Jr.,ジョン・D. アンダーソン=著, 織田 剛=訳「空気力学の歴史」

     

評価・状態: 得られるものが秀逸・多量な本★★★



購入: 2009/12/22
読了: 2010/ 4/18

京都大学学術出版会:空気力学の歴史

空気力学の歴史 Jr.,ジョン・D. アンダーソン 感想 - 読書メーター

Twitter / @TAKAGI-1 高木 一: @yonda4 空気力学の歴史 「空気力学の歴史――飛行理論の発見と航空機設計への反映――アリストテレスから超音速機まで」、内容を分かりやすく伝えるという観点からこの本の題名に副題を私なりに付すとこうなる。

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この本からの引用、または非常に関連する記事

全 8 件

著者の観点から完全に独立した観点を持つこと

記事ページ 発行: 2010年05月03日

Jr.,John D. Anderson=著, 織田 剛=訳 : 空気力学の歴史 (京都大学学術出版会, 2009) pp.147-148.

>[英国航空協会の委員会の初会議(1866年)における、初代名誉幹事の発言:] 「この会議の目的は論文の紹介を奨励し、そして議論を行うことであるが、その論文紹介へと進む前に、当委員会を代表して各位にそれぞれの著者の観点から完全に独立した観点を持つことをお願いせねばならない……。...」

※太字はブログ書き手による。

 

誤りが紛れ込んでいない真実などなく、少しの真実も含まれていない誤りもない

記事ページ 発行: 2010年05月03日

Jr.,John D. Anderson=著, 織田 剛=訳 : 空気力学の歴史 (京都大学学術出版会, 2009) pp.309-310.

[1903年にウィルバー・ライトからジョージ・スプラットにあてた手紙]

>誤りが紛れ込んでいない真実などなく、完全に間違いであって少しの真実も含まれていない誤りもない。あまりに早急に誤りを捨て去ると、その誤りと共にいくらかの真実も一緒に捨て去ってしまう責任を負うことになる。同様に他人の議論を受け入れるときには、必ずいくらかの間違いも一緒に手にしてしまう。正確な議論とは単に互いの目に映った大きな誤りと小さな誤りを両者がはっきりと見えるように拾い上げる過程である。... [p.307] 55[*]

* 55. McFarland, Marvin W. (ed.) 1953. The Papers of Wilbur and Orville Wright. New York: McGraw-Hill.



 

「空気力学の歴史」レビュー

記事ページ 発行: 2010年05月01日

これは、Jr.,ジョン・D. アンダーソン=著, 織田 剛=訳「空気力学の歴史」アマゾン・レビューのβ稿です。

このβ稿は1300字あります。アマゾン・レビューは800字以内であることが求められているため、アマゾン・レビューへは500字程度削った文章を投稿しました。


人類はいかにして超音速機を設計できるようになったのか


「空気力学の歴史――飛行理論の発見と航空機設計への反映――アリストテレスから超音速機まで」、内容を伝えるという観点から、副題を私なりに付けるとこうなる。

本書は訳書であり、原書名は「A History of Aerodynamics and Its Impact on Flying Machines」である。直訳すれば「空気力学の歴史および航空機へのその影響」である。

以下のような言葉に興味をもつ人は、この本を興味を持って読めると考える。

 航空機・流体力学・科学史・技術史・工学・科学から技術へ(科学の技術移転)・経験と科学


●大要

本書には、流体力学の黎明(数式表現以前)からの空気力学(航空分野の流体力学)の発展史が書かれている。

乱暴に言えば、紀元前から始まる、超音速機開発史である。人類が、どのような発見をし、時に間違いをおかし、どのような実験装置を作って、どのような知見を獲得し、人と人・人とモノがどのような刺激をして、最終的に超音速機を設計できる状態になったのかが書かれている。

この発展史は、紀元前350年のアリストテレスによる、連続体と、連続体中を動く物体に働く抵抗の概念(p.21)から始まる。最終章は超音速機を主に扱っており、1950・60年代の極超音速飛行・計算流体力学(p.574)で終わる。

なお、本文の折り返し地点は、ライト兄弟(動力飛行:1903年)について書かれている。


● 特徴1: 各年代の最新の空気力学が、当時の航空機設計にどのように活かされていたか

各年代の最新の空気力学が当時の航空機設計にどのように活かされていたかについて述べられている。筆者は以下のとおり宣言している。

「本書ではある重要な質問に答えることを心がけている。その質問とは、ある時代の空気力学の最先端技術が、実際にその時代の飛行機の設計にどの程度取り入れられていたのかということである。(p.vi)」

これは、経験よりも理論に得意をもつエンジニアにとって、関心をもつ部分であろう。私も関心を持った。

本書は以下を主張している。

理論空気力学の知見を参考にせず(応用空気力学は参考にされた)、技術者リリエンタールとライト兄弟が飛行機をまず飛ばす。実機は科学者を飛行機にひきつけ、空気力学が大いに発達する。しかし、設計者はその間に経験を積み、経験に基づく設計に自信をもち、最新の科学(学術研究)の成果が設計に反映されない。

しばらくして、実機にひかれた科学者は、科学と設計者の間の橋渡しを果たすようになる。こうして、「それらの橋を渡る情報量と渡る流れの速さは設計者がどれほど必要としているか、つまり必要性に依存(p.559)」するようになった。

● 特徴2: 空気力学の発展に人の人生あり

本書に登場する人は、帯に「抜粋」として挙げられているだけでも 40名にのぼる。各人の略歴が脚注や表ではなく、本文中に書かれているため、各人の人生を空気力学の発展史に組み込んで読者は読むことができる。

同時代の人とのつながりについても言及されており、例えば、ナビエは、フーリエの弟子であり且つ友人であった(p.115)ことが書かれている。

 

どのような状態になればモノを設計できるのか――知と設計

記事ページ 発行: 2010年05月01日

設計とは、要求性能を大きさ・形・材質の組み合わせに変換する逆解析である。逆解析手法が貧弱であるため、設計では仮に置いた設計解から性能を予測する行為が繰り返し行われる。

よって、モノを設計するには、正確な予測を繰り返し行える必要がある。

正確な予測を繰り返し行える状態とは、以下からなる。

 ・正確に予測できる手法を得ている状態。

   つまり、正しい式(演算子は何か[1A]、何が変数か[1B])、正しい係数の値[1C]を得ている状態。

 ・予測を繰り返し行える状態。

   つまり、予測の条件・結果が、設計者にとって使いやすい形に表現されている状態。[2]


発想の元:

いずれもJr.,John D. Anderson=著, 織田 剛=訳 : 空気力学の歴史 (京都大学学術出版会, 2009)から。

p.217.

ラングレーの観点から考えると、ニュートンの正弦二乗法則が完全に間違っていることを示している点にこれらの計測結果の主な価値があった。 [1A]


p.275.

ライト兄弟はリリエンタールの表を用いて1900年のグライダーと1901年のグライダーの揚力計算を行う際に3つの重大な誤りを犯していた。

 (1)スミートン係数に誤った値を使用した。 [1C]
 (2)リリエンタールと自分達の翼におけるアスペクト比の相違による差を修正していなかった。 [1B]
 (3)リリエンタールの円弧翼型と前縁近くに最大キャンバー位置をもつ自分達の翼型における最大キャンバー位置の相違による差を考慮していなかった。 [1B]


p.441.

 NASAは新しい解析とデータを飛行機設計者にとって役立つ形に素早くまとめた。「飛行機の設計者には飛行機のどの部品についても詳細な知識を得る時間も機会もないのだから、最適なカウリング寸法を得る簡便な方法と、おそらくはその寸法を選ぶに至る有力な理由が必要になってくる。そのような方法を提示し、実施例に関する考察と共にその方法を解説することが本報告書の目的である 112[*]」 [2]

* 112: Stickle, George. 1939. Design of N.A.C.A. Cowllings for Radial Air-cooled Engines. NACA TR 662.


 

設計技術発展の方法(1) : 実験装置を発展させる

記事ページ 発行: 2010年05月01日

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以下の性質をもった実験装置によって、新たな知見が獲得され、従来の誤った知見が棄却される。

 ・性能に関わる変数を表現できる実験装置

 ・誤差を含む係数を使って計算しなくても、得たい値を得られる実験装置


発想の元:

いずれもJr.,John D. Anderson=著, 織田 剛=訳 : 空気力学の歴史 (京都大学学術出版会, 2009)から。

p.289.

 ライト兄弟は抗揚比D/Lを直接計測する第2の天秤(...)も製作した。...ここでも計測結果は速度とスミートン係数から独立であった。


p.353.

エッフェルは風洞試験結果との比較に利用できる落下試験のデータを持っていたので、それまでの実験では繰り返し言われてきた風洞試験に関する疑問を研究者として初めて完全に解消することになった。


pp.405-406.

ムンクの翼型データは、実物大レイノルズ数を模擬できる条件での試験が可能であったNACA可変密度風胴を使用して得られていたので、その意味でも先駆的であった。

...可変密度風胴はその当時、世界でも実物大レイノルズ数での試験が可能な唯一の風胴であった。

← pp.401-402.

厚翼はより大きな抗力を生成するという直感的かつ誤った概念のために、...。初期の風胴試験結果(...)では、厚翼は薄翼よりも大きな抗力を生成していたために、その概念はより強固なものになった。しかし、今日ではそうした試験結果は単に低レイノルズ数においてのみ正しいことが分かっている。

...

設計者は自分達が見逃していることを知る術がなかった。


ライト兄弟は、計測したグライダーの性能が自分達の風洞実験データに基づく計算結果と完全に一致したことにより、リリエンタールの表から解放された。(p.306.)

 

設計技術発展の方法(2) : 実機を作り、機能させる

記事ページ 発行: 2010年05月01日

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技術者が作った実際に機能を果たす機械を目の当たりにして、科学者が研究に参画するようになる。

そのような科学者は、科学を大いに発展させ、加えて、設計者への科学の技術移転の橋渡し役を果たすようになる。

補足:
機械には設計技術と操作技術がある。操作技術は実機がないと獲得できない。また、操作技術は制御・操作系の設計技術に活かされる。


発想の元:

いずれもJr.,John D. Anderson=著, 織田 剛=訳 : 空気力学の歴史 (京都大学学術出版会, 2009)から。


オットー・リリエンタールの「標準型グライダー」を購入したニコライ・ジューコフスキー(p.207)。なお、ジューコフスキーはリリエンタールを訪問して、彼の飛行を見ている。(p.208)

ルイ=チャールズ・ブレゲは、1908年にフランスで行われたウィルバー・ライトの飛行実演に刺激された(p.416)。

p.340

クッタ、ジューコフスキー、プラントルは飛行機に夢中になっていた。19世紀と比較すると何という違いだろうか。当時は、尊敬される学者達はいかなる飛行機との関わりを持つことも避けていた。その結果、19世紀には科学から動力飛行機の設計への技術伝達が全く欠けていた。
 学者達の考え方を変えたのは何だったのか。それはリリエンタールとライト兄弟の小さな実績であった。


関連:
ヘンリー・ペトロスキー=著, 中島 秀人・綾野 博之=訳 : 橋はなぜ落ちたのか―設計の失敗学 (朝日選書, 2001) p.110.

 数学者や科学者達が必ずしも思い出したがらない事実だが、技術の相当数はまず成功した後にその理論的理解が生まれたのである。もちろん古典的な例は蒸気機関であり、熱力学の工学が成立するはるか以前にそれは発明され、高度の信頼性にまで発展した。実際、動く蒸気機関という人工物自体が、その動作についての理論を呼び起こしたのである。



補足の発想の元:

p.5.

1914年7月にロンドンで開催された王立航空協会でイギリス人飛行士 B・C・ハンクスが行った講演...「私は今日の飛行の水準は機械類の改良よりも操縦技術の向上によるところの方がはるかに大きいと考えている。」


p.208

ラングレーは動力飛行を試みる前に飛行技術を学ぶことの価値を認めていなかった。...リリエンタールは動力飛行を試みる前に空中飛行を経験しておく必要があると確信していた。...そしてライト兄弟のやり方でもあった。


 

設計技術発展の方法(3) : 科学に向かい合う

記事ページ 発行: 2010年05月01日

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機能を果たす設計解が見つかると、設計者は、設計を科学的に発展させなくても直感的な改良(エンジン出力の増大など)によって、機械の性能を上げることができる。

科学から設計者へ技術が移転する速度は、かなりの割合で設計者側の必要性によって決まってしまう。つまり、設計仕様次第なのである。

設計仕様が経験がある領域から逸脱する場合、経験ある設計手法では、設計仕様を満足する設計解が見つからないかもしれない。そのような場合に、設計者は科学に向かい合う。


発想の元:

いずれもJr.,John D. Anderson=著, 織田 剛=訳 : 空気力学の歴史 (京都大学学術出版会, 2009)から。

pp.342-343.

比較的貧弱であった空気力学的な設計特性をものともしないだけの強力なエンジンを搭載したおかげで、...。その高速性能と構造的に頑丈であったことから、第一次世界大戦における最も優秀な航空機に数えられている(...)。常に空気力学が飛行機の成功と不成功を決定する要因というわけではなかった。


p.423.

保守的な設計手法の好例である。つまり、「設計者達は飛行機設計のやり方を知っている実務家としての姿勢を身につけてしまっていた。それまでの20年間、設計者達はずっとそうして設計を行ってきたからである。101[*]

* 101. Miller, Ronald, and Sawers, David. 1970. The Technical Development of Modern Aviation. New York: Praeger.


p.559.

 エンジニアリング科学から飛行機設計者へ技術が移転する速度は、かなりの割合で設計者側の必要性によって決まってしまうことは明らかである。設計者にとって決められた設計仕様を満足させる唯一の方法が最新の科学研究成果を丹念に調べることである場合に、技術移転が速やかに行われるようになる。


関連:
100年前の技術から現代への教訓を学ぶ(15.365 Disruptive Technology) - My Life in MIT Sloan

 

航空における操縦・制御の重要性

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