技術の発展は閾値を超えると、急速に進み出す

W・ブライアン・アーサー=著, 有賀 裕二=監修, 日暮 雅通=訳 : テクノロジーとイノベーション―― 進化/生成の理論 (みすず書房, 2011) p.220.

たとえ百万分の一の確率であっても、構成要素として役に立つ機能があれば、与えられた構成要素一式でテクノロジーが確立し誕生する確率は、やはり式 (2N – N – 1)/1,000,000 か、 2N-20 の近似値で求められる。

新しいテクノロジーがつぎつぎと新テクノロジーを生み出すとすれば、集まった要素が大まかな閾値を超えるや、組み合わせの可能性の数が急速に増大を始めるということだ。

註:
構成要素の数N。このとき構成要素の組み合わせの総数は 2N – N -1 (構成要素単独、及びいずれの構成要素も組み合わせない場合を除いた総数)。

技術史の記憶

W・ブライアン・アーサー=著, 有賀 裕二=監修, 日暮 雅通=訳 : テクノロジーとイノベーション―― 進化/生成の理論 (みすず書房, 2011) pp.233-234.

足がかりとなるテクノロジーに中間的難度のニーズを実行させないと、複雑な要求が実行できるようにはならないのだ。

 実際の社会で考えてみると、無線、ひいては無線通信がなければレーダーは開発されなかったかもしれないことがわかる。…

 ごく当然の成り行きとして、進化は歴史に依存する関係にあることもわかった。

美と偽

美しいものが真とは限らない。真偽を美観によって判断しないこと。

・本来は静止しているはずのものが動く場合、他の部品と接する面に、跡はつかず、美しく滑らかなままである。

・回転運動は美しい切削面を生じさせる。本来は静止しているはずのものに、美しい切削面を生じさせる。

・本来は接触しないはずの部品同士が接触する場合、部品表面に汚れはつかず美しいままである。

設計解たる形が持つべき性質

品物の設計において採用する、品物の形状は、以下の性質を満たしていなければならない。

● 機能性 ―― その形状が品物に求められている機能を果たすこと。

● 性能性 ―― 品物に求められている機能を果たすために、十分な強度((応力集中の軽減など))・重量(の軽さ/重さ)・抵抗(の小ささ/大きさ) などをもつこと。

● 形式知性 ―― その形状を正確に伝達できること。

● 成形性 ―― その形状を低コストに作れること。

● 組立・分解作業性 ―― 挿入部の案内テーパ・面取り、他の部品に遮蔽されない掴み部・治具の取り付け部をもつこと、など。

● 安全性 ―― 鋭利な起伏・運動部分が露出していないこと、など。

生産・使用と、思想・表現・言論の自由

私は、国産にかかる政治コストにおいて、法規が新たな製品の国内生産を可能にする柔軟性を持っていなければならないことを述べた。

より根本的には、思想・表現・言論の自由である。新たな思想・表現・言論が可能でなければ、新たなあらゆる事柄を、国内で生産・使用することはできない。

多人数での思想共有に大きな障害が発生するリスクがあるからだ。現代では、生産・使用を多人数で行い、コストを下げなければならないのだ。

なお、
ヨーロッパ諸国のたいていの国において、国民の思想・表現・言論の自由が保障されているものの、キリスト教が一部自由を(潜在的に)制限している。

たとえば、ホンダは、ASIMO 開発の途中でローマ教皇庁に人間型ロボットを作ることの是非について意見を求め、問題がないことを承認してもらった。

国産にかかる政治コスト

国産とは、技術力(生産設備、生産者の知識・教養・技能・管理能力など)だけによって実現されるものではない。

その国の法規が国内生産を可能として、はじめて実現する。

すなわち、法規が、

 ・新たな製品の国内生産を可能にする柔軟性

 ・安全・環境保全の確保

を両立していなければならない。

そのためには、法規の内容が、技術の本質と乖離していないことが必要であるが、新たに生産しようとする製品に関する技術は日進月歩である。

故に、

 ・適切な法規に改訂する政治コスト

が継続的に払われていなければならない。

世に役立つこととは、良きことを再現することである

世の中に役立つこととは、良きことを再現することである。

「組み合わせ」は、その強力な手法である。

様々な組み合わせを試行し、良い結果をもたらす組み合わせを選び出し、以降はこの組み合わせを実施する。良い結果は、高い確率で再現される。

「つなぎ」まで考慮しているか

自分の責任範囲を超えて「つなぎ」まで考慮しているかどうかが、総合したときの成否を分ける。

W・ブライアン・アーサー=著, 有賀 裕二=監修, 日暮 雅通=訳 : テクノロジーとイノベーション―― 進化/生成の理論 (みすず書房, 2011) p.107.

 ここには一般的教訓がある。コストは、活動がひとつの世界を離れて別の世界に入るときに積み上げられる。… “つなぎ技術”は、たいていはドメインで最も扱いにくい一面だ。