□燃料電池ワールド
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■Vol.154 2004/09/01発行
◆燃料電池NPO法人PEM−DREAM
■お知らせ
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☆9月の燃料電池市民講座
『燃料電池の原理を勉強する』
ゲスト=神谷信行氏(横浜国立大学大学院教授)
燃料電池は近年、自動車や家庭用、携帯機器用などのさまざまなアプリケーションで実用化を目指す努力が進められています。それは一体、どうしてなのでしょうか。その秘密を理解し、また燃料電池技術の難しさを知るために、燃料電池の基礎理論について勉強してみたいと思います。
神谷先生は長年、固体高分子型やダイレクトメタノール型の研究に取り組んでこられました。燃料電池の原理についてお話をいただくとともに、基礎学問の立場から現在の状況をどう見ておられるのか、についても伺いたいと思います。
○日 時 9月25日(土)午後2時から
○場 所 岩谷産業株式会社本社会議室(新橋駅から徒歩約10分、地図をお送りします)
○参加費 2000円(PEM−DREAM会員は無料)
○申し込み方法 メールまたはFAXにて、「9月の燃料電池市民講座」と明記の上、氏名、連絡先、電話番号をご記入の上、お送り下さい。
メール info@pem-dream.com
☆『燃料電池パワー』Vol.54の内容
【今週の燃料電池関連画像】著作権フリー/添付ファイル
◇第15回世界水素エネルギー会議」より その8
船内電源に2MWの燃料電池を搭載するColor Lineの国際フェリーと、推進用に400kWのPEM型燃料電池を搭載するアムステルダムのフェリー
(第15回世界水素エネルギー会議でのL-B-Systemtechnik社の発表スライドから)【沼崎英夫/技術レポート】
◇EUの舶用燃料電池プロジェクトー小型船の推進と大型船のでAPU
※このメールマガジンは、より専門的な情報をPEM−DREAM会員に提供しています。サンプルは、http://www.pem-dream.com/conts.html
■燃料電池関連イベント
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●JPI水素・燃料電池セミナー
☆第8010 回
水素経済の実現に向けて大規模な投資を続ける「ゼネラルモーターズGMにおける燃料電池ビジネスへの取り組みと今後の展開」
◇講 師:
ジョージ ハンセン(George P. Hansen)氏(ゼネラルモーターズ・アジア・パシフィック・ジャパン株式会社燃料電池事業本部(FCA)日本支部部長)
◇日 時:9月8日(水) 午前10時〜12時
◇会 場:JPIカンファレンススクエア(千代田区有楽町)
◇受講料:24,890円(消費税込み)
☆第8019回
「シェルグループ水素エネルギー事業の展開と供給インフラ整備への取り組み−シェルグループの水素事業開発会社<Shell Hydrogen>の動向を踏まえて詳説−」
◇講師:
Shell Hydrogen(Business Development Advisor)
吉田克巳氏(昭和シェル石油株式会社研究開発部水素プロジェクト課課長)
◇日 時:9月15日(水) 午前10時〜12時
◇会 場:JPIカンファレンススクエア(千代田区有楽町)
◇受講料:24,800円(消費税込み)
☆第8013回
2007年度までに搭載車を実用化すべく、神奈川県に専用施設を設け、今後5年間に500億円以上を投資する「日産自動車株式会社燃料電池自動車の実用化へ向けた取り組みと普及の課題」
◇講師:
宮坂浩行氏(日産自動車株式会社先行車両開発本部FCV開発部企画・渉外グループ主担(兼)総合研究所第二技術研究所総括グループ主担)
◇開催日:9月15日(水) 午後2時〜4時
◇会 場:JPIカンファレンススクエア(千代田区有楽町)
◇受講料:24,860円(消費税込み)
◇以上の詳細情報
http://www.jpi.co.jp/semi-enrg/20040915_8013.html
◇主 催:株式会社 日本計画研究所
◇問い合わせ・申し込み:
株式会社 日本計画研究所(エネルギー担当:千島)
TEL:03−3508−9070
上記HPから申し込みができます
●燃料電池・水素エネルギー技術展 in 九州
西日本地域では初めての燃料電池及び水素技術に関する見本市
◇日 時 10月27日(水)〜29日(金)10時〜17時
◇会 場 西日本総合展示場本館
(北九州市小倉北区浅野3丁目8-1)
tel.093-511-6848 fax.093-521-8845
◇主 催 経済産業省九州経済産業局/NEDO/九州大学/九州燃料電池研究会/財団法人西日本産業貿易見本市協会
◇主要参加団体 九州大学/NEDO/JHFC/JARI/NEF/エンジニアリング振興協会/トヨタ/ホンダ/日産/GM/ダイムラークライスラー/岩谷/日立/出光興産/東陽テクニカ/コフロック/マイクロパワーエナジー/カナダ/新日本製鐵/MHI/IHI/富士電機/インフラテック/等 約50社
◇問い合わせ 財団法人西日本産業貿易見本市協会(担当:有田・古賀)
北九州市小倉北区浅野3−8−1 tel.093-511-6848
◇詳細は、http://www.eco-t.net/douji/fuel_cell/fuel_cell.htm
■PEM−DREAMニュース
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◇FC視点のマガジン・ウォッチング
船瀬俊介「疾れ!電気自動車」(築地書館)
○新参の燃料電池車へ近親憎悪の妄言集
副題に、「人類の未来を救うクルマはこれしかない 電気自動車(EV)Vs燃料電池自動車(FCV) さらばFCV 開発には障害がいっぱい。」とある。EV熱愛のために近縁のFCV排撃の激論である。
著者は大学時代から消費者運動一筋、日本消費者連盟の事務局10年の活動後、独立して消費者運動活動家・評論家として18年、数十冊の著書は日用品、化粧品、食品、酒類、住宅等広い分野に及び、食品安全、電磁波障害、欠陥住宅、生活環境問題を追及している。「買ってはいけない」(共著)等で糾弾されたメーカーは数百社に及ぶ。大気汚染を逃れて埼玉県名栗村に木造住宅を建て、医療過誤で夭折した長女の賠償訴訟に弁護士を立てず自力で勝訴、大学病院側が控訴して東京高裁で係争中。90年に、現在アメリカ大統領選に市民運動を背景に再度立候補しているラルフ・ネーダー(欠陥車問題を暴いた「どんなスピードでも危険」の著者)の招待で渡米、消費者運動家と交流した。
11年前に「近未来車EV戦略」(三一書房)を書くに当って、高性能電気自動車を研究していた環境庁国立環境研究所(当時)の研究員であった清水浩氏(現・慶應義塾大学環境情報学部教授)に会い、「初対面のひとは、この寡黙な方が世界ナンバーワンEVエンジニアだとは想像もつかないだろう。真の天才とは、そのうようなものだ。」(本書)と心酔。「「清水さんを文部科学省長官(大臣?)にすれば、この日本は救われる」。その確信は、いまだ微動だにしない。彼のパイオニア・ワークである一連の超高性能EVを、世界中で生産すれば、人類は恐怖の温暖化から救われる。未来に向かって、わたしたちの子や子孫たちは、生きのびていけるのだ。その意味で"ヒロシ・シミズ"は、人類を救う男だ。わたしは真剣にそう確信している」。前書では最高速176km/hを出したスーパーEV"IZA"を柱にしたが、11年後の本書でも昨秋の東京モーターショーに展示され、400km/hを目指すという"ELIICA"に至る清水氏の手掛けた一連のEVシリーズの紹介に終始している。
著者は、チャンピオン・データ収得を目的とした、あるいは限界性能に挑戦を目的とした実験車と実用車の違いを殊更無視して持論を煽っている。
著者からすれば、日本の乗用車メーカー各社に取材を申し入れたが、応じたところも、「現在はEVの開発はやっていない」との回答や、取材を断られたところもあり、経済産業省自動車課では現在は国の戦略でFCVの開発に注力している、といわれ、清水氏のEVしか取り上げられなかった、ということなのだろう。「チョロQ」など数社の手作りEVとヤマハの「パッソル」をまとめて紹介しているだけである。
著者のEV礼賛、FCV否定の論拠は単純明快で、EVは発電所で集中的に発電するので高効率・低排出で、家庭で夜間にバッテリーに充電できる、エンジン車に比べて駆動系が簡素、年産10万台で現在のクルマより安くでき、燃費は安く無公害。FCVは燃料電池とバッテリーとダブルの装備が必要で、エネルギー損失が大きい水素の車上貯蔵が必要、エンジン車以上の放熱面積のラジエーターが要る、水素の生産、供給も整っていないのに、国際的な開発フィーバーはEVからの関心逸らし、エンジン車にバッテリーとモーターを積み替えただけの"EVもどき"で失敗したEV開発ブームの再現で、破綻して石油資本の術中にはまる、というもの。70年代当時の工業技術院の大型プロジェクト「電気自動車」の圏外にいて本格的なEVを開発した清水氏の成果を、まやかしの"EVもどき"で失敗した自動車産業は黙殺、清水氏のEVは「性能がよすぎてつくれない」として国益を損ねている、というもの。
"FCVは「水素がなければタダの箱」"と繰り返し書いているが、一体、広範で多様な水素資源の開発・活用に世界中で無数といってよい研究者、企業、大学・研究機関が取り組んでいる実状を知っているのだろうか。古くから行われている水電解、炭化水素からの改質のほか、水素化合物の熱分解、製鉄、化学工業の副生ガスからの精製、バイオマス・バイオガスからの改質等多岐にわたり、その方法も水素生成微生物の光培養等も含めて多様である。日本の場合、ポスト石油のグローバルなエネルギー・キャリアーとして水素を位置付け、90年代に未利用資源からの水素の生成と貯蔵、輸送、国際的な流通、利用方法の長期的・総合的な研究開発プロジェクトである「WE−NET」(ワールド・エナージー・ネットワーク)計画がNEDOによって進められ、国際的にも注目を集め、むしろ国外で知名度を高めた。今世紀に燃料電池の開発・実用化・普及を国家戦略とする政府の方針で、長期的視点に立って基礎的研究を重視した「WE−NET」は第2期の中途で急遽、短期・直接成果指向の燃料電池プロジェクトにシフトされたが、この軌道変更を惜しみ、異論は国内外に少なくない。
化石燃料と異なり、地域的偏在がなく、水素単体では存在しないが広範な1次資源から生成可能で、再生可能で低公害の水素は次世代エネルギーとして製造、流通、利用の研究開発が世界的に集中されている。技術的・経済的フィージビリティーは高いと見てよい。ゆえに学術会議・技術展は年間通して世界各地で開かれている。その活況はEV関係の比ではない。「水素をどうする?」−そして、だれも言わない、と見出しが付いているが、調べる努力を放棄して現状から遊離している。
200年の歴史を持つ自動車は、蒸気機関から生まれた前史に続いて電気自動車の時代が続いてダイムラーとベンツによる内燃機関の実用化で飛躍した。その後も、電気自動車は近年まで断続的に台頭して来た。エンジン車より長い歴史のあるEVの見果てぬ夢の前に登場した生まれたばかりのFCVをこき下ろすのは、偏見で読者をミスリードするものである。
○疎漏・不勉強を露呈
「首都圏5ヵ所"水素スタンド"のお笑い」の見出しのほか、数ヶ所で繰り返し「5ヵ所」と書いて地図まで添えてあるから、誤記・誤植ではない。古い資料で書いたからだろう。当初から10か所の計画で、03年度には設置完了した。オフサイト3か所(内1か所は液体水素)、オンサイト7か所はそれぞれ異なる方法で水素を生成している。1国でこのような多様な実証試験をしているところは他にない。いうまでもなくこれらは2010年、20年、30年に設定された普及目標実現に備えての試験目的の設備である。
心酔したものの紹介一本槍というのは産業社会では通用しない。多様な競合技術があってこそ実用性は保たれる。
電気自動車の世界では、南北アメリカ、ヨーロッパ、アジア大洋州の3つの地域国際組織から構成される世界電気自動車協会(WEVA)が世界で持ち回りで開いている国際電気自動車シンポジウム(EVS)が35年の歴史を持つており、昨年11月にロングビーチ(カリフォルニア州)で開かれた「EVS−20」では1000名が登録、225件の発表があり、100社以上の出展、試乗車74台が参加した。燃料電池を含む水素技術・経済・社会に関する総合的な発表の場である第15回世界水素エネルギー会議は6月末に横浜で開かれた。途上国からも含む多数の発表と展示、試乗が行われた。本書にはこれらを取材し、せめても資料に目を通す知的努力が微塵も見られなかった。これはジャーナリストの資質に関わる基本的な問題である。
オイルショックに先立つ70年代に始まった大型プロジェクト「電気自動車」は数年にわたって要素技術、車両技術、ソフトウエアの綜合的な開発を行った。これらを調べもしない著者がエンジン車の車台に載せ替えただけの「木に竹を継ぐ」「もどき」で失敗を実証して自動車メーカーと石油メジャーを安堵させて幕を引いた、と悪罵を反復しているのは事実とは異なる。実証検分した跡が全く見られない。これに引き換え、清水氏のEVシリーズには、「流線型」の車体で本物と絶賛する。生産車とは異なる開発目的で1品試作された限界性能挑戦のテストベッドを、なせばなる、量産すれば安くなる、不可解な自動車メーカーのEV無視、撤退が環境、エネルギーの悪化を招いている、と斬って捨てている。
ホンダは、清水氏が採用した希土類磁石ブラシレス・インホイールモーターとリチウム電池を使わないで2000年にEVの市販から撤退した、と非難しているが、先端技術と量産技術、実用化の時期を混同ないしは無視した我田引水の主張は全編に見られる。先端技術の塊といってもよいレース用ソーラーカーの世界で、世界のトップ・チームにインホイールモーターが登場したのは96年前後であり、リチウム電池が普及しだしたのは99年ごろからである。
著者はトヨタには電動・エンジン駆動ハイブリッド車の拡大で好感を寄せ、セミEVから「あと半歩進んでピュアEVを」「慶応チームと手を結べ」と半ば声援しているが、トヨタがハイブリッド車で商業的にも成功しているのは、エンジン駆動と電動の性能と燃費のよいところを選択的に活用したからであり、その目的に合ったコンポーネントと高度の複合制御を行うソフトウエアの開発の成果である。97年に世界初の量産HEV「プリウス」を発売してからの実用データと設計技術の向上で、03年の第2世代車ではこれらにさらに磨きが掛かり、最近は同社の乗用車系で第4位、アメリカ市場ではガソリン高騰の追い風でバックオーダー約半年というブームである。著者の言うエンジンとモーターのダブル積載で見掛けの重量・容積増、コスト増にもかかわらず、単純にいえば「よいとこ取り」の製品構成が低速性能、中高速性能、トータル燃費でエンジン車を凌駕し、開発途上のFCVのターゲットにされているほどのすぐれものとなった。この高度の技術の集積が日産、ホンダ、フォードへのそれぞれの技術やコンポーネントの供与となっている。
著者はトヨタとのインタビューの項で、「リチウム電池の存在に触れないのはなぜ?」と見出しでうたっているが、著者並びに応対した社員の不勉強をさらけ出したものだ。トヨタは小型乗用車「Vitz」の「トヨタ・インテリジェント・アイドリング・ストップ・システム」(TIIS)の電源にリチウム・イオン2次電池を採用している。一時停止時の継続運転負荷、再発進時の急速負荷に出力密度の大きいリチウム・イオン電池が好適であるからである。トヨタは97年の「プリウス」の立ち上げに当って松下電器と合弁で、ニッケル水素2次電池の生産・供給の「パナソニックEVエナジー」を設立、一連の同社のハイブリッド車向けにニッケル水素2次電池を供給しているほか、ホンダのハイブリッド車向けに外販もしている。97年時点ではニッケル水素2次電池がコスト/性能/安定性からHEV用にはベストという評価による判断である。00年には円筒型からさらに出力密度の高い角型の次世代品で小型化・軽量化も実現、03年にはさらに高出力密度の新角型を2代目「プリウス」に搭載した(エネルギー密度は変わらず)。一方では、次世代FCV向けなどに平板型のリチウム・イオン2次電池の開発も進めており、昨秋の東京モーターショーでもみられた。このあたりは企業戦略的な動きである。
リチウム・イオン2次電池はFCV開発のNEDOのプロジェクトでも重要課題であり、独立した研究事業に取り上げられており、産官学の多様な研究活動で成果を挙げている。06年までの5か年計画の期央ですでに世界最高水準を達成した分野も出ている。省資源時代の車齢と目される15年間に極低率の劣化率の高出力電池が、燃料電池の負荷変動を少なくし、車両の高性能化とエネルギー効率の向上を支える。「そんなにいいものなら、エンジンや燃料電池を廃止して2次電池だけでいけば、安上がりではないか」という近視眼的思考からは、動力源のアクティブとパッシブの相補的ベスト・ミックスという現実的なシステム的思考は出てこない。
○迷論果てしなく
著者は、「水素インフラがない」「超コスト高」「産業界トップが普及には自暴自棄」「白金の枯渇」がFCV普及を阻む「4つの絶望」という。
水素の供給についてはすでに述べた多元的な潜在資源と多様な精製方法があり、開発と実用化が世界的に進められている。世界でも突出しているといわれる戦略目標を掲げている日本の2020年FCV500万台、定置式発電装置(大半が都市ガスまたはプロパンガス・灯油による家庭用熱電併給システム)10ギガ・ワットの水素供給は、製鉄、化学工業などの副生ガスからの精製で充当できるという試算がある。普及には現在のコストの1/100以下が必要とされる。量産効果が1/10以上、ブレークスルーが1/10以上が必要とされる。
このうち、技術のブレークスルーが難関の連続であるが、細かい要素技術の集積からなる燃料電池の普及にはひとつひとつの技術的課題をつぶしてゆくしかない。未踏の技術について、できるとも、できないともいう証明はそれしかない。しかしフィージビリティーはしだいに開けつつある。「自動車産業が投げている」というのは、ホンダの吉野浩行社長(当時)が「燃料電池自動車なんて普及しねぇよ」といったという言葉を捉えて、技術雑誌「トリガー」(2002年4月号)が「燃料電池自動車に陰りが見え始めてきた。FCVは成功しないという見方が急速に広がって来たからだ」という論評を拠りどころにしている。ここでは片言隻句を捉えてのキャッチボールはしないことにする。
「白金カタストロフィー」はまず、30年以上前に自動車の排気対策に反対するサイドで声高にいわれた。現在、排気規制の厳しい先進国では自動車はほとんど、白金、パラジウム、ルテニウムなどの貴金属触媒を使っている。研究開発の結果、高度の触媒使用技術が実用化され、自動車用排気浄化触媒の原単位は劇的に下がり、有価物のリサイクルが整備され、幻のカタストロフィーはなくなった。エンジン・モデフィケーションによる排気浄化の仕上げに、触媒を使うことが有効で経済的であることが定着した。
現在のFCは、いってみれば相当、"大味"な触媒の使い方をしている。ともかく低温型燃料電池を実用化しようという優先課題で突き進んできた。現状は反応に関与しない触媒のムダな塊が電解質のあちこちに散乱している有様だ。ナノ機構の分析が進み、触媒の分散方法、担持方法、反応方法でブレークスルーは期して待つべきものがある、といってよい状態である。そうならないことには資源的にも、経済的にも低温型燃料電池の普及は成立しない。
著者はEVがスグレモノの例示に自動運転をしきりに挙げているが、これは筋違い。自動運転のレベルは多段階であることの認識を欠いている著者は、住宅のオール電化並みに簡単に夢見ているが、FCVよりも遥かに広い分野の技術の集積が必要で難度は高い。実現には水素社会の啓蒙と同じくパブリック・アクセプタンスの成立が必要である。主要に認知と制御の技術であって、原動機の種別には依存しない。現状はセンサ、情報処理技術の発展で低・中レベルの一部の自動化制御が部分的に製品化されて採用されている。インホイールモーター全輪駆動だから自動運転の導入が容易などというものではない。著者が世界オンリーワンと絶賛してやまない慶大・清水研でも電動・自律運転テストベッドを開発して試走しているが、なぜか本書では紹介がない。
著者は、現在の発電方式、送配電方式による装置の製造、運転、管理、廃棄の総コストと環境負荷、同じくEVの総コストと環境負荷とエンジン車、FCVのそれらとの比較をせずにきわめて大雑把に経済性を比較しているのはフェアではない。
水素供給の当てがないFCVはブラックコメディー、とネガティブ・キャンペーンに余念がない消費者運動家の著者が、EVはコンセントで夜間充電できるといっているのは、原発の夜間余剰電力が前提である。電力各社は夜間余剰電力の拡販にいろいろな特典メニューに知恵を絞っている。
巻末に7行ほど、家庭用燃料電池に触れ、都市ガス配管から改質して水素をつくり、オンサイトで熱電併給ができ、放射能を発生させる原発や、有害電磁波を放射する送電線も要らなくなり、エネルギーの自立に貢献し、日本の国力に寄与するからFCは家庭でこそ使うべきで、リチウム・イオン電池で走るEVがあるのでFCVは全く不必要と書いている。
そうとすれば、原発と送電線を廃止し、家庭用燃料電池でEVのバッテリーの夜間充電を行うのが著者の理想社会なのだろう。
都塵を避けて僻地に住む著者にとって必需品であるマイカーを新車に代替しても依然エンジン車を持ち続けているのは、相応の理由(EVが高価格、使い勝手、中古車市場が未成立等の経済性)があるからなのだろう。消費者運動家・評論家の掘り下げるべき問題ではなかろうか。
(沼崎英夫)
注:この原稿は『燃料電池パワー』Vol.53から転載しました。
■WEB LINK NEWS
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04/08/27 つくば市、新エネ特区を始動−関彰商事が第1号認定コジェネ普及へ(日刊工業新聞)
関彰商事(茨城県下館市、関正夫社長、0296・24・3121)が第1号の事業認定を受け、今後、同社がつくば市内で家庭用燃料電池コジェネレーション(熱電併給)システムを設置する際の規制が大幅に緩和される。関彰商事はこれを受け、新日本石油が開発中の燃料電池を社員宅で稼働させて試験運転を開始。家庭用燃料電池の本格発売に向け、布石を打つ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040827-00000020-nkn-ind
04/08/27 水素社会の実現へ 来年度概算要求、調査費3億8200万円−−国交省
/北海道(毎日新聞)
国土交通省は26日、家畜のふん尿と風力発電を活用し、水素を主要エネルギー源とする北海道版「水素社会」の実現に向け、来年度の概算要求に調査費約3億8200万円を盛り込むことを決めた。今後、実験に参加する自治体を公募する。水素は燃料電池に欠かせない存在で、同省は「エネルギー面で自給自足型の地域づくりを目指したい」としている。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040827-00000080-mailo-hok
04/08/31 【リリース・精密機器】オリンパス、島津製作所と共同開発−ナノサーチ顕微鏡発売(日刊工業新聞)
オリンパス株式会社(社長:菊川剛)は、株式会社 島津製作所(社長:服部 重彦)と共同で、世界初のミリメートルからナノメートルまで幅広い範囲での観察・計測を可能にした、超高倍率の三次元測定顕微鏡「ナノサーチ顕微鏡」を共同開発しました。 この装置は、オリンパスの走査型レーザ顕微鏡(LSM) 注1と島津製作所の走査型プローブ顕微鏡(SPM)注2の技術を組み合わせることにより、一台で数十倍〜百万倍以上のワイドレンジ観察・測定機能を有し、ミリメートル〜ナノメートルまでの観察、計測、段差測定を可能にした新型複合顕微鏡です。2.主な観察用途例
5)燃料電池関連
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040831-00000207-nkn-ind
04/08/31 <燃料電池>小中学校に設置へ 環境省が予算化(毎日新聞)
地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量が少ない燃料電池を、小中学校に試験的に設置する事業を環境省が来年度から始める。児童、生徒に地球温暖化問題に関心を持たせ、環境教育に役立ててもらおうとの狙い。初年度は全国の小中学校計10校に導入、06年度には各都道府県に1校まで広げる計画だ。来年度予算の概算要求に1億円を盛り込む。
設置する小中学校を公募し、選ばれた学校に、一般家庭用の約10倍に当たる10キロワット級の中規模の業務用燃料電池を設置する。照明などの電力を賄うだけでなく、発電の際に出る排熱を給食作りなどに利用できる。温室効果ガスの排出量は学校やオフィスビルなど業務部門で増加が著しく、02年度の排出量は90年比で約37%増えた。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040831-00000021-mai-soci
■海外ニュース(8月―3)
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<輸送>
●ダイムラー・クライスラーとフォードがバラードから燃料電池部門を買収
ダイムラー・クライスラーAGとフォード・モーター・カンパニーは、バラード・パワー・システムズの輸送機器用燃料電池部門であるバラードAG(前XCELLSIS)を買収し、燃料電池本体以外のすべてのコンポ−ネントを含む自動車用燃料電池システムの研究、開発、製造を共同で行うことになった。当面は、バラード社が次世代電動システム及び次の2世代の燃料電池の開発を担当し、同社は、ダイムラー・クライスラー及びフォードから5800万ドル(約60億円)の資金提供を受ける。
http://www.ballard.com/pdfs/19 Alliance.PDF
<定置用電源>
●Nuvera と高木産業が日本市場向けに燃料電池システムを開発
Nuvera Fuel Cells, Inc.と高木産業株式会社は、日本市場向け商用燃料電池コジェネシステムを開発する為の契約を締結したと発表した。高木産業は、同社の熱マネージメントシステムをNuvera社の5キロワット級Avantiェ燃料電池システムと統合する。又、高木産業は、Nuvera社向けにコンポーネントの生産も行う予定。
http://www.nuvera.com/
<ポータブル/バックアップ電源>
●東芝が新型DMFCを発表
株式会社東芝がデジタルオーディオプレーヤー及び携帯電話用ワイヤレスヘッドセット用電源として直接メタノール法燃料電池のプロトタイプを発表した。新型燃料電池は、出力100ミリワット、重さ8.5グラムで、2ccの高濃縮メタノールの充填でMP3音楽プレーヤーを20時間駆動可能である。
http://www.toshiba.co.jp/about/press/2004_06/pr2401.htm
<燃料/改質器/貯蔵>
●三菱商事が水素製造ベンチャーを設立(※このニュースの詳細へのリンクはありません。)
三菱商事はブリティッシュ・コロンビア州バンクーバーに電気分解高圧水素エネルギー発生装置の開発、製造、販売を行う新たなベンチャー会社、H3 Energy, Ltd.を設立した。H3 Energy社は、小規模産業用途、燃料電池車用水素充填ステーション向けの商用発電機を2005年末までに上市する予定。
<報告書/市場調査>
●ニュージャージー:水素経済における機会と選択肢
ルトガース大学のエネルギー、経済、環境政策センター(CEEEP)が「New Jersey:Opportunities and Options in the Hydrogen Economy(ニュージャージー:水素経済における機会と選択肢)」と題した報告書を発行した。報告書は、政策策定者に対し、各州でのエネルギー、経済開発政策の一部として、水素の普及を推進するかどうかを判断する為に五つのステップを踏むことを推奨している。レポートは、以下のリンクから、オンラインで閲覧が可能。
http://policy.rutgers.edu/ceeep/images/ceeep_report7_04.pdf.
<その他>
●USFCC/BTI 事務局長Bob Roseが2004 Fuel Cell Seminar賞を受賞
連邦燃料電池評議会及びFuel Cell 2000の上部団体であるブレークスルー技術協会事務局長のRobert Roseが名誉ある2004 Fuel Cell Seminar賞を受賞した。同賞は、毎年、燃料電池技術の研究、開発、実証を熱心に支援した個人に対して送られるもので、2004 Fuel Cell Seminarの総会で、Bobに対して授与される。
http://www.fuelcellseminar.com/
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