GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 夏目漱石 『野分』
現代語化
「どこ?」
「あいつは、よく食べるやつだな」
「食べる、食べる」
「人間は食べる割に太らないものだな。あいつはあんなに食べる癖に全然太らない」
「本はたくさん読むけど、全然偉くならないのと一緒だな」
「そうだね。お互い勉強はできるだけしない方がいいよ」
「はははは。そんなつもりで言ったんじゃない」
「俺はそう言うつもりで言ったよ」
「富田は太らないけど、すごく機敏だ。やっぱりたくさん食べるだけある」
「機敏なわけないじゃん」
「いや、この間4丁目を通ったら、後ろから急に呼ばれる声がして、振り向くと富田だった。頭を半分剃ったままで、大きな敷布みたいなものを肩からかけてる」
「そもそも何があったの?」
「床屋から飛び出してきたんだ」
「なんで?」
「髪を刈ってたら、僕の影が鏡に映ったから、すぐ駆け出したんだって」
「はははは、それは驚いた」
「俺も驚いた。それで尚志会の寄付金を無理やり取って、また床屋に戻ったんだよ」
「はははは、なるほど機敏だな。それじゃお互いできるだけ食べることにしよう。機敏にならんと、卒業してから困るから」
「そうだね。文学士みたいに20円くらいで下宿屋に居候してても、人間として生まれてきた甲斐がないから」
原文 (会話文抽出)
「おや、富田が通る」
「どこに」
「あれは、よく食う奴じゃな」
「食う、食う」
「人間は食う割に肥らんものだな。あいつはあんなに食う癖にいっこう肥えん」
「書物は沢山読むが、ちっとも、えろうならんのがおると同じ事じゃ」
「そうよ。御互に勉強はなるべくせん方がいいの」
「ハハハハ。そんなつもりで云ったんじゃない」
「僕はそう云うつもりにしたのさ」
「富田は肥らんがなかなか敏捷だ。やはり沢山食うだけの事はある」
「敏捷な事があるものか」
「いや、この間四丁目を通ったら、後ろから出し抜けに呼ぶものがあるから、振り反ると富田だ。頭を半分刈ったままで、大きな敷布のようなものを肩から纏うている」
「元来どうしたのか」
「床屋から飛び出して来たのだ」
「どうして」
「髪を刈っておったら、僕の影が鏡に写ったものだから、すぐ馳け出したんだそうだ」
「ハハハハそいつは驚ろいた」
「おれも驚ろいた。そうして尚志会の寄附金を無理に取って、また床屋へ引き返したぜ」
「ハハハハなるほど敏捷なものだ。それじゃ御互になるべく食う事にしよう。敏捷にせんと、卒業してから困るからな」
「そうよ。文学士のように二十円くらいで下宿に屏息していては人間と生れた甲斐はないからな」