GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 夏目漱石 『野分』
現代語化
「道也先生?」
「そうだろうと思う。そんなに多い名前じゃないから」
「何の話してたの?」
「聞こうと思ったんだけど、なんだか気まずくってやめといた」
「なんで?」
「だって、あなたは中学校で生徒から追い出されたことありませんかって聞けないじゃん」
「追い出されたかって聞かなくてもいいよ」
「でも聞きにくい人だったよ。しゃべりたくないって感じだった」
「そうなんだ。そもそも何の用であなたのところに来たの?」
「雑誌の記者だってさ。俺の話を聞きに来たんだ」
「あなたの話をかい。――世の中も変なもんだね。やっぱり金がものを言うんだな」
「なんで?」
「なんでって。――かわいそうに、そんなに落ちぶれたのかなあ。――先生、どんな服装してたの?」
「そうだな、そんなに立派じゃなかったね」
「立派じゃなくても、まあどんなくらいの服装してたの?」
「そうだな。どんなくらいとも言えないけど、まああなたのくらいかな」
「え、このくらいか、この羽織くらいかな?」
「羽織はもっと色がよかったよ」
「袴は?」
「袴は木綿じゃないけど、その代わりもっとしわくちゃだった」
「つまり俺と大差ないってことだよね?」
「つまりあなたと大差ないってことです」
「そうかなあ。――先生、背が高くて細長い人だったよ」
「背が高くて顔が細長い人だった」
「ということは道也先生に違いない。――世の中って残酷だなあ。――先生、住所知ってる?」
「住所は聞かなかった」
「聞かなかったの?」
「うん。でも雑誌社に聞けばすぐわかるよ。他の雑誌や新聞にも関係してるかもしれないよ。どこかで白井道也って名前を見たことがある気がする」
原文 (会話文抽出)
「君二三日前に白井道也と云う人が来たぜ」
「道也先生?」
「だろうと思うのさ。余り沢山ある名じゃないから」
「聞いて見たかい」
「聞こうと思ったが、何だかきまりが悪るかったからやめた」
「なぜ」
「だって、あなたは中学校で生徒から追い出された事はありませんかとも聞けまいじゃないか」
「追い出されましたかと聞かなくってもいいさ」
「しかし容易に聞きにくい男だよ。ありゃ、困る人だ。用事よりほかに云わない人だ」
「そんなになったかも知れない。元来何の用で君の所へなんぞ来たのだい」
「なあに、江湖雑誌の記者だって、僕の所へ談話の筆記に来たのさ」
「君の談話をかい。――世の中も妙な事になるものだ。やっぱり金が勝つんだね」
「なぜ」
「なぜって。――可哀想に、そんなに零落したかなあ。――君道也先生、どんな、服装をしていた」
「そうさ、あんまり立派じゃないね」
「立派でなくっても、まあどのくらいな服装をしていた」
「そうさ。どのくらいとも云い悪いが、そうさ、まあ君ぐらいなところだろう」
「え、このくらいか、この羽織ぐらいなところか」
「羽織はもう少し色が好いよ」
「袴は」
「袴は木綿じゃないが、その代りもっと皺苦茶だ」
「要するに僕と伯仲の間か」
「要するに君と伯仲の間だ」
「そうかなあ。――君、背の高い、ひょろ長い人だぜ」
「背の高い、顔の細長い人だ」
「じゃ道也先生に違ない。――世の中は随分無慈悲なものだなあ。――君番地を知ってるだろう」
「番地は聞かなかった」
「聞かなかった?」
「うん。しかし江湖雑誌で聞けばすぐわかるさ。何でもほかの雑誌や新聞にも関係しているかも知れないよ。どこかで白井道也と云う名を見たようだ」