていただけで、因果関係(原因・結果の関係)を持っているとはいえません。しかし、今後の日本各地で行われる住民投票において、(1)(2)(3)を意識した、支持の訴え方を考えることには意味があると考えます。

補足:
*1 生活保護受給率が高いからといって、貧しい区であるとは限りません。

浪速区は、生活保護率100~120‰であり生活保護受給率が高いのですが、区民1人当たり税収は、24区中 4位であり、区全体で平均すると豊かな区であることが分かります。資料: 大阪市24区における税収状況など(平成20年度 大阪市区役所ごとの税収及び1人当たり税収の状況)

なお、区民1人当たり税収で整理した、住民投票の賛否多数の分布は、以下になります。先頭のアルファベットは、Sが住民投票での賛成多数、Hが反対多数を表します:

大阪市24区における税収状況など

平成20年度 大阪市区役所ごとの税収及び1人当たり税収の状況

1人当たり税収

S 中央区 2,477 千円/人
S 北区 1,195
S 西区 537
S 浪速区 313
H 天王寺区 300
S 淀川区 252
S 福島区 228
H 此花区 206
H 住之江区 201
H 西淀川区 189
H 阿倍野区 156
S 東成区 153
H 港区 140
H 大正区 138
S 都島区 128
H 生野区 127
H 旭区 119
H 東住吉区 109
S 東淀川区 108
H 鶴見区 107
S 城東区 102
H 住吉区 102
H 平野区 99
H 西成区 91

生活保護受給率で整理するよりも、傾向から外れる区の数が増えます。理由として、区民1人当たり税収は、少数の多額納税者の納税額が区民平均に与える影響が大きいため、1人1票の住民投票の結果と外れやすいこと考えられます。【大阪都否決】橋下市長はなぜ、敗れたのか(木村正人) (賛成率と1人あたりの税収)では、区毎における賛成率と区民1人当たりの税収の決定係数(相関係数Rの2乗値)は R^2=0.309 だったとしています(R=0.555)。

経済と思想

思想が経済に与える影響に関する代表的な文献として、マックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』があります。

逆に、経済が思想に与える影響に関して主張した(唯物史観)のがマルクスでした(『経済学批判』序言 にて定式化)。

池上 彰 : 世界を変えた10冊の本 (文藝春秋, 2014〈底本は文春文庫(2014)〉) 位置 No. 831/2373.

彼{:マックス・ヴェーバー}が四十歳のときに書いた『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』は、宗教が経済に与える影響を分析し、世の人を驚かせました。当時影響力を持ち始めたマルクス主義によると、社会を上部構造と下部構造に分け、下部構造である経済が、上部構造である文化や宗教に影響を与えるということになっていましたが、これに対する反論にもなっていたのです。

下部構造 – Wikipedia [2015年2月1日 (日) 16:26 の版]

唯物史観(史的唯物論)では、人間社会は土台である経済の仕組みにより、それ以外の社会的側面(法律的・政治的上部構造及び社会的諸意識形態)が基本的に規定されるものと考えた。(土台は上部構造を規定する)このことは、しばしば経済的決定論と批判されることがあるが、「土台-上部構造」は弁証法的な関係にあり、常に相互作用をしているのであって、上部構造が土台に規定しかえす(反作用)ことは言うまでもない。

二重行政は、切れ目を生じさせる

2015年5月17日に実施された大阪市の特別区設置住民投票において、特別区設置のひとつのメリットは、「府市あわせ」と言われた二重行政の解消でした。

二重行政は、

 ・同じ高さのビルを府市で1棟づつ、合わせて 2棟つくるなどの、二重投資(による無駄)

 ・意見対立した場合、決定権の優劣がないことによる決定遅延(による機会損失)

を生むとされました。

しかし、武雄市長を務めた樋渡 啓祐氏の2015年5月9日の投稿は、二重行政のもうひとつの負の面を示しました:

自分自身、総務省から高槻市役所に出向していた時に、近隣自治体との連携事業で、大阪府庁に持っていったら、大阪市役所へ行け!と言われ、市役所に持っていったら、府庁と相談してくれ!と何度か言われましたけど。

二重行政は、行政に切れ目も生じさせます。

学者の社会に向けた主張は現状維持的になりがちである

2015年5月17日に実施された大阪市の特別区設置住民投票では、京都大学の 藤井 聡 氏を中心に学者による主張がなされました。これまでに、およそ無かったことなので、学者の社会的な主張にはどのような傾向があり、どう受入れるべきか、有権者に経験がなかったと考えられます。

 「大阪都構想の危険性」に関する学者所見|藤井 聡

ここで、私が以前書いた、「天理」・「地理」・「人理」を紹介します:

学問は、「天理」・「地理」・「人理」を行き来する行為です。

学者たちが目指すのは「天理=普遍的な理論」ですが、そのためには「地理=特定条件における一般性質」を見つけていく必要があります。革新的なアイデアは、学者の発想(不明推測法((アブダクション))の起点)に依存します――これは「人理」です。

● 学者は、将来に関して「地理」・「人理」に重きを置けず、現状を変えるリスクを過大評価し、その社会的な意見は現状維持的になりがちである

学者が将来に関する 社会に向けた主張を表明するときに、現状を変えるリスクを過大評価する傾向があると考えられます。

現状を変えるリスクは、「天理」の前に、リスクのまま解決されず、悪いもののままです。リスクをプロフィット(利益、良いもの)に変換するのは、「地理」・「人理」の作用ですが、将来に関して、「地理」・「人理」に学者は重きを置けません。

なぜならば、「地理」・「人理」は、将来に関して、間違えずに説明しにくいからです(対して、過去・現状に関して、それらは歴史・実証として、間違えずに説明できます)。

結果、現状を変えるリスクが解決されないものとして残存し、過大評価されます。

したがって、学者の将来に関する 社会に向けた主張は、現状維持的になる傾向にある、と考えられます。

マルクス=エンゲルス共著の『ドイツ・イデオロギー』(1845~46)は次のように締めくくられている。「哲学者たちは世界をたださまざまに解釈してきただけである。しかし肝腎なのはそれを変えることである」(真下信一訳) ―― 梶井厚志 : 戦略的思考の技術 (中公新書, 2002) p.93.

● 政治・統治は、「人理」「地理」において行われる

人と人との間のあらゆる調整、すなわち広い意味での政治は、「人理」です。

議会・政府・選挙などを手段とした統治のための知的行為、すなわち狭い意味での政治は、「人理」を知的行為の中心として、「地理」をその出力とします。

鈴木商店倒産と若槻内閣総辞職

第1次若槻内閣の総辞職(1927/ 4/20)は、台湾銀行救済の緊急勅令案が枢密院にて否決されたことによるものです。台湾銀行の業績悪化は、深く結びついていた鈴木商店の業績悪化によるものでした。

台湾銀行は、第一次大戦終戦後に業績が悪化した鈴木商店への貸付が不良債権化していました。

1927年、片岡大蔵大臣の〈東京渡辺銀行の破綻〉発言に端を発した昭和金融恐慌が起こる中、帝国議会において、可決された震災手形関係二法に「台湾銀行の整理」という付帯決議がつけられました。

これを受け台湾銀行への不安が広がり、台湾銀行は鈴木商店との絶縁を宣言しますが、これが台湾銀行への不安を濃くさせ、台湾銀行に取り付け騒ぎが発生します。

鈴木商店は休業(1927/4/5)し、これが各行に台湾銀行の早期の破綻を予見させます。台湾銀行は融資引き揚げ・債権回収を受け、台湾銀行は政府に救済を要請するに至りました。

参考文献:
昭和金融恐慌 – Wikipedia [2015年5月31日 (日) 17:21 の版]

初出:
Facebook 2015/ 6/ 6

大日本帝国憲法がもつ物語

大日本帝國憲法には、憲法の条項以外に、「告文」・「憲法發布勅語」・「上諭」がある。(「上諭」は、日本国憲法にも附されている *1)

私は、大日本帝国憲法のそれらに物語が描かれている、と考えた。

大日本帝國憲法 (告文・憲法發布勅語・上諭・条項)

告文:
豐葦原 帝国憲法を読んでみよう① 御告文
大日本国憲法の告文の意味大日本国憲法の告文の意味を… – Yahoo!知恵袋

憲法發布勅語:
豐葦原 帝国憲法を読んでみよう② 憲法発布勅語

上諭:
豐葦原 帝国憲法を読んでみよう③ 帝国憲法上諭

告文は、(明治)天皇の、皇祖皇宗(:天照大神など天皇の先祖、及び歴代天皇)に対する、憲法制定と憲法遵守の誓いである。

そして、

惟フニ此レ皆
皇祖
皇宗ノ後裔ニ貽シタマヘル統治ノ洪範ヲ紹述スルニ外ナラス

(:惟ふに此れ皆、皇祖皇宗の後裔に貽したまへる統治の洪範を、紹述するに外ならす。)

憲法は、皇祖皇宗が育んできた知識を明文化したものだとしている。

大日本国憲法下での日本は、皇祖皇宗との連続性が明文化されていたのである(そして、日本国憲法はそれに連続 *1 し、日本国は日本国たるのである)。

憲法發布勅語は、日本国民(臣民)に対するおことばである。

そして、

惟フニ我カ祖我カ宗ハ我カ臣民祖先ノ協力輔翼ニ倚リ我カ帝國ヲ肇造シ以テ無窮ニ垂レタリ

(:惟ふに、我か祖我か宗は、我か臣民祖先の協力輔翼に倚り、我か帝国を肇造し、以て無窮に垂れたり。)

古来からの天皇と国民の関係が表わされ、これが国をつくってきたことが述べられている。

上諭では、天皇が憲法を守り、将来の天皇・現在の国民・将来の国民に、憲法を守らせることを表わしている。

以上から、大日本帝国憲法の告文・憲法發布勅語・上諭から、以下の物語 *2 を読み取った:

日本国は、古来より、天皇と国民の関係によって発展してきた。

この度、日本国の体制は、成文憲法により、目に見えるかたちになる。憲法発布以後は、血を引き継ぐ天皇に加えて、知を引き継ぐ憲法がある。日本国は二者体制(天皇と国民)から三者体制(憲法と天皇と国民)になる。この新たな憲法は異質なものでなく、皇祖皇宗の知識を明文化したものである。

日本国は、日本国由来の要素により、目に見えるかたちの、これまでよりも高度な国になる。

補足:
*1 日本國憲法 上諭:

朕は、日本國民の總意に基いて、新日本建設の礎が、定まるに至つたことを、深くよろこび、樞密顧問の諮詢及び帝國憲法第七十三條による帝國議會の議決を經た帝國憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる。
御名 御璽
昭和二十一年十一月三日

(以下、内閣総理大臣及び国務大臣の副署が続く)

*2 そして物語(ストーリー)という強力な手段が、国家にとって有効に、はたらく:
国において、国民意識が国歌・国旗・国章や行政サービスなど様々な仕掛けによって醸成されている
ストーリー主義
物語は資産である

2. 大阪市域での住民自治について

目次:
2-1. 東京23区は東京市に戻ることを望んでいない
2-2. 大阪都によって住民自治は増える

戻る: 「大阪都構想が日本を破壊する」に対する異論・反論

「大阪都構想が日本を破壊する」を著した藤井 聡氏(以下、筆者と記す)は、同書で住民自治を強調していますが、公選区長・公選議員をもち、新たに作られる特別区の存在を疎かにしているのではないか、と感じました。

2-1. 東京23区は東京市に戻ることを望んでいない

筆者は、「東京23区には「特別区はダメ、市にしてほしい」という大阪と逆の議論がある」(同書 位置No. 126, 777/2368.)と主張しています。この書き方は、読者に誤認識を与えます。東京23区の議論は「大阪と逆の議論」ではありません。

東京23区が求めているのは、特別区協議会『「都の区」の制度廃止と「基礎自治体連合」の構想』(2007年12月)によると、「都が法的に留保している市の事務のすべてを特別区(後述の「東京◯◯市」)が担い、都区間で行っている財政調整の制度を廃止する必要がある」(同書 位置No. 806/2368.)です。

東京23区の議論は、例えば、東京都世田谷区は東京世田谷市になるべきだ、という議論です。決して、現行の大阪府・大阪市の制度のように、東京都世田谷区(特別区)は東京市世田谷区(行政区。世田谷区議会の廃止、公選区長の廃止)になるべきだ、という議論ではありません。

2-2. 大阪都によって住民自治は増える

政令市の替わりに特別区を手に入れることは、住民自治にとってプラスでしょうか、マイナスでしょうか。

住民1人に対する、特別区の権限を1、市の権限を2、政令市と都道府県の権限をそれぞれ3だと仮定します。

住民1人に対して、自主財源額は、特別区:大阪市=1:4 であり、予算総額は、特別区:大阪市=3:4=1:1.3です(参考: 自由民主党大阪市会議員団 現行大阪市と大阪府特別区の自主財源を比較!)。したがって、住民1人に対して特別区の権限を1、政令市の権限を3とする仮定は、自主財源額の減少を理由に自治縮小のおそれを訴える声に十分配慮した仮定であると言えます。

新たな特別区は5つで、大阪市の人口は269万人(府人口の30.4%)、大阪府の人口は885万人(それぞれ2015年2月推計人口)です。簡単にするために、特別区の人口がそれぞれ1人、大阪市の人口が5人、大阪府全体の人口が16人(なぜならば、5/0.304=16.4)だとします。

ここで、大阪市・堺市以外の市の住民は、市から2、府から3の権限を受けています。合わせて5です。ここから、次のように考えます:

大阪市民は、
大阪市から 3
大阪府から 2 の権限を受けています。(大阪市民に対する大阪府の権限は、大阪市の存在により減らされている)

特別区民は、
特別区から 1
大阪都から 4 の権限を受けています。(大阪都は、特別区の権限外も担うので、大阪都の権限が増やされている)

ここに、人口の影響を考慮して、自治の具合を計算します。

大阪市民が受ける権限のうち、(将来の)特別区民に相当する市民が決められるのは、
大阪市からの 3 の 1/5 = 0.6
大阪府からの 2 の 1/16 = 0.125、合計 0.725

特別区民が受ける権限のうち、特別区民が決められるのは、
特別区からの 1 の 1/1 = 1
大阪都からの 4 の 1/16 = 0.25、合計 1.25

です。

大阪特別区民は、現・大阪市民よりも大きな住民自治を持つと言えます。

註:
この文章の中で、大阪都構想は、今回の住民投票の焦点である、特別区設置協定書に基づく大阪都構想を指し、大阪都は、同大阪都構想の実現後の大阪府(維新の党は、大阪都への名称変更法案を国会に提出するとしている)を指します。

戻る: 「大阪都構想が日本を破壊する」に対する異論・反論

1. 大阪都での超大型プロジェクト実施について

目次:
1-1. 大阪都は西日本を引っ張る都市を志向している
1-2. 超大型プロジェクトは、大阪都でも実現できる
1-3. 超大型プロジェクトは、大阪都の方がうまく実現できる
・1-3-1. 他と連携し、リーダーであるために、一本化された大阪都
・1-3-2. 直接的な成果も動機にしながら、都域全体にわたり行動する大阪都

戻る: 「大阪都構想が日本を破壊する」に対する異論・反論

1-1. 大阪都は西日本を引っ張る都市を志向している

「大阪都構想が日本を破壊する」を著した藤井 聡氏(以下、筆者と記す)は、大阪都構想を「大阪が、関西の核(コア)となり、西日本の中心都市になる具体的戦略もありません」(同書 位置No. 1829/2368.)と評します。しかし、橋下市長は、大阪都を西日本を引っ張る都市にすること、日本を東京と大阪のダブルエンジンにすることを、繰り返し主張されています。

ダブルエンジンについては、例えば、2015年 5月 1日のテレビ大阪「ニュースリアルKANSAI」、同日のNHK大阪放送局「かんさい熱視線」の両番組でそれぞれ行われた討論において、橋下市長が言及しています。

また、橋下 徹・堺屋 太一=著「体制維新――大阪都」(文春新書,2011) pp.200-201. には、橋下氏による、以下の記述があります:

東京以外にもう一発の大エンジンをなるべく早く配置しなければなりません。これは日本のためです。それが大阪です。大阪は、ヨーロッパ各国で見られる自活型の中・小型エンジンではダメなのです。他地域・地方部までも面倒を見る大型エンジンでなければなりません。…

…僕は関西を、いや西日本を大阪が引っ張らなければならないという認識です。

…僕は、大阪府全域で大阪という都市を考えるのです。

1-2. 超大型プロジェクトは、大阪都でも実現できる

筆者は同書の最終章において、大大阪(だいおおさか)構想と銘打った超大型プロジェクト構想を披露しています。

中央リニア新幹線の名古屋・大阪同時開業、北陸-大阪-関空-四国を結ぶ新幹線の開業、紀淡海峡の友が島での防潮堤建設(南海地震による津波対策、兼 四国新幹線の路盤)、新大阪・「うめきた」再開発などが内容です。採算性への疑問はありますが、魅力的な提案だと思います。

筆者は、大阪市中心部での土地収用を含む超大型プロジェクトは、大阪都にはできない、と主張しています。

筆者が掲げるその理由は、以下の2点です。

(1) 郊外の土地収用をしてきた大阪府に、都心の土地収用をするノウハウはない。そのようなノウハウは、大阪市がもっており、大阪市が失われるとノウハウも失われる。

(2) 大阪都への移行に労力を投じるため、行政能力が大阪都初期に縮減し、超大型プロジェクトを実施できない。

理由(1)を、私は理解しがたいです。大阪市の土地収用部隊を、大阪都が持てばよいのです。大阪都構想は、広域行政を大阪都に集約するのですから、広域行政に関わる土地収用の機能と能力を大阪市から大阪都に移管することは、当然のことだと考えます。

理由(2)は理解できますが、だからこそなるべく早く改革に着手するべきだと考えます。

1-3. 超大型プロジェクトは、大阪都の方がうまく実現できる

私は、大阪都の方が超大型プロジェクトを実施する体制として優れていると考えます。

1-3-1. 他と連携し、リーダーであるために、一本化された大阪都

筆者の大大阪構想の前提は、「大阪がリーダーとなって、周辺都市(京神・関西)、周辺地域(四国、北陸、山陽、山陰)、そして、中央政府・国会と徹底的に連携」することです(同書 位置No. 1824/2368.)。ここでの〈大阪〉として、筆者は、大阪府と大阪市の両者を考えているのでしょうが、これが大阪都に一本化されている方が、他県・他地域・中央と連携する上で望ましいことは明らかです。さらにこれらの連携の中で〈大阪〉がリーダーであるためには、大阪都に一本化されていることが必須だと考えます。

1-3-2. 直接的な成果も動機にしながら、都域全体にわたり行動する大阪都

リニアや新幹線の場合に特に顕著ですが、超大型プロジェクトの直接的成果は大阪市域に生じ、且つ市域外の大阪府域に負担設備が必要です。

大阪府域に、リニアの駅は、大阪市域の新大阪にしか作られないし、新幹線の駅も、新大阪・大阪都心部・堺・(岸和田)・関空にしか作られないでしょう。政令市の市域外では(岸和田)・関空だけであり、つまり、政令市域外の大阪府域は素通りです。

大阪市域に手を出しにくい大阪府は、超大型プロジェクトの直接の成果を得られません。大阪市域外の大阪府民も便利になるのですが、大阪府の成果は間接的になります。例えば、府議会議員にとって、間接的な成果のための行動には限界があるでしょう。

大阪都になって、大阪市域に関する権限と責任を持った大阪都は、超大型プロジェクトの直接の成果を得られます。成果は、駅の利便性の高さ、駅周辺設備の整備によって、大きくなります。したがって、大阪市域に建設される駅や駅周辺整備に、大阪都は十分な投資をするでしょう。

また、同じく大阪都が、駅以外の路線部に携わります。路線部の完成も直接的な成果を手にするための必須条件です。大阪府と大阪市の調整が不要になるだけでなく、直接的な成果という動機をもつ大阪都によって、路線部の最適化が早く実施され、建設が早く進むことが考えられます。

註:
この文章の中で、大阪都構想は、今回の住民投票の焦点である、特別区設置協定書に基づく大阪都構想を指し、大阪都は、同大阪都構想の実現後の大阪府(維新の党は、大阪都への名称変更法案を国会に提出するとしている)を指します。

戻る: 「大阪都構想が日本を破壊する」に対する異論・反論

藤井聡氏の著書「大阪都構想が日本を破壊する」に対する異論・反論

来る2015年 5月17日、20歳以上の大阪市民を有権者に特別区設置住民投票(大阪都構想に関する住民投票)が実施されます。

特別区設置住民投票∥大阪市選挙管理委員会 特別区設置協定書 

私は、大阪市民ではありませんので住民投票の投票をできません。しかし、大阪府に生まれ育ち、中学・高校は大阪市営地下鉄に乗って、大阪市内の学校に通いました。現在でも関西在住で、海外に行くときは関空を使います。海外の空港で観光マップを広げ、大阪行きの飛行機を嬉々として待つ外国人母娘や、梅田の街なみを、驚きをもって写真に撮る外国人観光客の姿を見ると、「楽しんでいってほしい、大阪にはそれが可能だ」と思い、また同時に大阪を誇りに思います。このため、大阪都構想そして住民投票に関心を寄せています。

このたび、特別区設置協定書に反対の立場をとる、藤井 聡氏「大阪都構想が日本を破壊する」「大阪都構想が日本を破壊する」を読み、同書の内容にいくつかの異論・反論を持ちましたので、それをまとめます。

1. 大阪都での超大型プロジェクト実施について

1-1. 大阪都は西日本を引っ張る都市を志向している
1-2. 超大型プロジェクトは、大阪都でも実現できる
1-3. 超大型プロジェクトは、大阪都の方がうまく実現できる
・1-3-1. 他と連携し、リーダーであるために、一本化された大阪都
・1-3-2. 直接的な成果も動機にしながら、都域全体にわたり行動する大阪都

2. 大阪市域での住民自治について

2-1. 東京23区は東京市に戻ることを望んでいない
2-2. 大阪都によって住民自治は増える