夏目漱石 『野分』 「やあ」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『野分』

現代語化

「やあ」
「どこ行ってたの?」
「今散歩してたけど、休憩できそうな場所がなくてさ。タダで座れる所はみんな人が先回りして座ってる。みんな気が利くよね」
「天気がいいからだろ。確かに人が多いね。――おい、あの竹藪を回りながら噴水の方に向かってる人見てよ」
「どれ。あの子か。知り合い?」
「知らないよ」
「じゃあなんで見る必要があるの?」
「あの着物の色だよ」
「なんかいい着物着てるね」
「あの色を竹藪の近くで着ると鮮やかに見えるんだよ。こういう透明感がある秋の日に着てみないとわからない」
「そうかな」
「そうかなって、あなた感じないの?」
「別に感じない。でもきれいなのはきれい」
「きれいだけじゃもったいないよ。あなたこれから作家になるんでしょ?」
「そうだよ」
「それならもっと感性が鋭くないとダメだよ」
「いや、あの子は鈍感でいいんだよ。他が鋭いんだから」
「ははは、自信があるならいいけど。ところで、せっかく会ったんだから、もう一回散歩しない?」
「散歩はいいや。このまま電車乗って帰らないと昼ごはん食べ逃す」
「その昼ごはん、俺が奢るよ」
「うん、また今度でいいよ」
「なんで? 嫌なのか?」
「嫌じゃない――嫌じゃないけど、いつもご馳走になってばかりだから」
「ははは、遠慮しなくてもいいよ。まあ、いいから行こう」

原文 (会話文抽出)

「やあ」
「どこへ行ったんだい」
「今ぐるぐる巡って、休もうと思ったが、どこも空いていない。駄目だ、ただで掛けられる所はみんな人が先へかけている。なかなか抜目はないもんだな」
「天気がいいせいだよ。なるほど随分人が出ているね。――おい、あの孟宗藪を回って噴水の方へ行く人を見たまえ」
「どれ。あの女か。君の知ってる人かね」
「知るものか」
「それじゃ何で見る必要があるのだい」
「あの着物の色さ」
「何だか立派なものを着ているじゃないか」
「あの色を竹藪の傍へ持って行くと非常にあざやかに見える。あれは、こう云う透明な秋の日に照らして見ないと引き立たないんだ」
「そうかな」
「そうかなって、君そう感じないか」
「別に感じない。しかし奇麗は奇麗だ」
「ただ奇麗だけじゃ可哀想だ。君はこれから作家になるんだろう」
「そうさ」
「それじゃもう少し感じが鋭敏でなくっちゃ駄目だぜ」
「なに、あんな方は鈍くってもいいんだ。ほかに鋭敏なところが沢山あるんだから」
「ハハハハそう自信があれば結構だ。時に君せっかく逢ったものだから、もう一遍あるこうじゃないか」
「あるくのは、真平だ。これからすぐ電車へ乗って帰えらないと午食を食い損なう」
「その午食を奢ろうじゃないか」
「うん、また今度にしよう」
「なぜ? いやかい」
「厭じゃない――厭じゃないが、始終御馳走にばかりなるから」
「ハハハ遠慮か。まあ来たまえ」


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