ランチェスターの法則「べからず集」

ランチェスターの法則 *1から外れる現象、およびランチェスターの法則の
単純な適用によって生ずる損失について述べる。
 
 


1. 膨張してはならない――膨張による非効率の発生 

ランチェスターの第2法則によれば、軍の戦闘力は、兵員数の2乗に比例する。よって、 兵1人あたりの戦闘力、即ち、(軍の戦闘力)/(兵員数)は、兵員数が増加するに従って 増加する。つまり、軍は膨張すればするほど効率がよいことになる。 しかし、現実にはそうはならない。

1.1 機動・輸送の停滞  

膨張により、混雑が生じ、機動・輸送の停滞を生む。 軍が進撃するのに適したルートの数は限られている。戦場のポテンシャル論 ( http://star1ban.blog18.fc2.com/blog-entry-1259.html )で書いたポテンシャルが 低い領域を通り目標点に向かう線の数は限られている。 限られたルートに膨張した軍を進撃させると、混雑が生じる。さらに、大きな問題を 引き起こす混雑は、補給部隊によって生じる混雑である。 混雑は、兵員数が増加するに従ってひどくなり、軍の効率を低下させる。

1.2 制約の増加――逆説的に、一個の敵を侮ってはならない(単独による高効率)  

膨張は、軍内部の制約を増加させる。その結果、調整作業が膨大になる。 逆説的に、単独行動の効率は、ランチェスターの第2法則によって推測されるよりも高い。   かわぐちかいじ : 沈黙の艦隊 14 (講談社, 1992) p.66.   http://star1ban.blog18.fc2.com/blog-entry-2199.html   >「ウルフA」は1艦になったことで逆に連携プレーの制約が解かれた   >攻撃力が落ちたと判断してはならん 油断するな

1.3 情報漏洩の増加  

膨張した軍の動きは、他に影響を与えやすいので、敵に動きをつかまれやすい。

2. 過度に戦力を集中してはならない――過度の集中による非効率の発生 

第2法則によれば、軍の戦闘力は、兵員数の2乗に比例する。よって、軍には膨張する以外に 集中するという選択肢がある。 集中は、極めて重要なことである *2。しかし、過度に戦力を集中すると、以下の非効率が生ずる。

2.1 リスクの集中  

被害の局限のためには、分散しなければならない。攻撃時以外には集中してはならない。   中村 秀樹 : 本当の潜水艦の戦い方―優れた用兵者が操る特異な艦種 (光人社NF文庫, 2006) p.109.   http://star1ban.blog18.fc2.com/blog-entry-1482.html   > 艦隊決戦における戦艦は集中しており、随伴する補助艦や護衛艦、補給艦を伴うので、   >数十隻の大規模な艦隊となって捕捉しやすいと考えられるが、空母による航空戦は全く   >違う。決戦海面には艦載機のみが集中できればいいのであり、複数の空母を同一行動   >させる必要はない。個々の空母は少数の護衛艦とともに分散し、高速移動する。   >機動部隊と呼ばれる所以である。被害局限のための兵力(空母)分散と、攻撃のための   >兵力(艦載機)集中が同時に実現できる。艦載機の機動力が、相反する兵理を融合させた。   >空母機動部隊という構想が、軍事上画期的である理由のひとつである。(日本海軍は   >空母自体を集中させたため、ミッドウェイで一挙に主力空母四隻を喪失した) 攻撃時であっても、過度に戦力を集中してはならない。敵の大量破壊兵器の効果が最大化される。

2.2 完全包囲による敵の士気向上  

過度に戦力を集中させることよって達成される完全包囲は、包囲された敵の士気を向上させ、 我が軍にとって非効率が発生する。   松村 劭 : 戦術と指揮―命令の与え方・集団の動かし方 バトル・シミュレーション (PHP文庫, 2006) p.64.   http://star1ban.blog18.fc2.com/blog-entry-529.html   > 包囲において、そこから脱出しても、生きのびる道や味方が存在しない環境にある敵は、   >絶対に退却せず、包囲された戦場や城において死を決意する場合が戦史には数多い。   >反対に、包囲から脱却すれば、生きる道がある敵は、つねに脱出を考える。   > つまり、敵を完全に包囲し、全力で撃滅しようとすることは、労力のムダなのだ。   かわぐちかいじ : 沈黙の艦隊 28 (講談社, 1995) p.206.   http://star1ban.blog18.fc2.com/blog-entry-2199.html   >必死の敵ほど   >怖いものは   >ない

2.3 敵の迂回  

過度に戦力を集中させることによって敵に迂回を許す、ようなことがあってはならない。

3. 大きな被害を受けた場合に「それでも、まだ戦力が存在する」と思ってはならない――損失による激烈な非効率の発生 

大きな被害を受けた場合でも、ランチェスターの法則によれば、戦闘力は残存している。 しかし、残存した軍は、内部分裂によって自然に崩壊する ( http://www.h5.dion.ne.jp/~wing-x/ezhtml/inw3/za_0711110.html#3 )。 −移転→ http://takagi1.net/ezhtml/inw3/za_0711110.html#3

脚注 

*1 ランチェスターの法則  

ランチェスターの法則は、以下の2法則からなる。  第1法則「一騎打ちの法則」:   (軍の戦闘力)=(武器性能)×(兵員数)  第2法則「集中効果の法則」:   (軍の戦闘力)=(武器性能)×(兵員数)^2

*2 戦力の集中  

これはランチェスターの法則の提唱以前から判明していた事柄である。   マーチン・ファン・クレフェルト=著, 佐藤 佐三郎=訳 : 補給戦――何が勝敗を決定するのか (中公文庫, 2006) p.344.   http://star1ban.blog18.fc2.com/blog-entry-1678.html   > 「戦争とは残酷なものだ。そこでは決定的な場所に最大の兵力を集中することを   >知っている者が勝つ。」とは、ボロジノの戦闘を前にして瞑想したナポレオンの   >言葉だと言われている。 クラウゼヴィッツは著書「戦争論」において、兵力の集中を、空間と時間に分けて説明した。   クラウゼヴィッツ=著 篠田英雄=訳: 戦争論 (上) (岩波書店, 1968) p.310.   http://star1ban.blog18.fc2.com/blog-entry-267.html   第3篇 戦略一般について 第11章 空間における兵力の集中   > 最良の戦略は、常に強大な兵力を保有することである。換言すればまず   >一般的に強大な兵力を、次に決定的な地点において強大な兵力を保有すると   >いうことである。... 戦略にとって最も単純な最高の法則は、将帥が彼の   >兵力を集結しておくということである。   クラウゼヴィッツ=著 篠田英雄=訳: 戦争論 (上) (岩波書店, 1968) p.311.   第3篇 戦略一般について 第12章 時間における兵力の集中   >換言すれば一回の戦闘に必要な全兵力を同時的に使用することが即ち戦争の   >根本原則でなければならない。   > 確かに実際にもその通りである、――闘争を双方の兵力の機械的衝突と解する限りでは。 なお、続けて、クラウゼヴィッツは   前引用、同じページ.   >しかしこの闘争を、互に相手の撃滅を期する彼我兵力の持続的相互作用と解するならば、   >兵力の小出しな使用が有利な場合も考えられるのである。 だとした。 この「彼我兵力の持続的相互作用」の考え方において、軍の執るべき行動を、 ジョミニ=著, 佐藤徳太郎=訳 : 戦争概論 (中公文庫, 2001) p.66. ( http://star1ban.blog18.fc2.com/blog-entry-1154.html ) にある「戦争の基本原理」は 説明している。 これとて、集中の考え方を基礎としている事は変わらない。

 

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