目次:
2-1. 東京23区は東京市に戻ることを望んでいない
2-2. 大阪都によって住民自治は増える
「大阪都構想が日本を破壊する」を著した藤井 聡氏(以下、筆者と記す)は、同書で住民自治を強調していますが、公選区長・公選議員をもち、新たに作られる特別区の存在を疎かにしているのではないか、と感じました。
2-1. 東京23区は東京市に戻ることを望んでいない
筆者は、「東京23区には「特別区はダメ、市にしてほしい」という大阪と逆の議論がある」(同書 位置No. 126, 777/2368.)と主張しています。この書き方は、読者に誤認識を与えます。東京23区の議論は「大阪と逆の議論」ではありません。
東京23区が求めているのは、特別区協議会『「都の区」の制度廃止と「基礎自治体連合」の構想』(2007年12月)によると、「都が法的に留保している市の事務のすべてを特別区(後述の「東京◯◯市」)が担い、都区間で行っている財政調整の制度を廃止する必要がある」(同書 位置No. 806/2368.)です。
東京23区の議論は、例えば、東京都世田谷区は東京世田谷市になるべきだ、という議論です。決して、現行の大阪府・大阪市の制度のように、東京都世田谷区(特別区)は東京市世田谷区(行政区。世田谷区議会の廃止、公選区長の廃止)になるべきだ、という議論ではありません。
2-2. 大阪都によって住民自治は増える
政令市の替わりに特別区を手に入れることは、住民自治にとってプラスでしょうか、マイナスでしょうか。
住民1人に対する、特別区の権限を1、市の権限を2、政令市と都道府県の権限をそれぞれ3だと仮定します。
住民1人に対して、自主財源額は、特別区:大阪市=1:4 であり、予算総額は、特別区:大阪市=3:4=1:1.3です(参考: 自由民主党大阪市会議員団 現行大阪市と大阪府特別区の自主財源を比較!)。したがって、住民1人に対して特別区の権限を1、政令市の権限を3とする仮定は、自主財源額の減少を理由に自治縮小のおそれを訴える声に十分配慮した仮定であると言えます。
新たな特別区は5つで、大阪市の人口は269万人(府人口の30.4%)、大阪府の人口は885万人(それぞれ2015年2月推計人口)です。簡単にするために、特別区の人口がそれぞれ1人、大阪市の人口が5人、大阪府全体の人口が16人(なぜならば、5/0.304=16.4)だとします。
ここで、大阪市・堺市以外の市の住民は、市から2、府から3の権限を受けています。合わせて5です。ここから、次のように考えます:
大阪市民は、
大阪市から 3
大阪府から 2 の権限を受けています。(大阪市民に対する大阪府の権限は、大阪市の存在により減らされている)
特別区民は、
特別区から 1
大阪都から 4 の権限を受けています。(大阪都は、特別区の権限外も担うので、大阪都の権限が増やされている)
ここに、人口の影響を考慮して、自治の具合を計算します。
大阪市民が受ける権限のうち、(将来の)特別区民に相当する市民が決められるのは、
大阪市からの 3 の 1/5 = 0.6
大阪府からの 2 の 1/16 = 0.125、合計 0.725
特別区民が受ける権限のうち、特別区民が決められるのは、
特別区からの 1 の 1/1 = 1
大阪都からの 4 の 1/16 = 0.25、合計 1.25
です。
大阪特別区民は、現・大阪市民よりも大きな住民自治を持つと言えます。
註:
この文章の中で、大阪都構想は、今回の住民投票の焦点である、特別区設置協定書に基づく大阪都構想を指し、大阪都は、同大阪都構想の実現後の大阪府(維新の党は、大阪都への名称変更法案を国会に提出するとしている)を指します。