GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 夏目漱石 『野分』
現代語化
「なんとか」
「だってそうでしょ。――文学は他の学問とは違うんです」
「へえ」
「他の学問はですね。その学問、あるいはその学問の研究を妨げるものがあって敵なんです。たとえば貧しさとか、忙しさとか、抑圧とか、不幸とか、悲しい事情とか、不和とか、喧嘩とかですね。こういうものがあると学問ができません。だからなるべくこういうものを避けて、時間と心の余裕を得ようとするんです。文学者も今までそういう考え方でした。そういう考え方どころか。あらゆる学問の中で、文学者が一番のんびり気ままに過ごさなきゃいけないと思われてたんです。面白いことに当人たちもそう思ってた。でもそれは間違いです。文学は人生そのものです。苦痛も、貧困も、悩みも、すべて人生の歩みにおいてあるものはつまり文学であり、そういうものを経験できたものが文学者です。文学者というのは、原稿用紙を前に置いて、熟語辞典を引いて、首をひねってるような暇人じゃないんです。円熟していて深い趣味を身につけ、人間のあらゆることを臆することなく扱ったり、感じたりする、普通以上の私たちのことを指すんです。その扱い方や感じ方を紙に書き写したのが文学作品です、だから本を読まなくても実際にそういうことに当たれば立派な文学者です。そういうわけで、他の学問はできる限り研究を妨げるものを避けて、徐々に人世から遠ざかるほどいいんですが、文学者は進んでこういう障害の中に飛び込むんです」
「なるほど」
「あなたもそう思いませんか?」
原文 (会話文抽出)
「分りましたか」
「どうも」
「だってそうじゃありませんか。――文学はほかの学問とは違うのです」
「はあ」
「ほかの学問はですね。その学問や、その学問の研究を阻害するものが敵である。たとえば貧とか、多忙とか、圧迫とか、不幸とか、悲酸な事情とか、不和とか、喧嘩とかですね。これがあると学問が出来ない。だからなるべくこれを避けて時と心の余裕を得ようとする。文学者も今まではやはりそう云う了簡でいたのです。そう云う了簡どころではない。あらゆる学問のうちで、文学者が一番呑気な閑日月がなくてはならんように思われていた。おかしいのは当人自身までがその気でいた。しかしそれは間違です。文学は人生そのものである。苦痛にあれ、困窮にあれ、窮愁にあれ、凡そ人生の行路にあたるものはすなわち文学で、それらを甞め得たものが文学者である。文学者と云うのは原稿紙を前に置いて、熟語字典を参考して、首をひねっているような閑人じゃありません。円熟して深厚な趣味を体して、人間の万事を臆面なく取り捌いたり、感得したりする普通以上の吾々を指すのであります。その取り捌き方や感得し具合を紙に写したのが文学書になるのです、だから書物は読まないでも実際その事にあたれば立派な文学者です。したがってほかの学問ができ得る限り研究を妨害する事物を避けて、しだいに人世に遠かるに引き易えて文学者は進んでこの障害のなかに飛び込むのであります」
「なるほど」
「あなたは、そうは考えませんか」