太古の時代、人類にとって鉄は宇宙からの贈り物だった。様々な武器や道具として以前から使われていた青銅と比べ、ずっと硬い未知の物質。遠い空のかなたから飛来した隕鉄(いんてつ)だ。金より高価で、エジプトのツタンカーメン王の墓に納められていた短剣も隕鉄製という。
▼地中に眠る鉄鉱石を精錬できるようになったことで、文明は新たな段階に入る。その成果は海を越えて日本に渡り、社会を大きく動かしてきた。水田耕作の暮らしから古墳時代へ、武士の登場を経て鎌倉幕府の誕生へ。司馬遼太郎は随想「この国のかたち」の中で、歴史の節目の背景に鉄製品の普及があったことを示した。
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司馬は「鉄は人間に好奇心を教えた」と記した。人類の歴史は長く鉄とともにあり、技術開発の歩みが終わったわけではない。