岡本綺堂 『半七捕物帳』 「お化け」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「マジお化けじゃん」
「そうかもね」
「だって、寒いのに蝶なんて飛ぶわけねえじゃん」
「で、その蝶がなんで飛ぶかって。人形を飛ばすんだから、誰かが糸引っ張ってなきゃ無理だろ。俺調べたらさ、蝶が飛ぶのって風が吹いてる夜ばっかりなんだよ。ますます怪しくなってきたじゃん。でもさ、小さな蝶にどんな糸使うんだよ。それとも何か仕掛けがあるのか。上野の烏凧で考えると、多分あの菅糸だろ。知ってるっしょ。花見の時期になると、上野で菅糸の凧売ってるじゃん。黒っぽいから烏凧って言うんだけど、あの凧は紙が薄くて糸が細いから、風がない日でもよく上がるんだ。今回の蝶も菅糸つけて、風の夜に飛ばしてるんでしょ。それで、暗い夜を狙ってやれば蝶だけ光って俺の姿は見えねえわけよ。手品的なアレだなって思ったんだけど、案の定、昨日の蝶に菅糸付いてたじゃん。お前も寺で菅糸拾ったし。全部一致してるなら、間違いないでしょ。蝶の正体はだいたい分かった感じ」
「確かに」
「親分が言う通り、お化けと烏凧で手品の手順は全部分かった。で、その糸を引いてるのは……」
「お冬って奴じゃねえの」
「なんでそんなことすんだよ。いたずらじゃねえだろ……」
「いたずらじゃねえに決まってるじゃん。何かの目的で、お冬を利用してる奴がいるんでしょ。誰かがお冬に糸引かせて、お冬がまた蝶に糸引かせてるわけだから、順番に辿らなきゃ本人が分からねえ。でもさ、ここまで来ればだいぶ見えてきたでしょ」
「そしたら、お冬は昨日またあの寺に行ったんすか」
「行ったっぽい気もするし、そうじゃねえ気もする。俺も考えてるんだけど……」
「でも、菅糸落ちてたんでしょ」
「この一件、お冬だけじゃねえみたいなんだよ。いろんな奴が絡んでるっぽいから、糸屑だけじゃお冬って決められねえんだ」
「まあ、今の話はここまでにして。来たついでにってわけじゃねえけど、不動様に祈ってから会おうぜ」

原文 (会話文抽出)

「お化け」
「そうかも知れませんね」
「さもなけりゃあ、寒い時節に蝶々の飛び出す筈がありませんからね」
「そこで、その蝶々がどうして飛ぶか……。拵え物を飛ばせる以上、誰か糸を引く奴がなけりゃあならねえ。おれがだんだん調べてみると、その蝶々が飛び出すのは風の吹く晩に限っているらしい。そうなると、いよいよ怪しい。といって、小さい蝶々を飛ばせるには、どんな糸を使うのか、それとも何かの機関仕掛けにでもなっているのか。おれは上野の烏凧から考えて、多分この菅糸を使うんだろうと鑑定していた。おめえも知っているだろう。花どきになると、上野じゃあ菅糸の凧を売っている。薄黒いから烏凧というのだ。あの凧は紙が薄い上に、糸が極細の菅糸だから風のない日でもよくあがる。今度の蝶々にも菅糸をつけて、風の吹く晩に飛ばせるんだろう。そうして、暗い晩を狙ってやりゃあ自分の姿はみえねえ、蝶々だけが光る……。まあ、こんな手妻だろうと思っていた。ところが案の通り、ゆうべの蝶々には菅糸が付いていた。おめえも寺の庭で菅糸を拾った。万事が符合する以上は、もう間違いはあるめえ。蝶々の正体は大抵判ったと云うものだ」
「そうです、そうです」
「成程、親分の云う通り、お化けと烏凧で、手妻の種はすっかり判った。ところで、それを使う奴は……」
「お冬という奴だろう」
「なぜそんな事をするんでしょう。唯の悪戯でもあるめえが……」
「唯のいたずらじゃあねえに決まっている。それにはお冬を使って、何かの仕事を目論んでいる奴があるに相違ねえ。誰かがお冬の糸を引いて、お冬がまた蝶々の糸をひくと云うわけだから、順々に手繰って行かなけりゃあ本家本元は判らねえ。それにしても、ここまで漕ぎ付けりゃあ大抵の山は見えているよ」
「そうすると、お冬はゆうべ又あの寺へ舞い戻って来たんでしょうか」
「そうのようにも思われる。そうでねえようにも思われる。おれもそれを考えているんだが……」
「でも、その菅糸が落ちていたんですよ」
「この一件はお冬ばかりじゃあねえ。大勢の奴らが係り合っているらしいから、糸屑だけでお冬とも一途に決められねえ」
「だが、まあ、今の話はこれだけにしよう。来たついでと云っちゃあ済まねえが、不動さまにお詣りをして別れようぜ」


青空文庫現代語化 Home リスト