イマヌエル カント=著, 中山 元=訳「純粋理性批判〈2〉」

     

評価・状態: 得られるものがあった本★★☆



購入: 2011/ 6/ 7
読了: 2011/ 8/24

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新しいものと言葉の力

記事ページ 発行: 2011年10月09日

中島 京子 : プロムナード コレ、どうやって食べるの? 日本経済新聞, 2011/ 8/26, 夕刊, 9面.

(1)

「ゴーヤって、どうやって食べるの?」

...(と、昭和ヒトケタ生まれの伯母に聞かれた著者は、ゴーヤチャンプルーの作り方を細かく説明する)...

 そう説明すると
「肉野菜炒めに入れるわけね」
 何か極意をつかんだような顔をして、伯母は家に入って行った。

(2)

「ねえ、マンゴーって、どうやって食べるの?」
 と母。

...

「だって、箱に『種が平たいので、三枚に下ろしてお召し上がりください』と書いてあるのよ!」

...

 馴染みの薄い食材を普及させるには、出荷側も、扱い方や調理法の説明書きをつけるのだろう。しかし、その親切が、ときに要らぬ心配や苦手意識を起こさせているかもしれないので、ご用心である。



(1)は、言葉が認識を生むことに成功した例、(2)は、言葉が認識を生むことに失敗した例である。

ある事柄に関する言葉は、インターネットを通じて、手に入れられるようになった。

しかし、言葉が生む直観は、認識を促すかもしれないし、妨げるかもしれない。認識は、認識を持たない情報の受け手の想像力によって為される行為である。言葉選びに、情報の発信者は十分に注意しなければならない (補足を参照のこと)。

文章は、以下のように終わる。

 食後に皮を剥いてひと口大に切ったマンゴーを出すと、アラウンド80の両親は目を細めて、甘くジューシーな南国果実に舌鼓を打った。

アラウンド80の両親は、彼らにとって新しい果物であるマンゴーを楽しんだ。この出会いにとって、残念ながら言葉は邪魔にはたらいた。そして、その逆、すなち、出会いおいて言葉がプラスにはたらくこともある。

世界規模で問題を解決していかねばならない時代において、我々は目新しいものと頻繁に出会わなければならない。その出会いを幸福なものにするために、言葉が果たす役割は大きく、言葉の発信者に負うところが大きい。
補足:
認識について、カントは次のように書いている。

イマヌエル カント=著, 中山 元=訳 : 純粋理性批判〈2〉(光文社古典新訳文庫, 2010) p.186.

...すべての認識のうちに必然的に含まれる三種類の総合の土台となるのである。三種類の総合とは、直観において心が[触発されて]変容したときにさまざまな像が把握され、想像力において[心のうちで不在な像を思い浮かべることによって]像が再生産され、概念において[心が予測しながら]像が再認される営みである。これら三つの総合は、わたしたちを主観の三つの源泉[すなわち直観、想像力、概念]へと導いてゆく糸のような役割をはたすのであり、これら三つの源泉によってこそ、知性というものが可能となる。 [註:[]内は訳者による補足]


(1)は、ゴーヤチャンプルーの作り方の説明が直観させる像を、想像力で結合し、「ゴーヤはニンジン(スライスして肉野菜炒めに入れる別の野菜)と同じ」だという概念が作られたのだろう。

(2)は、おそらく「三枚に下ろして」という表現が魚の像を直観させ、それをマンゴーという果物の像と想像力によって結合できず、概念を作れなかったのだろう。

 

感覚の哨戒線と自発性・当事者意識によって、知性が可能になる

記事ページ 発行: 2011年07月24日

感覚の哨戒線と自発性・当事者意識によって、知性が可能になる。

イマヌエル カント=著, 中山 元=訳 : 純粋理性批判〈2〉(光文社古典新訳文庫, 2010) p.186.


感覚能力に含まれる]受容性が、[この作用{:感覚によって得られた多様なものを〈見渡す作用〉}に含まれる]自発性と結びつくことによって、初めて認識が可能になるのである。

 この自発性がこそが、すべての認識のうちに必然的に含まれる三種類の総合の土台となるのである。三種類の総合とは、直観において心が[触発されて]変容したときにさまざまな像が把握され、想像力において[心のうちで不在な像を思い浮かべることによって]像が再生産され、概念において[心が予測しながら]像が再認される営みである。これら三つの総合は、わたしたちを主観の三つの源泉[すなわち直観、想像力、概念]へと導いてゆく糸のような役割をはたすのであり、これら三つの源泉によってこそ、知性というものが可能となる。

{}内、太字は、ブログ著者による。

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