口蹄疫と自動車エンジン

Weekly Report: ○コンセントは? EVに思わぬ難敵 (2010/ 7/21 確認, 現在ページ消失)

ガソリン自動車が蒸気自動車を駆逐した経緯は、口蹄疫の蔓延で馬用の水桶が失われ、インフラの優劣が逆転した事にその発端がある。

梶井 厚志 : 戦略的思考の技術 (中公新書, 2005) p.134.

口蹄疫は1914年北アメリカでも大流行したのであるが、一説によるとこのときの口蹄疫の流行が、現在の自家用車にガソリンエンジンが搭載されるきっかけになったという。というのも、当時は蒸気エンジンも自家用車の動力として使われていたのだが、口蹄疫の流行を防ぐために馬用の水桶が撤去されてしまい、水道の普及が都市部にとどまっていた当時では、蒸気エンジンを搭載する車は動力源の水の補給を断たれてたいそう使いにくいものになってしまった。そのため、水を必要としないガソリンエンジンの研究開発が盛んに行われたというのである。

奥村 憲博 : 経路依存, ロック・インとグローバル・エネルギー戦略. IEEJ (2007年3月掲載).

 現在はガソリン車が市場を支配しているが、20 世紀初頭では、それぞれに不確実性を有した蒸気エンジン車、ガソリンエンジン車及び電気自動車の3つの候補が、競争を展開していた。内燃機関も、適正な品質等級のガソリンが得られにくいこと、危険であること、内燃機関エンジンはより多くの洗練された作動を蒸気エンジンより必要とされること等、多くの欠点を有していた。当時の蒸気エンジン車は、技術的・経済的両面でガソリンエンジン車と同等であった 6)。

 しかしながら、次のように歴史はガソリン車に有利に展開し、

・ 電気自動車にとっては、当時の米国の電力グリッドが地方には展開していないことがハンディ

・ 蒸気エンジン車にとっては、口蹄疫という伝染病が馬にはやったことから道路脇に水桶を設置することが条例で禁止されたことがハンディ

そして最初の 10 年間で、ガソリン車は、電気自動車及び蒸気エンジン車を数桁のオーダーで引き離した 7)。もし最初の自動車の出現が 20 年程度後れていたとしたら、今日の自動車のエンジンは、. 内燃機関ではなかったかもしれない 8)。当該事例は、ある意味典型的な経路依存性を示している。

6) D. Kirsch; Flexibility and Stabilization of Technological Systems: The Case of the Second Battle of the Automobile Engine (Program in History of Science and Technology, Department of History. Stanford University), (1995).

7) J. Foreman-Peck; Technological Lock-in and the Power Source for the Motor Car, Discussion Papers in Economic and Social History, Vol7(University of Oxford), (1996).

8) B. W. Arthur; On Competing Technologies and Historical Small Events: the Dynamic of Choice under Increasing Returns, Working Paper (IIASA, Austria), (1983) 83-90.