燃料電池ワールド (2002/08/07 09:10)

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□燃料電池ワールド
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■Vol.057 2002/08/06発行

                   ◆燃料電池NPO法人PEM−DREAM

                        ◇http://www.pem-dream.com/

☆「遊んで作る燃料電池100円実験キット」(再掲)

 日本中、どこでも誰でも、手軽に、安全に、安上がりに燃料電池の原理を実験できる「手作りキット」を、「遊んで作る燃料電池100円実験キット」と名前を変更しました。このキットの材料と製作ストーリーを書いた資料を無料で差し上げています。ご希望の方は、info@pem-dream.com までお申し込み下さい。

☆夏休みのイベントに出かけます(再掲)

 夏休みは、子どもたちにも大人にも燃料電池を伝えるいいチャンス。PEM−DREAMには、パネルの展示、燃料電池の実演、手作りキット教室の開催など、これまでの活動で蓄積してきたイベント・ノウハウがあります。

 もし、どこかで燃料電池のイベントをセットして下さるなら、積極的に出かけて協力したいと考えています。まずは私たちに声を掛けてみてください。info@pem-dream.com までお願いします。

☆8月の燃料電池市民講座と、8月14日付メルマガは、お休みします。(再掲)

■PEM−DREAM NEWS
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◇札幌の「水素・燃料電池システム実証試験」報告

 7月27日から8月11日まで、北海道札幌市の「サッポロさとらんど」で、水素・燃料電池システム実証試験の公開イベントが開催されている。どんな様子かと思い、暑い東京から脱出したい誘惑にも駆られて、5日の日に行ってみた。

 まず、イベントの体制から説明しよう。主催は国土交通省である。同省は2001年に、北海道開発庁、国土庁、運輸省および建設省が統合して誕生した。北海道開発庁は北海道開発局となり、「北海道開発のための総合行政機関」として、北海道庁の上位組織となっている。この関係は他の都府県と違っていて、「よく間違えられるんですよ」と開発局の方は語っていた。今回は、北海道開発局の予算で開催された。

 国土交通省はかつての運輸省と建設省の権限を持っているので、燃料電池に関しては自動車(旧運輸省)と定置型(旧建設省)の両分野にわたって、実際に使用する際の監督権限を持っている。経済産業省は燃料電池の研究と生産に重点があり、燃料電池の実用化には両省の歩調が合わなければ望めない。経済産業省・国土交通省・環境省3省副大臣会議燃料電池プロジェクトチームは、その協同体制を作ったということであり、札幌のイベントはその方針に基づき、「キックオフ的に実施したもの」(北海道開発局)である。

 では、なぜ北海道なのか? 北海道庁では「大学や道立試験研究機関等の研究成果を道内企業や研究機関に還元する施策」として産業創造技術研究開発支援事業を行っており、平成12年度から補助金を交付している。北海道大学触媒化学研究センターの市川勝教授が開発した「有機ハイドライドを利用する燃料電池用水素貯蔵・供給システム」は札幌市内の(株)電制が実用化研究に取り組み、平成12、13年度の補助金を受けている。また、電力やガス、石油などの大手企業と経済産業省や国土交通省、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)などが参加して「燃料電池有機ハイドライド利用システム研究会」(柏木孝夫会長)が組織されている。北海道開発局はこの技術を核として、北海道独自の燃料電池に対するニーズを分析し、「燃料電池活用における北海道の優位性」をうたった。

 北海道の優位性とは何か。それは3つに集約されている。
1.水素エネルギー資源が豊富――風力などの自然エネルギー、天然ガス、バイオガス
2.冬期の熱需要が大きい――熱需要が欧米並み
3.水素貯蔵・運搬の革新的技術――有機ハイドライド(デカリン、ナフタレン)
 

 ここで有機ハイドライドについての説明を掲げておこう。会場のパネルに表示していた説明である。
「天然ガスやバイオマスなどのメタン原料から、多孔質構造のゼオライト触媒を用いて、従来の水素製造に比べて大幅な省エネルギーで水素とベンゼン、ナフタレンを併産する技術」、あるいは「水素とベンゼン、ナフタレンとを反応させて、シクロヘキサン、デカリンなどの有機ハイドライドを生産する技術。シクロヘキサン、デカリンは常温常圧で液体であるため、水素キャリアとして安定した形で水素を貯蔵・供給することが可能である上、貯蔵性能に優れている」

 例えば、年内発売で話題が盛り上がっている燃料電池自動車に積まれる水素の貯蔵には、トヨタもホンダも350気圧で圧縮した水素ガスを詰めた高圧水素タンクを使う。これを液体水素にしようとすると−250度Cの低温で使わなければならない。単純には比較できないが、常温常圧で扱えるのは確かに魅力的だ。会場で伺ったところによると、有機ハイドライドの技術は、ひとつは触媒、もうひとつは生産されたベンゼンやナフタレンをどうするのか(今のところ必要な量は生産されており、大量に余ってしまうことが考えられる)、また水素を貯蔵したデカリン、シクロヘキサンを運搬して水素を供給したら、それを回収しなければならないことなど、幾つかの問題があるようだ。だが、これを2005年頃には実用化しようとして取り組んでいる。

 27日のオープニングセレモニーには、大勢のマスコミとともに、トヨタの燃料電池自動車も参加した。会場前の広場で人々が取り巻く前で走行したのだが、子どもも多くて担当者たちは身体を張って警護した。その一人の人が「2台来ましたよ」と言ったので、「1台だと動かなくなったときに困るので、いつも2台でやっていると聞いたことがありますよ」を話したら、「そういえば、始まる前に周りの道路を走ってきますと言って2台とも走っていましたね。大変な努力ですね」。このセレモニーはテレビや新聞で大きく報道されたため、翌日から「燃料電池自動車はないの?」といって来る人が連日あらわれるようになったが、クルーガーFCHV―4はその日だけで帰ってしまったのだ。

 定置型の燃料電池については、北海道は熱利用で需要が大きい。冬の暖房や融雪などに使うからだ。北海道地球温暖化防止計画によると、北海道の課題は化石燃料(特に石油)への依存が高く、一人あたりの二酸化炭素排出量は全国の1.3倍、特に民生部門(家庭用、業務用)では1.6倍である(1997年度実績)。このうち、民生部門が燃料電池にシフトしたと仮定すると、全国レベルは現状の2.67(t-c/人、以下略)から2.62に下がるのに比べて、北海道は3.43から2.40と激減する。だが、自動車となるとそうはいかない。まず、始動温度の問題があるし、もっとむずかしいのは「燃料電池自動車が走ったらアイスバーンができちゃったというんでは困るんですよ」という問題で、水しか出さないことが逆に困ったことになるという。こんなことは東京では分からないことだ。

 たまたま5日の日は、札幌市議会の議員さんたちが視察に訪れていた。議員の方々は、燃料電池から出てきた温水を指して、「その水は飲めるの?」と質問していた。よく出る質問だ。燃料電池が発電した電気を使って電球とテレビ、扇風機を使っていたが、役所の方が「燃料電池はたくさん使えばそれだけ発電も増えるんです」と言って、消していた電球をつけた。するとボードにある掲示板の燃料電池発電量の数値が増えだした。「おおーっ」という感じで、何だか手品を見せられたように声があがった。

 この会場になった「サッポロさとらんど」は市の施設で、札幌市の北東のはずれにある。周りはタマネギ畑が取り巻く農業と酪農の試験と見学施設だ。夏休みのせいで子ども連れが多く、実証試験の実機が設置してあるセンターハウス前には(株)電制の担当者がいて、質問に答えていた。このイベントが決まったのは5月。急きょ、設計図から起こして2カ月で作り上げた。予算と時間の制約でまだまだ改善したいところはあるが、「毎日連続運転して、そのデータが取れるのでまあまあです」と彼は語った。

 その彼が、北区新陽小学校4年生の武田雄大君につかまった。雄大君は将来は新幹線の運転手になりたい「こういうことが大好き」な子どもだ。固体高分子膜の説明は水素の説明から始まった。雄大君はセンターハウスロビーで展示している燃料電池の説明からノートを取ってきていたが、よくは分からない。
「水素っていうのはね、真ん中に大きな核があって、その周りを電子が動いているんだ」
「地球と月のようなもの? そうすると、Hは衛星で……」
「膜に水素がくっつくと分かれるんだ」
「膜にぶつかると、カキーン、分かれるっと」

 雄大君はとにかくメモを書き付ける。そのうち、どうして電気ができるのかという話になった。
「(光っている電球を指して)ほら、この光っているところを電子がどんどん走っているんだよ」
「ふーん、電子が走っているから電気ができる、と。じゃあ、燃料電池のここんところも電子が走っているんだね」
「そう。電子が走っているところから電気を取り出して……」
「???」

 この会話は話したとおりの表現ではないが大体こんな調子で、正確さとか論理的に納得するというコミュニケーションはあまり重要ではないようだった。雄大君の関心はどんどん展開して、いきなり「水素の色は何色?」なんていう質問が飛び出す。30分ほど話していて、話はとうとう宇宙の話まで弾んでいってしまった。相手をされた歌川さんは技術者だからここまで持ったのだろうが、私ではとてもおぼつかない。先日は4歳の子どもに説明してと母親から頼まれ、さすがにこれはできないと断ったという。

 ロビーでの展示は、日本ガス協会の展示物を借りてきたものだった。PEM−DREAMがやるイベント展示とは違って、さすがにきれいで立派にみえる。金がかかっているからだが、中身は同じだ。見学者は無言でさーっと見て行くだけで、私にはもったいないチャンスと思えた。だが、こうした展示そのものにも関心が持たれ、少しずつ知られていく流れを考えれば、燃料電池の普及活動はまだまだとばくちにすぎない。国の予算を何百万も使っているからには、その成果についても考えて欲しいと思うのはひがみだろうか。

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○燃料電池市民講座 http://www.pem-dream.com/citizen.html

○EVENT INFORMATION http://www.pem-dream.com/event.html

○燃料電池マイ・レポート http://pem-dream.com/report.html

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■世界のニュース〈8月)
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<輸送>
●日産が2003年に燃料電池自動車を発売

 日産自動車は、当初2005年を予定していた最初の燃料電池自動車の販売時期を早め、来年にも開始する計画だ。日産は提携しているフランスのルノーSA(RENA)と共同で燃料電池事業に取り組んでいる。

●日本が実証計画に着手

 日本電気自動車協会(JEVA)は、日本政府がまもなく公道での水素と燃料電池自動車(FCV)技術の3ヵ年共同実証に着手すると発表した。この実証計画には、日本の自動車メーカーのトヨタ自動車、本田自動車、日産自動車と、アメリカの自動車製造会社のゼネラルモーターズ(GM)とドイツとアメリカの自動車メーカー、ダイムラークライスラーAGが参加する。日本水素・燃料電池(JHFC)実証計画は日本の環境庁と通産省により支援される。

<携帯電源>
●GESが新しいDMFCシステムを実演

 ガイナー・エレクトロケミカル・システムズ(GES)は、水溶性メタノール燃料溶液を使って新しいダイレクト・メタノール燃料電池(DMFC)システムの陽極にメタノールと水蒸気を送る実験を行った。このシステムの陰極から排出される水の量は、通常の液体供給型DMFCに比べても明らかに少なかった。

●メディスが日本の燃料電池市場参入を検討

 メディス・テクノロジーズはリード・ウエスタン・アンド・アソシエイツ(RWA)との合意に達し、日本の燃料電池市場への参入を協力する事になった。RWAは、ダイレクト液体メタノール燃料電池(DLEF)製品の戦略上重要となる製造や流通提携の面で具体的な支援を行う。RWAはメディスとの事業に取り組む上で、みずほ証券(Equity Group)と連携する予定だ。

<燃料・改質器・貯蔵>
●シェルが東京初の水素ステーションを建設

 昭和シェル石油株式会社は岩谷産業株式会社と東京都と共同で、東京で初めて水素補給ステーションを建設している。このステーションは2003年に完成予定だ。昭和シェルの燃料補給ステーションは、日本政府の水素と燃料電池実証計画の一環で、日本の環境庁、通産省の支援を受け、今後、東京首都圏に5カ所の燃料補給ステーションが建設予定である。

●ダイネテックが12500psi保管シリンダー実験に成功

 ダイネテックは、12500立方インチ(825バール)の軽量水素保管シリンダーの実験に世界で初めて成功した。透過性ゼロのアルミニウムライナーに強度の高いカーボンファイバーを巻きつけた設計が特徴的だ。この12500立方インチシリンダーは、燃料ステーションでの水素保管用に開発され、次世代型燃料電池自動車(FCV)への燃料供給時間の短縮を可能にできる。これらの自動車は、水素を1万立方インチ(700バール)に圧縮して搭載する事ができる。

<燃料電池コンポーネント>
●ヌベラがルノーと合意

 ヌベラ・フュエル・セルズは、燃料電池自動車(FCVs)のマルチ燃料工程技術の研究・開発にむけてルノーと長期契約を交わした。ヌベラは2004年までに、積載型燃料リフォーマーに対応した燃料処理装置をルノーに輸送したいとしている。

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■燃料電池ワールド
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 □編集・発行:燃料電池NPO法人PEM−DREAM 

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