燃料電池ワールド (2003/04/02 14:00)

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□燃料電池ワールド
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■Vol.087 2003/04/02発行

                   ◆燃料電池NPO法人PEMーDREAM

                        ◇http://www.pem-dream.com/

■お知らせ
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☆PEM−DREAMのメールアドレスを整理しました。

 メールのやりとりが不安定な状況から脱するために、従来2つ使っていたアドレスをひとつにしました。

・消去したアドレス→sak@pem-dream.com

 3月中にこのアドレスに送られたメールは受信ができず、見ることができないまま消去されます。大変失礼な結果となりましたことをお詫びいたします。申し訳ありません。

・使えるアドレス→info@pem-dream.com

 このアドレスは送受信ができておりますので、sak@pem-dream.com のアドレスをお使いいただいていた方は、お手元のアドレスをこれに変更願います。

☆「遊んで作る燃料電池100円実験キット」と材料提供(再掲)

 日本中、どこでも誰でも、手軽に、安全に、安上がりに燃料電池の原理を実験できる「遊んで作る燃料電池100円実験キット」。このキットの材料と製作ストーリーを書いた資料をメールで無料で差し上げています。ご希望の方は、
info@pem-dream.com までお申し込み下さい。

 また、すでに資料を請求された方から、材料として使うLEDと電線が入手しにくいので対応できないかとの相談がありました。そこで、私たちが常備している中から、希望する方に提供することにしました。

 内容は、LED3個と電線20cmくらいを2本です。ご希望の方は、切手200円分(郵送料含む)を事務局までお送り下さい。折り返し郵送します。
・宛先 〒105−0004 東京都港区新橋4ー28ー3 新正堂ビル2階
    燃料電池NPO法人PEM−DREAM

■PEMーDREAM EVENT
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☆3月の燃料電池市民講座(再掲)
「カナダ燃料電池業界視察報告」
ゲスト=坂本一郎氏(PEM−DREAM事務局長)

 無謀と見られている観もあったカナダ燃料電池業界視察旅行も無事終わった。10名が参加し、5カ所の団体・企業を訪問してきた。お仕着せの視察ではなく、皆で質問しようと打ち合わせて臨んだ。普通は訪問時間が2時間くらいだと聞いていたが、どこでも超過してしまった。PEM−DREAMニュースの報告は、まださわりでしかない。カナダの燃料電池事情の一端を、訪問先で受けたブリーフィングをもとに報告する。
○日 時 4月5日(土)午後2時から
○場 所 株式会社守谷商会(東京駅八重洲口から3分、地図をお送りします)
○参加費 会員は無料。非会員は2000円。
○申し込み方法 メールまたはFAXにて、「3月の燃料電池市民講座」と明記の上、氏名、連絡先、電話番号をご記入の上、お送り下さい。
 メール info@pem-dream.com 

■燃料電池GOODS
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☆グッズ第3弾 『水素経済革命』(山本寛著、新泉社)〔再掲)

 昨年9月の燃料電池市民講座で「燃料電池と水素エネルギー」のお話をしていただいた山本寛氏が、標題の新しい著作を出版されました。世界はなぜ「水素経済」を目指し始めたのか、現在その状況はどうなっているのか、日本にとってどういう意味があるのか等々、最新の情報に基づいて全体像が分かりやすく書かれています。

 定価1400円(税、送料別)のところ、NPO特別価格として税、送料込みで1500円(PEM−DREAM会員は1割引))で提供します。ご注文はメールinfo@pem-dream.com で、郵送先と冊数をお書きの上お申し込みください。

☆「燃料電池+ミニカー」組み立てセットの普及が加速〔再掲)

 資源エネルギー庁がエネルギー教育用教材キットに取り上げてから、この注文が増えました。基本部品の3セルPEM型燃料電池と水素ガス缶、LEDに、スケルトンのミニカーがセットです。

 自分で組み立てた燃料電池をミニカーにセットして、水素を供給して走らせることができます。直線で20メートルくらい走ります。燃料電池単独でも使えます。楽しみをプラスした燃料電池セットは、NPO特別価格15000円(税、送料込み。PEM−DREAM会員は1割引))です。
 ご注文はメール info@pem-dream.com でどうぞ。また、写真は
http://www.pem-dream.com/kit.html でご覧ください。
※激走―そして激突!? 燃料電池ミニカーの23秒ビデオ 鳥取県の信原一郎さんが、ミニカーの激走ぶりをビデオで撮影してくださいました。チョロQのようなユーモラスな走りっ振りに大笑い。どうぞ、ご覧ください。(データが少し重いです)
http://www.pem-dream.com/move.html

☆「ソーラー+燃料電池」学習キットも高校を中心に広がる〔再掲)

 太陽光発電、水素の製造、燃料電池について、中学から高校生程度の物理と化学の基礎知識を学びながら実験を進めるこのキットは、高校の先生からの問い合わせが増えています。特に関心を持たれているのが、再生可能な循環型エネルギーの仕組みが分かりやすいことで、環境教育のテーマになっているようです。

 株式会社のもとが Thames&Kosmos から輸入している燃料電池学習キットは、100頁の英文テキストと和訳テキストで、30種類の実験のやり方とテーマの内容について詳しく解説しています。販売価格24000円(税、送料別)のところ、NPO特別価格23000円(税、送料込み。PEM−DREAM会員は1割引)で提供します。
 ご注文はメール info@pem-dream.com でどうぞ。また、写真は
http://www.pem-dream.com/kit02.html でご覧ください。

■PEMーDREAM NEWS
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☆燃料電池バス初試乗レポート――第3回燃料電池自動車国際シンポジウム

 第3回燃料電池自動車国際シンポジウム(主催:国土交通省)が3月18日、東京ビックサイトで行われた。シンポジウムの今年のテーマは「燃料電池バスの普及に向けて」。主催者のテーマ設定の工夫なのか、それとも、昨年末に燃料電池自動車の発売一番乗りを果たした日本が、今後、燃料電池バスへの比重を高めるという予告なのか、あるいは単純に、燃料電池自動車の実証走行が、欧米では燃料電池バスが主体となりつつあることの反映なのか、勝手に想像するだけでも楽しいプログラムだった。以下、その演題と報告者リスト。

基調講演「日本における燃料電池自動車実証プロジェクトと技術指針政策への取り組み」
     慶應義塾大学政策・メディア研究科教授 石谷 久氏
講演 セッション1:燃料電池バスの開発最前線

    「燃料電池ハイブリッド大型バスFCHV−BUS2の開発」
     トヨタ自動車株式会社FC開発部 有元真人氏
    「ヨーロッパ燃料電池バスプロジェクト」

     ダイムラー・クライスラー燃料電池バスプロジェクト統括責任者 ウォルター・ラウ氏

   セッション2:燃料電池バスのデモンストレーションプロジェクトの最新動向

    「燃料電池バスの開発動向と安全・環境基準策定への課題」

     独立行政法人交通安全環境研究所主幹研究員環境研究領域長 小高松男氏

    「カリフォルニア燃料電池パートナーシップ バス実証プロジェクト」

     カリフォルニア燃料電池パートナーシップ エグゼクティブ・ディレクター
 キャサリン・ダンウディー氏
    「ECTOSおよびアイスランドにおける水素社会」

     アイスランディック・ニューエナジー社チェアマン トルスティンI・シグフッソン氏
パネルディスカッション「実走行段階に来た燃料電池バスの課題と将来展望」

 ・コーディネーター 慶應義塾大学政策・メディア研究科教授 石谷 久氏

 ・パネリスト カリフォルニア燃料電池パートナーシップ エグゼクティブ・ディレクター キャサリン・ダンウディー氏

        アイスランディック・ニューエナジー社チェアマン トルスティンI・シグフッソン氏
        自動車生活ライター 飯田裕子氏
        東京都環境局地球環境担当副参事 澤 章氏

        国土交通省自動車交通局技術安全部環境課長 森崎一彦氏

 日米欧のいずれにも共通しているのが、燃料電池自動車を走らせるための水素インフラの整備を急いでいることである。燃料を供給する水素ステーションがなければ、燃料電池自動車が完成しても公道は走れない。商品として燃料電池自動車を普及させようとするためには、その前段階としての実証走行が欠かせない。水素ステーションはそのための絶対必要条件であるので、いずれの計画でも、水素ステーションの建設と実証走行がセットになっている。ちょっと違うのが、それに使う燃料電池自動車の種類である。日本では乗用車タイプの自動車が中心となっているのに対して、欧米では燃料電池バスが中心である。

 燃料電池自動車の開発を行っている自動車メーカーに、どれほどの技術的な差があるのかはよく分からないが、それほどの違いはないという感じがする。確かに、ホンダとトヨタは発売したということではトップを走っているといわれるが、実証試験レベルでは主要なメーカーは顔をそろえている(フォード社を除いて)。どのメーカーも抱えている課題は同様で、今後の進捗計画を見ても1年くらいしか予定がずれていない。

 これからの燃料電池自動車の進展を左右するのは、そうしたメーカーの単体の開発努力に加えて政府のバックアップが鍵となってくるだろう。水素燃料インフラの整備と、それを組み入れた実証走行である。今回のシンポジウムでは、これから数年、相互の環境(社会的、自然的)のもとでメーカーが開発した燃料電池車両の実証を行うという、新段階に入った日米欧の実証走行計画が報告された。日本の計画には、ダイムラー・クライスラー(ドイツ)、GM(アメリカ)の車両も参加するように、競争と協力がうまく実現していることがいいことだと思う。

 また、そうすることで、燃料電池と水素に対する社会の認識も大きなスケールで進むし、それらに対する各国の基準や規制の違いも浮き彫りにされることとなる。たとえば、ある外国メーカーは、日本で燃料電池自動車の大臣認定(実証走行用のナンバープレートを取ること)をもらうのが大変だったといっていた。水素の扱いと同様に、日本の手続きが外国よりも複雑で、規制も多いということだろう。

 当日はうれしいイベントが行われた。日野自動車とトヨタが開発した燃料電池バスの試乗会である。試乗した燃料電池バスは、夏頃から東京都の都営バス仕様として公道走行を始める予定だ。路線バスとして、都バスの複数の運転手が運転する。だが、すぐに乗客を乗せてくれるわけではなく、東京都がこのバスを買いそろえて、都バスにすることでもない。まだその前段階である。それで現在は試乗ということになるのだが、乗ってみた感想をお知らせしたい。

 燃料電池バスのナンバーは「八王子 230 さ・939」だった。ゆりかもめの国際展示場前駅からビックサイトに向かって歩いていくと、下のバス発着所に燃料電池バスが止まっていた。屋根の上に水素ボンベを積むスペースを加えているので、少し大きく見える。ボディも、広告で塗り込められた最近のバスを見慣れた目にはさわやかに感じる。試乗時間の早い人々が周りを取り囲んで、しゃがんだりして見ていた。

 順番を待っている間に排気口をのぞきこんでみた。わずかに白い湯気が見えるときもあるが、ほとんど何も見えない。湯気が見えるときは、燃料電池の中に水蒸気がたまるので、それをパージして放出するときだ。シューッという小さな音がする。ちょうど、蒸気機関車が蒸気をはき出しているのと同じようだ。手をかざすと、暖かい気体が流れてくるのが分かる。時々ポタリと水滴が落ちる。後日、その水滴を舐めてみればよかったのに、と思ったが、誰もそのようなことはしていなかった。

 車内は、昨年の東京モーターショウで入ったことがある。車内デザインも曲線を使って、新鮮さを出そうとしたとのこと。順番に乗り込み、私は後輪の真上の席に座った。その後に燃料電池が乗せられている。乗車定員は60名だが、その半分くらいの人が乗り込んだ。停車しているのだから、アイドリング状態になっている。アイドリング・ストップをしないガソリンエンジンなら音と振動が伝わってくるが、何もなし。水素を使わないようにバッテリーのみで待機しているからだ。トヨタ・ハイブリッド・システムの特徴だ。だから、スイッチを入れても切っても、運転手以外は誰も気がつかないだろう。

 走りだすとごく小さなモーターの音が聞こえてくる。モーターは最高出力80kWのものが2つ着いている。馬力でいうとひとつで109馬力になる。燃料電池の出力は90kWのものが2つであるから、少し余裕を持たせているのと、出力の伝達ロスなどがあるのかもしれない。モーター音は、音の情報を得ようと耳を澄ましているから聞こえるのであって、普段の状態ならほとんど気にならないだろう。むしろ、無音の故に問題視する意見もある。バスの横に立っていると不意にバスが動き出すし、後から来たときも不意に現れたと感じる。プリウスに乗っている知人も経験上、「電気自動車は音の問題がある」といっていた。トヨタもこのことは百も承知で、実用時には何らかの対策が取られていると思う。

 発進してすぐ右折する。ウインカーのカチカチという音がよく聞こえる。最後部の方にいるのにである。一般道に入り車線の数が増え、他の自動車と併走するようになると、そちらの走行音が聞こえ出す。地面の凹凸を拾うタイヤの音や、スピードを上げるときにモーター音が少し高く大きくなるのに気がつく。運転席の横に立ってトヨタの方が簡単な説明をしてくれていたが、マイクは要らない。一般客が乗るようになって、おしゃべりおばさんが話していると、車内中が聞き耳を立てるということも十分ありそうだ。

 最高時速は40kmしか出さなかった。カタログ上の最高速度は80kmである。走行を終えたあとで運転した方に伺うと、「アクセルをほんのちょっと踏むというか、足を乗せているだけ」と表現された。ガソリン車のように踏み込むと、乗客は倒れてしまうという。トルクが大きいためだ。ギヤの変速ショックも全くない。電圧が変化するだけだから? 乗客の安全と不快感を与えないために、「ガクンという変速ショックを出さないように運転に気を遣わなくてもいいから、その分楽だ」と感想を述べてくれた。ブレーキの時も電気はバッテリーに取られていくので、ガクンと停まることはないそうである。空気ブレークを使用しているので、停まるときにはプシューという音がでる。

 走っている途中で、ほとんど完成している有明水素ステーションがチラッと見えた。このステーションでは液体水素をガス化して、燃料電池バスの屋根に乗っている水素ボンベに供給する予定だ。燃料のボンベは5本、35Mpaの充填圧力である。これは、他の燃料電池自動車と同じだ(ダイハツの軽自動車の燃料電池車は250Mpa)。これで250kmの航続距離を走ることができる。だが、試乗は約10分で終わった。トータルな感想は、「道路を走る電車」ということである。

 試乗後、アンケートがあった。当然協力したが、燃料電池バスの特徴を簡単に表している設問があったので、それを記しておこう。

【設問】 燃料電池バスの第一印象はいかがでしたか?(いくつでもお選びください)
 □ 目の前を静かに走っていく感じが良い
 □ スムーズな走り
 □ 乗ってみて振動が少なく静か
 □ 乗り心地が良い
 □ 軽油の臭いが無くて良い
 □ 黒煙が出ないのが良い
 □ 燃料電池バス特有の外観が良い
 □ 期待されるほどでなかった

 さて、このアンケートに、多くの方が答えられる日はいつになるだろう。その日に向けて、燃料電池バスは走りだしたばかりなのである。

☆大潟村の燃料電池カーレース(第4報)「早速、数々の難問が出現」

 出力60W、12Vの燃料電池ひとつで動かせるモーターを探すか、モーターに会わせて燃料電池の数を増やすか、選択肢はありそうだが、実際にはそれほどの余地はなかった。大同メタルからレンタルする燃料電池の数に限りがあり、また予算の枠もあるので、当初夢想(?)していたようにはいかなくなった。

 加えて、岩村高校の先生が4月1日に異動になってしまった。サイエンスワールド(岐阜県先端科学技術体験センター)が新しい職場で、岩村高校ではバックアップ体制をとってくださっており、生徒諸君もやる気であるが、先々に困難が待ちかまえていると考えざるを得ない。

 そんなこんなで態勢を立て直している最中なので、今週はこれまでです。

○『2003ワールド・エコノ・ムーブ』公式ホームページは、
http://www2.ogata.or.jp/wem/index.htm

○応援団を募集しています。
・精神的応援団 激励、ご意見、質問、提案など、何でも結構です。わいわいと楽しくやろうと思っています。メールでご連絡ください。info@pem-dream.com
・物質的応援団 PEMーDREAMは、3チームの出場に関わっています。残りのチームは、来週からだんだんと姿を現します。それらのチームの燃料電池のリース、水素吸蔵合金ボンベの購入、燃料電池カーの製作、大潟村への移動、宿泊などで、最低50万円くらいは必要になると思われます。自己資金も準備しますが、不足気味ですので、皆さんから資金カンパを募ります。1000円単位で何口でも、PEM−DREAMの郵便振替口座の備考欄に「カーレース」と書いて、送金してください。メッセージも歓迎です。会計報告はメルマガ上で行います。
  口座番号 00190−9−548568
  加入者名 ペム・ドリーム
・大潟村燃料電池カーレース応援ツアー 5月2日から5日まで、現地でキャンプをはります。応援を兼ねてさわやかな連休をご一緒しませんか。ご希望の方は早めにメール info@pem-dream.com でお知らせください。

■燃料電池マイ・レポート
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☆高分子学会が「携帯用燃料電池の最前線」講座(季刊「ソーラーシステム」沼崎英夫)

 高分子学会主催の高分子と水・分離に関する研究会講座「携帯用燃料電池の最前線」が、3月25日に東京工業大学で開かれた。

○マイクロ燃料電池の開発動向

 谷岡明彦東工大教授(大学院理工学研究科)から、「燃料電池用高分子電解質膜劣化の基礎」と題する講義があり、1950年代後半に燃料電池にイオン交換膜を利用することが提案され、62年にスチレン―ジビニルベンゼン共重合体膜を利用した固体高分子型燃料電池(PEFC)が宇宙船ジェミニ5号に搭載されて脚光を浴びたが、酸素ラジカルや過酸化水素による劣化や膜の脆性が問題になった。72年にデュポン社によってパーフルオロカーボン系イオン交換膜が報告され、79年にGEによって燃料電池への応用がなされた。80年代末にバラード社がこのタイプの交換膜を使用した優れたスタックを開発して以来、PEFCが注目されるに至った経過が述べられた。

 PEFCのイオン交換膜を劣化させる要因としては、熱、機械的ストレス、化学物質があり、それぞれのメカニズムと基本的な対応が述べられた。

 梅田実・長岡技術科学大学教授から、「超小型燃料電池の研究開発の動向」と題する講演があり、電子デバイスおよび携帯IT機器の高性能化によって、2000年までの10年間に機器のエネルギー消費が110%増加したが、バッテリーのエネルギー密度は40%増に過ぎず、最も高エネルギー密度のリチウム・イオン2次電池でも0.3Wh/立方?程度であり、その技術的完成度の高さから今後大幅なエネルギー密度の増加は期待できず、マイクロPEFCへの期待が高まっている現状が述べられた。

 水素の貯蔵または燃料の改質によって水素を得るPEFCでは、1W/立方?の最高出力が報告されており、リチウム・イオン2次電池の2〜3倍であるが、直接メタノールから水素を得るダイレクト・メタノール型燃料電池(DMFC)では現在、0.052〜0.087W/立方?に過ぎず、約1/4になってしまう。これは燃料の電極酸化速度の違いによるもので、DMFCは使用上の配慮を要することが指摘された。

 PEFCは通常、1V程度の起電力しか持たないため、セパレータを用いて直列にスタック化する。セパレータは燃料極と空気極に各々水素ガスと空気を供給する流通路とする構造に加工したものが使われるが、セパレータ部材は、体積、重量、コストにはねかえるために、超小型・計量を目指すマイクロPEFCではセパレータを使用しない平面構造型のスタック(Planar stack)が多い。一方では薄層セパレータの研究もなされており、水素燃料を使用する自己加湿型セルを超薄型バイポーラ板にコンパクトにスタックした構造のマイクロPEFCが発表されている。

 実用化に向けた課題としては、マイクロ燃料電池は、車載用のPEFCのような高温環境下ではなく、常温環境での使用が想定されるので、強い熱安定性は必要とされず、低コストの非フッ素系高分子膜、無機フィラーの充填、高分子ブレンド、固体酸など多種多様な材料系が研究されている。DMFCではクロスオーバー現象(陽極側に供給したメタノールが反応せずに直接電解質膜を透過)がセル特性を著しく低下させるので、電解質膜などの改良が試みられている。

 低い運転温度(常温〜80℃)での反応のため白金系触媒の使用は不可欠であり、現状で0.4mg/立方?程度の貴金属の使用量を低減させるために、触媒粒子を担持する担体の有効表面積を増大する構造の研究が進められている。白金およびその助触媒として使われているルテニウムのリサイクルのインフラが整備されれば、資源的問題は解決されると見ている。非白金系の新規触媒の探索も進められている。内外の電子・電機メーカー、ベンチャー等のマイクロ燃料電池の実用化目標はおおむね2003〜06年で、短期間で市場が立ち上がるだろう。

○マイクロ改質型とDMFC

 自動車用PEFCの主流になりつつある水素直接型は、水素貯蔵方法(液体水素、水素吸蔵合金、高圧タンク等)がネックで、マイクロ燃料電池には不向きである。毒性はあるものの化学的に安定し、処理が容易、生産の選択肢が広いメタノールはマイクロ燃料電池向きの燃料で、改質器を通す型と、改質器を通さずに電解質膜を通してメタノールから直接電極上でプロトンを取り出し、電池反応を行うダイレクト・メタノール型燃料電池(DMFC)がある。後者はさらに、直接高濃度のメタノールを気化させる気化型(高濃度直接型)と、高濃度のメタノールを水で希釈して発電セルに送り込む送液型がある。

 今回は、送液型DMFCの東芝、マイクロ改質器型のカシオ計算機、気化型DMFCのNECの3社から発表があった。

 東芝の液層型DMFCは、純度95%のメタノールを反応で生成した水で希釈して、3〜6%の濃度にしてマイクロポンプで送液し、スタックに供給する。これによって高濃度メタノールによるクロスオーバーを抑制する。用途としてはPDA(携帯デジタル機器)、ノートパソコン(PC)が当面の主対象である。

○ノートPC電源にマイクロリアクターのカシオ

 カシオのマイクロ改質器型は、商品企画から独自の方式を採用して、自社生産を前提に98年から開発を進めた。マイクロマシンの製造に使われている微細加工技術で、反応容積がミリリットル程度の微小リアクターと水素型発電セル(燃料電池本体)をつくる。現在の試作品は、メタノールと自ら水素を得る水蒸気改質反応器と、生成した一酸化炭素の濃度を下げるCO選択酸化反応器から成るマイクロリアクターと、20個の燃料電池本体から構成される。サイズは前者が25×17×1.3mm、後者が30.7×15.7×1.6mm。反応温度は水蒸気改質が280℃、CO選択酸化反応が180℃、発電セルが20℃、電池の定格出力が0.1W、最大出力が0.2W。

 リアクターの構成要素は、一端からアルコールが導入されて他端から水素が排出されるチャネル幅1〜100ミクロンのマイクロチャネル・リアクター、マイクロ・セパレーター、マイクロ・ミキサー、マイクロ・ヒーター、マイクロ熱交換器、マイクロ・ポンプ、マイクロ・バルブ、マイクロ・センサー(温度ほか)、制御LSIから成る。マイクロ燃料電池の電池容量は約200cc,燃料部は約400cc,通常のリチウムイオン電池の約3倍のエネルギーが得られるという。

 マイクロ・チャネルへの触媒の固定化(コーディング)にはマスキングと成膜、焼成に半導体製造の技術が使われている。DMFCほどではないが、触媒量はかなり多く、この低減が今後の課題の一つという。

 05年上期発売予定時のターゲットはノートPCで、スケールダウンすると経済性が落ちるので、当面、携帯電話の電源には考えていない。

 同社は燃料補給用のメタノール・パックを、回収・無害化破棄または再充填する利用が可能な形態でロジスティックを企画している。街頭のコンビニ、駅のキオスク等で販売し、使用後は一般ごみとして廃棄可能な容器を使い、将来は生分解性樹脂ボトルを使い、自然分解して環境と景観を損なわないようにするという。

 電源としては2次電池に替わるエネルギー密度を持つが、充電不要の利便性では1次電池に替わる需要を見込んでいる。2015年に3兆円規模の予測がある電池市場を視野に入れている。普及には、国際標準化、特に燃料と補給ボトルの標準規格化、リサイクルシステムの明確化、法規類の整備、日本特有の問題としてメタノールの法規制(劇物指定)への対応が必要という。

○カーボンナノホーンで高性能・NFC

 NECは携帯電話用電源に高濃度直接型のDMFCを開発中。ブロードバンド、ワイヤレス化による利用場面の増加、規制緩和による通信料金の劇的な低減によって消費電力の増加と使用時間の激増で、化学電池ではエネルギー密度最大のリチウム・イオン電池でも1〜2時間程度しか持たない事態――モバイルのボトルネックに対応できるポータブル電源は燃料電池、とりわけ高濃度直接型のDMFCしかないと判断している。

 メタノール水溶液(〜69vol.%、比重〜0.86)1モルの電流量は約3200Ah/?、動作電圧0.5V時のエネルギー密度は1600Wh/?で現行リチウム・イオン2次電池の10倍で、商品化当初は2〜3倍。燃料極、電解質膜、空気極を組み合わせたMEA(膜―電極集合体)の改良で触媒の微細化、触媒利用率の向上、膜抵抗の低減、触媒活性の向上を図る課題の中、白金触媒の微細分散化に中空円筒型のカーボンナノチューブ(CNT)に代わる先端が閉じた中空円錐型のカーボンナノホーン(CNH)の担体を利用した。

 炭層CNHは炭酸ガスレーザー照射で室温で製造でき、生成速度が速く、歩留まりは90%以上で、生成温度が1200℃で生成速度はCNHの1/50、歩留まりは20〜70%の単層CNTに対してコスト面でも大幅に安い。

 電極触媒の高活性化と電解質膜の改良で、メタノールのクロスオーバーを低減して高出力化を実現した。

 モバイル機器は立ち上げ時に大電力を消費するため、スーパーキャパシタをバッファとして内装し、付加変動にも有効に機能した。

 携帯電話用リチウム・イオン2次電池の実勢価格は1000円以下/2Whで、家庭用電力料金の平均15円/kWhに比べて著しく高いが、利便性が重要な商品価値であるモバイル用電源では問題にならない。DMFCはリチウム・イオン2次電池よりも安くできる可能性がある。

 カートリッジまたは詰替用ボトルとして提供が想定される燃料電池用メタノールは、携帯用(10cc)で原価0.4〜0.5円、PC用(200cc)で8〜10円で、燃料コストは大きな問題ではない。燃料電池の耐久性は、10年間20万km(実働5000時間)とされる自動車、5〜10年間(9万時間)とされる家庭用(コジェネ)に対して、モバイルは当面1〜2年間の保証で足り、コスト次第では使い切り・リサイクルも可で、ほぼ常温で使用されるPC向けでは使用環境条件を限定することも可能で、ユーザーの期待の優先度は耐久性向上よりも初期特性向上にあると見られる。これらの条件からモバイル用マイクロ燃料電池の普及は家庭用、自動車用よりも早いとみられる。従来の燃料電池とは使用環境、市場環境が全く異なる。商品化には発想の転換が必要という。

 メタノールの毒性(短時間に大量接種による失明)が問題になるが、他の劇毒物に比べて通常のリスクで取り扱い上の問題であり、環境的にはそれほど深刻な問題ではない。密閉容器のポータブル燃料電池では酸素供給の確保、CO2、H2Oの排出対策、メタノールのクロスオーバーによる副生成物の対策が必要という。

■WEB LINK NEWS
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03/03/24 バス用燃料電池のエンジン開発にカナダ政府が支援(NEDO海外レポート NO.903)

 カナダ連邦政府は2002年12月6日、民間企業と共同で都市交通バス用の燃料電池に対応するエンジンの開発に着手すると発表した。開発投資総額は800万カナダドル規模で、向こう4〜5年以内での実用化を目指す。同プロジェクトはマニトバ州ウィニペグで進められる。連邦政府は2段階にわたり、計300万Cドルを拠出する予定。
http://www.nedo.go.jp/  

03/03/24 新一般教書の水素イニシアチブ(NEDO海外レポート NO.903)
http://www.nedo.go.jp/  

03/03/24 GMとShell Hydrogen 社が、首都ワシントンで水素自動車の実地試験を予定(NEDO海外レポート NO.903)

 94kWの燃料電池スタックを搭載した「HydrobenGen3」ミニバンを用いて実証試験を行う。州100回、2年間で総計1万回のテストドライブを予定。
http://www.nedo.go.jp/  

03/03/24 Akara 上院議員(ハワイ州)、安価な地域資源に基づいた水素経済の必要性を主張(NEDO海外レポート NO.903)
http://www.nedo.go.jp/  

03/03/24 クリーンエネルギーのモデル島に変貌するガラパゴス島(NEDO海外レポート NO.903)
http://www.nedo.go.jp/  

03/03/24 エネルギー省長官、欧州パートナーとの水素エネルギー研究協力協定に合意(NEDO海外レポート NO.903)
http://www.nedo.go.jp/  

03/03/24 全米科学アカデミー、水素燃料電池自動車への移行に関する会合を開催(NEDO海外レポート NO.903)
http://www.nedo.go.jp/  

03/03/24 MITが燃料電池自動車とハイブリッド車を比較検討した報告書を公表(NEDO海外レポート NO.903)
http://www.nedo.go.jp/  

03/03/24 水素はいかにして米国を救えるか(NEDO海外レポート NO.903)

 水素燃料タンクの問題や、燃料電池自動車の大量生産など5つの問題点とその解決策を挙げ、米国の水素燃料普及策を探る。
http://www.nedo.go.jp/  

03/03/24 DOEとIEA(国際エネルギー機関)が、エネルギー供給と水素エネルギーに関する共同声明を発表(NEDO海外レポート NO.903)
http://www.nedo.go.jp/  

03/03/24 水素自動車の普及はまだ遠い(NEDO海外レポート NO.903)
http://www.nedo.go.jp/  

03/03/24 EUと米国がエネルギーおよび気候変動の共同研究(NEDO海外レポート NO.903)

 米国の大学・研究機関・企業が、EUの第6次フレームワークプログラムに酸化し、核融合・燃料電池・CO2隔離などの共同研究を行う予定。
http://www.nedo.go.jp/  

03/03/26 〈早わかり世界ガス会議東京大会〉第5回 ホットな話題満載―知恵と技術の融合と創造 専門委員会(2)(ガスエネルギー新聞)

 ■第6委員会(WOC6) 将来が期待される燃料電池、その最新開発動向は? ガスエンジン、マイクロガスタービン、スターリングエンジン等との関係は?
http://www.gas-enenews.co.jp/

03/03/28 規制改革推進3カ年計画・再改定、新たに405項目を追加(ロイター)

 燃料電池車普及に必要な水素供給スタンド設置のための規制緩和、公正取引委員会の強化や独禁法違反に対する課徴金プログラムの導入といった競争政策のための対策、大学院レベルの社会人のための職業実務分野における株式会社参入などが、主な変更・追加点となっている。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030328-00000328-reu-bus_all

03/04/01 綜合警備保障、燃料電池で警備ロボを駆動(ZDNet)

 綜合警備保障は4月1日、警備ロボット用に燃料電池で駆動する走行部を試作したと発表した。2年以内の実用化を目指す。「ROBODEX 2003」(4月3−6日、パシフィコ横浜)に出展する。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030401-00000063-zdn-sci

03/04/01 改革特区、30自治体が39件申請(読売新聞)

 三重県は日本の石油化学コンビナートのはしりとなった四日市港の再生を目指す特区を申請した。コンビナート地域で大型の工場しか進出を認めない規制を緩和して、液晶や燃料電池、バイオ、医薬品など新規産業の拠点に生まれ変わらせるという計画だ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030401-00000016-yom-pol

■海外ニュース(3月ー2)
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<輸送>
●EPAが燃料電池自動車の初の認定を授与

 米国環境保護鳥は、2003年のホンダFCXに、低燃費と水素燃料電池ゼロエミッション自動車の排気に関する初めての認定を授与した。ミシガン州にあるEPAのアナーバー研究所は、排気と低燃費のための燃料電池自動車をテストし、認証する初めての連邦施設である。
http://www.epa.gov/newsroom/headline_021103.htm

●GMは燃料電池車「HydroGen3」の性能を向上

 ゼネラル・モータース社は、1万psi(700bar)水素貯蔵システムのうまくいったテストで、「HydroGen3」圧縮水素燃料電池自動車の性能を80%向上させた。「HydroGen3 ゼフィーラ」ミニバンは、2002年の夏に達成した95マイルから170マイルへと向上した。
http://media.gm.com/news/releases/030210_hydrogen.html

<定置型電源>
●キャタピラーとFCEはオハイオの契約獲得を期待

 キャタピラー社とフュエルセル・エナジー社(FCE)は、国として初めての市場規模での燃料電池発電プラントの一つを設置する契約を獲得することを期待されている。そのプラントは、ローカルな配電網の変電所から電力を供給するように設計したものである。この革新的なプロジェクトはオハイオ州にとって最初のものであり、同州は、燃料電池の発電能力を増大させることも含めて、燃料電池の研究開発のイニシアティブのために3年間で1億ドル以上を投資している。
http://biz.yahoo.com/prnews/030227/cgth054_1.html

●新日本石油が家庭用燃料電池システムをテスト

 新日本石油は、横浜市西区のモデルハウスで家庭用燃料電池のテストを始めた。東京に本社を置く石油会社はまた、中田宏横浜市長の公舎でも燃料電池のテストを始める予定である。燃料にプロパンガスを使う実験は約1年間続けられる。新日石は約50万円(およそ4254USドル)の値段で、2005年に販売を始める。
http://www.japantoday.com/e?content=news&cat=4&id=248316

<ポータブル・バックアップ電源>
● Axane 燃料電池が北極実験で使用

 エアー・リキッド社の子会社である Axane 社の300W「ポーラー・パック」陽子交換膜型(PEM)燃料電池が、北極点近くで3カ月間に500時間以上駆動した。「ポーラー・パック」燃料電池は、交信、照明とコンピュータ設備の電源として、フランスの探検家ジーン=ルイス・エティエンス氏によって使用された。

●バラードがコールマン・パワーメイトから燃料電池発電機資産を獲得

 バラード・パワー・システムズ社は、覚書を交わした。それによって、コールマン・パワーメイト社の AirGen 燃料電池発電機資産―― AirGen 商標を含む関連する財産目録、用具、型、ソフトウェアと知的所有権の全てを取得する。そして、自社の燃料電池発電機の販売と流通戦略を展開するだろう。
http://www.ballard.com/pdfs/4%20Coleman_F.PDF

<燃料・改質器・貯蔵>
●SAWCは水素燃料の輸送トラックを開発

 住商エア・ウォーター社(SAWC)は、燃料電池自動車のための水素燃料を輸送できる日本初のトラックを開発した。このトラックは、5000〜6000万円(41万5000〜49万8000ドル)の間で小売りされると予想され、トヨタ自動車に購入される予定である。この移動式水素ステーションは燃料供給のために、燃料電池自動車のところに直接運ぶことができる。

●PESが燃料電池バスプロジェクトにHOGEN 380を提供

 プロトン・エナジー・システムズ社(PES)は、ドイツ・バルトにおける「新しい水素と再生可能エネルギープロジェクト」で使うHOGEN 380水素製造器の一つを提供した。昨年終わりに発注されたそのシステムは、今月早くに受け入れテストを成功裏に終え、委託された。HOGEN 380水素製造器は、燃料電池バスに燃料を供給するための高圧水素の圧縮と貯蔵に使われる。ユニットから副生する酸素は、生物学的廃水処理システムに酸素を加えることにより、バルトの廃水処理能力を増やすために使われる。バルトの環境的な場所では、ゼロエミッションの発電用に太陽パネルを組み込むだろう。
http://www.protonenergy.com

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