燃料電池ワールド (2002/02/13 14:40)

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□燃料電池ワールド
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■Vol.036 2002/02/13発行

                   ◆燃料電池NPO法人PEM−DREAM

                        ◇http://www.pem-dream.com/

■お知らせ
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◇水素ステーション・横浜の講演・首相の施政方針演説

 それは、日本で初めての出来事だった。大阪ガス西島技術センターの敷地内に建設された水素ステーションを使って、複数の自動車メーカーの燃料電池自動車が水素の供給(給油というような簡単な表現がまだない)を受けたのだ。自動車メーカーは自社の敷地内に水素の供給設備を持っているが、そこでは自社の自動車しか使われない。一般のガソリンスタンドのような使われ方は、これが初めてだった。

 2月7日は、日本初の天然ガス改質型水素ステーションの竣工式だった。1999年から始まったこのプロジェクトは、当初計画より1年半ほど前倒しで進められた。その原動力となったのが、CO2削減の国際公約となった京都議定書である。また、日本を始め世界中で進められた燃料電池技術の進歩も追い風となった。なにしろ、WE−NET(水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術開発)計画でこのプロジェクトが計画された当時は、燃料電池の商品化や市場導入という展望は見えていなかったのである。

 燃料電池自動車を提供したのは、トヨタ、ダイハツ、日産、ホンダである。大阪に燃料電池自動車がやってきたのも初めてのことで、4台の車が次々とステーションに入ってくる。都市ガス13A(主成分はメタンガス)から改質され貯蔵されていた水素が、高圧ディスペンサーから自動車の水素タンクに供給される。このステーションでは将来、水素給蔵合金を搭載した車にも対応できる設備となっている。ダイハツの軽自動車には、0.5m3の水素を20秒で、また、日産の車には1.0m3を42秒で充填した。少量なのは、ほとんど走っていないからだと言っていた。充填圧力は0.08MPaG、充填温度は7.5度Cだった。高圧ディスペンサーには、充填圧力が25MPaGと35MPaGの2つの設備があるが、今回は25MPaGの方が使われた。35MPaGに対応する燃料電池自動車はまだないのである。作業員は、ディスペンサーに取り付けられているアースバーを手で握り、カプラー(ガソリンの給油管の先端のようなもの)を車の水素充填口に取り付けて水素を送り込んだ。終わると車からアースを取り外していたので、水素の供給時には電気を取ってやるんだなと思った。作業員の方も作業上の注意として、火気厳禁なのはもちろん、アースが重要だと話していた。

 燃料電池自動車は皆静かだ。というより音が聞こえない。私はホンダ車の時に、充填後にエンジンをかける音を聞きたいと思ってボンネットに耳を近づけていた。作業員から運転者にキーが渡され、スイッチに差し込まれる。しばらくしたら、「動くから離れて」と言われた。もう、燃料電池は動いていた。キーを差し込んで発車直前にエンジンをかけると思っていたが、運転者は即座にキーを回していたのだ。まったく気づかなかった。また、4台の車とも水素充填口は同じ形状をしていたということで、部品の標準化が行われていると考えられる。

 竣工式の挨拶では、(財)エンジニアリング振興協会の岡島理事は「水素が安全に使用でき、ガソリンと同じように簡単に使えることを見て欲しい。水素が都市ガスと同じに、町の中にステーションを作れることも見て欲しい」と語った。これから約1年をかけて、ここで数々の試験運転が行われる。信頼性や安全性、最適運転条件の設定、コストの経済性など、近い将来の水素ステーション整備に向けた技術指針が作られる。

 NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の吉田理事は、「燃料電池自動車向けのエネルギー供給としてステーションがスタートした。平成15年までインフラ整備の実証研究開発をやる。CO2が大幅に増加している現状では、水素エネルギーに対する期待が高まっている」と話した。経済産業省新エネルギー対策課長の伊藤氏は、「10年前、新エネルギー庁(旧)で石油を担当していたとき、湾岸戦争直後に上司からCO2を出さない石油の技術開発をしろと言われたが、その時点では出来ないことだった。水素をうまく使えればCO2を減らす技術開発につながるということは分かっていたが、水素をどう使うかが分からなかった。燃料電池が開発されて水素が使えるマーケットがでてきた。どういう形で市場に受け入れられるのかを中心に据えて考えて、資源もつぎ込めば国民の理解も得られる。燃料電池と水素のインフラは、そういうモデルケースにしたい」と語った。

 このステーションの全体システム設計と取りまとめを担当した岩谷産業(株)牧野社長は、「究極のクリーンエネルギーである水素を見て心強く感じた。より一層の実用化に向けて努力したい」と抱負を語り、敷地を提供し、改質と精製ユニットを担当した大阪ガス(株)の遠藤副社長は、「コンパクトで、将来の都市型の水素ステーションを意識して作った。ドイツのミュンヘン空港(すでに水素ステーションが設置され、使われている)の担当者が見学に来て、最高の出来だと評価された」という話を披露した。

 世界からも、カリフォルニア大気資源庁、全米水素協会、カナダ水素協会、ヨーロッパ水素協会、中国水素協会、フランス水素協会などがお祝いのメッセージを寄せた。現在、カナダのバンクーバー、アメリカのシカゴ、サクラメント、パームスプリングス、ロスアンゼルス、ドイツではハンブルグ、ミュンヘン空港、イギリスのロンドンなどで水素ステーションが設置されたり、水素が町中で使われている。日本では法規制の厚い壁があり、(財)エンジニアリング振興協会の戸倉専務理事はプレス懇談会で、「ガソリンスタンドでガソリンと水素、天然ガスが供給できるように、安全対策をした上で規制緩和でOKにしたい」と語った。
 以下、同懇談会での戸倉氏の話から。
・水素は天然ガス以外にもいろいろ作る方法があり、ここでは天然ガスだが、(近く完成する)高知の水素ステーションでは商用電力を使った水の電気分解方式だ。実際のステーションでは、利用するエネルギーが多様で、設置場所によって選択可能となる。
・平成14年度から首都圏にも水素ステーションを建設することが経済産業省で計画されているが、4月頃にははっきりするだろう。燃料電池自動車の国の計画では、2010年に5万台、20年に500万台を目標としているが、500万台に対応するステーション数は4000カ所、10年の5万台では40カ所ということになるが、普及のためには100カ所くらいあったほうが望ましい。
・今回の建設費は総額で5億円(5年間)。将来的には3億円以下が目標だ。水素のコスト目標は、当面はガソリンエンジン車の燃料費に対して同じか、それ以下にすることだ。年間1万km走るときの燃料費は、リッター100円としてガソリン代は6万5000円〜7万円くらいかかる。燃料電池自動車の場合、m3当たり50円として3万円弱だ。将来、ガソリンハイブリッド車が競合相手になるので、それだと年間3万円くらいだ。ステーションの設備コストが3億円以下だと水素のコストを50円以下に出来る。(注:戸倉氏は「正確な数字ではないが、この試算は公表されている」と言っていた)

 翌8日は、「テクニカルショウヨコハマ2002」のテクノセミナーが横浜であり、東芝インターナショナルフュエルセルズ(株)営業企画部長の池田紳一氏が講演した。テーマは「21世紀の燃料電池開発動向」で、当初200名の定員の所、400名がぎっしりだった。

 池田氏は、燃料電池の実用例や動向を豊富に挙げ、早口でかなりの情報量の講演をした。聴講者も地元の企業家の方が多かったようで、燃料電池は旬の感じだ。以下、講演から。
・アラスカでは郵便局の仕分け機の電源に燃料電池を使っている。海外では日本の10倍くらい停電があり、停電すると機械の中に詰まったものを取り出すのに時間がかかるので、導入した。
・アメリカのオハマ市にあるファースト・ナショナル・バンク・オブ・オハマは、カードの決済銀行だ。全米からの情報が集まり、1時間でも停電すると数億の損がでる。燃料電池の方がよっぽど安心だ、との社長の一言で導入された。
・ガソリンから水素を取り出すのはそう簡単にはいかないのじゃないか。メタノールも最近は少しトーンダウンしている。当面は水素でいくのかなと思うが、技術的には作れてもコストが問題だ。誰が費用を持つのか。
・アメリカのベンチャー企業は、株式を公開して40代くらいで巨額の富を取って引退するという考え方をしている。日本の我々とは思考体系が、良くも悪くも違う。プラグ・パワー社などは、一気に数十台の燃料電池をドンと入れてしまう。日本ではなかなか出来ないことだが、やってみたい。
・コンビニは24時間電力を使っており、最近は銀行のATMが入ってきたので停電は絶対に出来ない。燃料電池が必ず必要になるだろう。

 最後に、2月4日の小泉総理の施政方針演説から抜粋。
「……京都議定書の目標達成は、決して容易ではありません。国、地方公共団体、事業者、国民が一体となり、総力を挙げて取り組むことが必要です。技術革新や経済界の創意工夫を活かし、目標達成への取組が、我が国の経済活性化、雇用創出などにもつながるよう、環境と経済の両立を達成するための仕組み作りを目指します。併せて、二酸化炭素の吸収源として、健全な森林の育成や保全などに積極的に取り組みます。

 温室効果ガスの約9割が、エネルギーの消費から発生する二酸化炭素です。このため、省エネルギー対策、新エネルギー対策を強力に進めるとともに、二酸化炭素を排出しない原子力発電を、安全確保を大前提に着実に推進します。燃料電池は、水素をエネルギーとして利用する時代の扉を開く鍵です。自動車の動力や家庭の電源として、3年以内の実用化を目指します。また、電気事業者による新エネルギーの導入を促進します。……」
    
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■世界のニュース〈2月)
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<輸送>
●フリーダム自動推進共同研究所がPNGVと交替

 米国エネルギー省のスペンサー・アブラハム長官は、新たなパートナーシップ計画を発表した。その内容は、水素燃料電池自動車の研究への資金供給のため、フリーダム自動推進共同研究所(CAR)がフォード社、ゼネラルモーター社、ダイムラークライスラー社と提携を結んだというものだ。

 「この計画は、燃料電池技術や、国内の再生可能な資源から水素を取り出す技術開発に欠かせない調査へと焦点が当てられている」と長官は述べている。エネルギー省は、資金供給のレベルや期限などについてはまだ具体的に明言してはいない。フリーダムCAR計画は、1993年に開始された次世代自動車の為のパートナーシップ(PNGV)に取って代わるだろう。

●GMが燃料電池駆動のAUTOnomyを披露

 ゼネラル・モーターズ社は、AUTOnomyコンセプトカーを披露した。この自動車は、水素供給による燃料電池と、プロパルションや他の重要なシステム類を装備した独特の「スケートボード・シャシー(車台)」が特徴である。カスタマイズされた車体への交換も簡単で、購入者は必要に応じて多用なデザインの車体を借りる事が出来る。

<定置型電源>
●プラグパワーとヴァリアントがヨーロッパのCEで最初に認可された燃料電池を設置

 プラグパワー社とそのパートナーでGMの子会社のヴァリアント社は、CE(ヨーロッパの安全規格)で初めて認可された固体高分子膜(PEM)型燃料電池を暖房設備に取り付けた。このユニットは、ドイツのGelsenkirhenにある大家族の家に設置され暖房だけでなく、給湯や電力へも活用されている。このシステムは天然ガスで作動し、4kWの電力と9kWの熱量を供給できる。

<携帯電源>
●メディスが陸軍からの注文を受ける

 メディス・テクノロジーズ社は、陸軍から7万5000ドルの注文を受けた。その内容は、明細事項の説明と、歩兵隊用の新しいエネルギーパックのための直系液化エタノール・メタノールの燃料電池の予備デザインを完成させるというものだ。

<報告・市場調査>
●SAE研究所がFCV障壁に挑む

 環境保護基金のジョン・デチッコ上級理事は、燃料電池自動車(FCV)の多岐にわたる研究報告を発表し、ソサエティ・オブ・オートモーティブ・エンジニア(SAE)によって出版された。この報告書は、『燃料電池自動車――工学技術需要と方針問題』と題され、FCVの開発の急成長ぶりと技術の商品化によって今後、問題に直面するだろうという予想が強調された内容となっている。この報告書の中でデチッコ氏は、自動車製造業社のFCV技術開発への努力を賞賛している。

<燃料電池コンポーネント>
●グリーンライトが第5期実験ステーションに着手

 グリーンライト・パワー・テクノロジーズ社が製造部門の第5期燃料電池実験ステーション(FCTS)に着手した事が、セレックス・パワープロダクツとの実演プログラムを通じて明らかになった。最新のFCTSは、固体高分子膜型燃料電池向けに設計されていて、異なる4種のエネルギー範囲においても1kWから250kWまでのパワーに対応できる燃料電池スタックの電力供給テストに利用できる。

●サットコンが制御装置用のの注文を受ける

 サットコン・テクノロジー・コーポレーションのサットコン・パワーシステムズは、フュエル・セル・エナジー社よりStarSineパワー・コンディショニング・システム(PCS)の注文を受けた。このシステムはフュエル・セル・エナジーの直系燃料電池(DFC)のうちの数種類に対し、装置の電力安定化のために使用される。

<その他>
●HARCとシエコ,S.A.,が共同開発に合意

 ヒューストン・アドバンス・リサーチ・センター(HARC)とアルゼンチンのブエノスアイレスにあるシエコ,S.A.,は、共同開発プロジェクトを行うという合意に達した。そのプロジェクトとは、南アメリカにおいて燃料電池や電力発生装置、エネルギー充電などに関係のある新技術を推進するというものだ。

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