複雑性という指標

複雑性という指標大熊 康之 : 戦略・ドクトリン統合防衛革命―マハンからセブロウスキーまで米軍事革命思想家のアプローチに学ぶ (かや書房, 2011) pp.343-344.

 セブロウスキー[:Arthur K. Cebrowski (1942~2005)。海軍中将。海軍戦争大学校長。2001年、退役後、兵力大変革事務局長(米国防総省長官直属)。]は、「戦いの原則再考」を論ずる既述の選書[: Anthony Mac Ivor 博士=編: “Rethinking the Principles of War” (2005)]の巻頭言において、「ヨーロッパの秩序に大変革をもたらしたナポレオン戦争を解明したクラウゼヴィッツが『戦争論』を著わしたのと同様に、我々が新しい戦争を解明し将来に対応すべき時機が熟している」として、米軍の「兵力の構築及び運用」のあり方に関する新しい評価尺度として次の3点をあげている。

(1) 選択肢の創造と維持:変化の加速と曖昧性の支配を特質とする情報時代の作戦環境における競争力は柔軟な適応性であり、その基盤は選択肢である。選択肢は、ネットワーク化された組織における情勢認識の共有が創出する。創出され、維持された豊富な選択肢は、作戦においてタイムリーに発動されて、複雑性を創出し我の生存を確保するとともに敵の能力発揮を封殺する。

(2) 高度の「業務処理及び学習」速度の構築:情報時代の特筆である戦闘の複雑性への対応の鍵は、テンポ、すなわち“戦闘という業務”の処理速度、の優劣である。高度の業務処理速度は、部分的な視点に立てば単に相互作用の数の大きさとみなされるが、より全体的な視点からは、行動者の数並びに競争及び環境の相互作用の数が決定要因となり、時間の経過につれてこれらの相互作用の質が学習と成功を決定する。“既知”に満足し組織として停滞する敵が業務速度に漸進的に順応している間に、我は、官僚制が準備したものではなく、新しい時代が提供する有利性を全体的な組織としての学習速度によって生み出す“ドクトリン”の業務処理速度で作戦するのである。これが、大変革が“国防のマネジメントの大変革”を要求する理由である。

(3) 大規模・圧倒的な複雑性の構築:複雑性の本質は、実在物の数、実在物の変化、そしてそれらの間の関係である。我が部隊の能力が頑健であればある程、我々はより複雑な兵力に対し、より複雑な地勢において、より多様な選択肢を保有し得る。敵は重圧がかかると、外洋から陸上、開けた陸上から都市、ジャングル、そして最後には複雑な社会・政治の領域、すなわち、常により複雑な地勢へと後退する。一般に、より複雑性大なる兵力は、複雑性小なる兵力に優る。今、戦闘空間で新しく興っている最も大なる複雑性は、サイバースペースという(触れる、聴く、嗅ぐ、ことのできない)無次元の要素である。我々は、既述の現実的な複雑性に加えて、このサイバースペースという21世紀の複雑な「共有領域」へアクセスし、これを管制し得る柔軟性と積極性(圧倒的な複雑性の選択肢)を確保しなければならない。

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