2024年の兵庫県知事選挙が持たせた実感と関心

2024年の兵庫県知事選挙では、ネットメディアの現実社会への影響力が大きく認識されました。個人に実感を持たせ、社会の関心になりました。

2009年に私は、次の文章を書きました:

結合点が重要

インターネットを使ってすべてのことができるわけではない以上、リアルな事物との結合点(乗り換え交通点)が重要である。

ウェブへの失望は、インターネット上の成果がリアル空間に役立っているように感じられないから生じる。結合点を整備して、出口を開ければ閉塞感がなくなる。

そして、知的ネット空間「アテネの学堂」 5つのリスト 2010年 8月に、次のように書きました:

「アテネの学堂」の定義は、「主にインターネットを介して知的で生産的な行為をする人々と、そのような行為を支援する仕組みなどの集合体」である、と私は考えます。

…  

私が考えるに、「アテネの学堂」の目的は、社会が問題を適切に解決する仕組みの一端を担うことです。

「アテネの学堂」の成立によって、社会が問題を適切に解決する仕組みが改良されます。

余談ですが、そのような改良行為がもつ性質は「善」である、と私は考えます。

ネットを使ってすべてのことができるわけではないので、役割を果たすためにはリアルな事物との結合点(交通の結び目)が重要です。結合点を通じて、「アテネの学堂」の成果をリアル社会の問題解決体系に提供し、リアル社会において役立たせるのです。

同ページには、結合点に関する図を載せています。

(「アテネの学堂」は、その後、「知的ネット社会」という言葉に言い換えている [参考: 「アテネの学堂」から4年が経った。そして、これから])

2024年の兵庫県知事選挙は、ネットの「リアルな事物との結合点」を認識させました。

同選挙に関しては、ネットメディアに関する様々な功罪の指摘があります(合わせて、大手メディアの姿勢に問題がありました)。

視野を大きくすると、ネットメディアの影響力に関する個人の〈実感を持った関心〉・社会の〈確固たる関心〉が生まれたこと(実績)は、大きな功です。得難い2つを得られたのです。これからは、そして これからも、ネットメディアを改善させていけばよいのです。

関連:
設計技術発展の方法(2) : 実機を作り、機能させる

技術者が作った実際に機能を果たす機械を目の当たりにして、科学者が研究に参画するようになる。

そのような科学者は、科学を大いに発展させ、加えて、設計者への科学の技術移転の橋渡し役を果たすようになる。

Jr.,John D. Anderson=著, 織田 剛=訳 : 空気力学の歴史 (京都大学学術出版会, 2009) p.340.

クッタ、ジューコフスキー、プラントルは飛行機に夢中になっていた。19世紀と比較すると何という違いだろうか。当時は、尊敬される学者達はいかなる飛行機との関わりを持つことも避けていた。その結果、19世紀には科学から動力飛行機の設計への技術伝達が全く欠けていた。
 学者達の考え方を変えたのは何だったのか。それはリリエンタールとライト兄弟の小さな実績であった。

ヘンリー・ペトロスキー=著, 中島 秀人・綾野 博之=訳 : 橋はなぜ落ちたのか―設計の失敗学 (朝日選書, 2001) p.110.

 数学者や科学者達が必ずしも思い出したがらない事実だが、技術の相当数はまず成功した後にその理論的理解が生まれたのである。もちろん古典的な例は蒸気機関であり、熱力学の工学が成立するはるか以前にそれは発明され、高度の信頼性にまで発展した。実際、動く蒸気機関という人工物自体が、その動作についての理論を呼び起こしたのである。

ローマ教皇もジョークを仰る

キリスト教カトリック教会の頂点であるローマ教皇の、一見ローマ教皇らしからぬ御発言は、下記の考えを想起させました。

  文化の最小公倍数的側面(=「でもあらなくてはならない」)

です。最小公倍数的側面の反対概念は『文化の最大公約数的側面(=「でなくてはならない」)』です。

※補足: 数学では、例えば、6と8の最小公倍数は24最大公約数は2

ローマ教皇は、カトリック教会の頂点ですが、それだけに留まらず、カトリック教会文化の代表者です(同様に、各国の国家元首も各国の文化の代表者です)。

ローマ教皇にまでなられた方です、ご自身の発言が、カトリック教会文化の頂点の者の発言として、相応しくはないことはない、とご判断された上での、ご発言であろうと愚考します。

文化とは、社会の成員が持つものです。

文化 – Wikipedia [2025年4月28日 (月) 06:30 の版]

広く民族学で使われる文化、あるいは文明の定義とは、知識、信仰、芸術、道徳、法律、慣行、その他、人が社会の成員として獲得した能力や習慣を含むところの複合された総体のことである
エドワード・バーネット・タイラー、Primitive culture [1871年]

カトリック教会文化の構成員(=[広義の]カトリック教会社会の成員)を代表する発言として、ひとつはカトリック教会文化の構成員(の多数)が共通して備えている思想を語ることがあります。これは、『文化の最大公約数的側面(=「でなくてはならない」)』です。

しかし、文化の構成員が多様になると、共通して備えている思想の支配力が、相対的に弱くなります。

そこで、文化の構成員の部分集団(A, B, C, ……)がそれぞれ備えている思想(a, b, c, ……)をそれぞれに触れていくことにより、代表者としての発言にすることができます。これは、『文化の最小公倍数的側面(=「でもあらなくてはならない」)』です。

ローマ教皇は、ジョークを仰ることによって、カトリック教会文化の構成員のなかのジョークを好む集団に寄り添われたのです。そして、次には他の部分集団に寄り添われるのでしょう。私は、そのように愚推します。

個人の〈実感を持った関心〉・社会の〈確固たる関心〉

知的ネット空間「アテネの学堂」 5つのリスト 2010年 8月

一般の人々にもたれることを希望するイメージ

・確かな存在
・容易な観測
・容易な参加

整備項目

・共有される短い表現(キャッチコピー・スローガン)
・知的技術知識
・広報セット
・観測方法説明
・参加方法説明
・補助システム

社会を変えるのは、関心である @takagi1, 2017年6月24日

私論「ウォンバット市」が目指すところ 2018年2月9日

私が考えるに:
「ウォンバット市」が目指すところは、ウォンバットと〈ウォンバットが象徴する事柄〉を、それが豊かな池田市に関する実感(知名度と、池田市に行くことができるという認識)を根拠にして意味あるものと社会に認識させ、それを社会の確かな関心にすることである。

未来作りに関する私の考え(2018年7月)

多様な社会が、社会の確かな関心であること。社会の確かな関心は、虚しさによって無くなることがない、不特定多数の人が限られた日々の時間の中で、少ない時間でもいくらかの思考時間をあてるテーマです。関心且つ実感から構成されます。

身近な未来プロジェクト 2019年

より良い未来を作るために、未来を、まずは 個人の〈実感を持った関心〉にし、その後に 社会の〈確固たる関心〉にします。

「ネットの使い方博物館」について 2019年12月8日

これらの言葉を、まずは 個人の〈実感を持った関心〉にし、その後に 社会の〈確固たる関心〉にします。

【100回配信 ありがとう】「水素チャンネルニュース」【新浜メチス】 2021年3月14日

水素エネルギーを社会の確固たる関心にし、

ブランド

ハイブランドの商品は、中古品店に高く買い取ってもらえます。それは、実際に使う前から、それを使うことによる良い効果を多くの人に想起させることができるからです。

妹尾 堅一郎 : 技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか―画期的な新製品が惨敗する理由 (ダイヤモンド社, 2009) p.297.

ブランドとは何か? 端的に言えば、商号・商標や意匠によって想起される品質・価値・信頼といったイメージの集合体を定義することができるでしょう。

関連:
真と美、技術とブランド

ソフトパワー

春秋. 日本経済新聞, 2025/ 5/ 9, 朝刊, 1面

アメとムチ。…しかしこの2つ以外にも「魅力」によって人を引っ張る道がある。メンバーが理念に共鳴し、喜んで仲間になる。そんな組織は強い。

▼国際社会で「飴(あめ)と笞(むち)を使う必要」を減らすため、ソフトパワーと名づけた魅力を生かすよう唱えたのが米政治学者、ジョセフ・ナイ氏だった。パワーの中身は文化、政治的な理想、政策の魅力など。民主主義、人権、個人にチャンスがあることも大事だ。欧州や旧共産圏で実際に米国はこの力で味方を増やしたと分析する。

▼5月4日の弊紙にインタビュー記事がある。トランプ氏により米国のソフトパワーは損なわれ、政権が交代しても回復は難しいと語った。「トランプ氏のような政治リーダーを(米国民が)また選ぶかもしれないという懸念」を外国は払拭できないからだ。民主国家のリーダーの振る舞いは選んだ人々への視線も左右する。

流水不争先

阪急阪神HD角和夫・元会長が死去 「相手に誠実であれ」問い続け – 日本経済新聞 (2025年5月7日) (紙面では、日本経済新聞, 2025/ 5/ 8, 朝刊, 13面)

囲碁を通じて知った「流水不争先(流水先を争わず)」という言葉をずっと大切にしてきた。奇手奇策を使わず自然体でいるという意味で、角氏の経営手法にもつながる。

阪急阪神ホールディングス社長 角和夫(3) 囲碁の段位の免状 – 日本経済新聞 (2015年9月30日)

囲碁と経営は似ているという人は多い。経営者として何か色紙に書いて欲しいと、たまに言われることがある。その際に書くのが「流水不争先」。囲碁の高川格先生(二十二世本因坊)が信条とした言葉だ。流れる水は先を争わない。奇手奇策を使わず自然体でいるという意味だ。

入社した頃からこの言葉を大切にしてきた。会社人生でも無理な手を打つとか、人をごまかすようなことをする必要はない。