(私の履歴書)磯崎功典(14) 尼崎のホテル 総支配人として率先垂範 宝塚ファン呼び込み飛躍. 日本経済新聞, 2025/ 5/15, 朝刊, 40面.
コスト削減は進んだが、大きな課題は週末3日間の稼働率が低いことだった。ビジネス需要を開拓した成果で平日の稼働率は7割を超えたが、週末は苦しいままだった。
目をつけたのが、尼崎駅からJR線ですぐの兵庫県宝塚駅にある宝塚歌劇。…いつも多くのファンで溢(あふ)れ、関東など遠方の方は近隣のホテルに宿泊しているはずだ。早速、観劇を兼ねてファンの親子などにヒアリングをかけた。「どこにお泊まりですか?」と尋ね、宿泊施設が足りず困っているという事実をつかんだ。
新大阪から宝塚に行くには、JR尼崎駅で乗り換えるのが早い。尼崎駅前にあるホテルの利便性をファンに伝えれば、週末の宿泊客は増えるはずだ。そんな仮説をもったが、どう知ってもらうか。
宝塚ファンは「歌劇」「宝塚GRAPH」といった、阪急電鉄グループが扱う雑誌を読んでいることを知った。広告を載せたいが、阪急もホテルをもっておりハードルは高そうだ。そんな時、宝塚歌劇団を運営する阪急電鉄会長の小林公平さんが我々のホテルに興味をもたれ、視察にみえることになった。
「チャンスは絶対に逃さない」と、運営の裏側まで全てご案内しノウハウも包み隠さず説明した。そして帰り際、宝塚雑誌に広告を載せてほしいと直談判。「あんた図々(ずうずう)しい人やな」とニヤっと笑いながら帰られたが、後日なんとOKの連絡が入った。これを機に、週末の稼働率が跳ね上がったのは言うまでもない。