夏目漱石 『吾輩は猫である』 「羅甸語は分ってるが、何と読むのだい」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』

現代語化

「ラテン語は分かるけど、何て読むの?」
「だって君は普段ラテン語が読めると言ってるじゃないか」
「もちろん読めるよ。読めることは読めるけど、これは何だい?」
「読めることは読めるけど、これは何だは手ひどいね」
「何でもいいからちょっと英語に訳してみて」
「訳して見ろはすごいね。まるで兵隊みたいだね」
「兵隊でもいいから何だ」
「まあラテン語などは置いておいて、ちょっと寒月君の見解を拝聴しようじゃないか。今すごいところだよ。いよいよバレるか、バレないか瀬戸際の安宅の関にかかってるんだ。――ねえ寒月君、それからどうしたの?」
「とうとう古い布団の中へ隠しました。この布団は故郷を出る時におばあさんが餞別にくれたものですが、なんでもおばあさんが嫁入りした時に持ってきたものだそうです」
「それは古物だね。ヴァイオリンとはちょっと合わないみたいだ。ねえ東風君」
「ええ、ちょっと合いません」
「天井裏だって合わないじゃないか」
「合わないけど、句にはなるよ。安心しなさい。秋淋しつづらにかくすヴァイオリンはどうだい、両君」
「先生、今日はたくさんの俳句を作ってますね」
「今日に限ったことじゃないよ。いつも心の中で作ってるよ。僕の俳句の知識と言ったら、故子規先生も舌を巻いて驚くほどだよ」
「先生、子規さんとはお付き合いがあったんですか?」
「付き合いがなくたってずっと無線で心を通わせてたんだ」
「それで置き場所は解決したわけだけど、今度は出すのに困った。ただ出すだけなら人目を盗んで見るくらいはやれるけど、見ただけでは何もならない。弾かなきゃ役に立たない。弾けば音がする。音が出ればすぐバレる。ちょうど垣根1つ隔てて南隣りは沈澱組のリーダーが下宿してるんだから危ないよ」
「困るね」
「なるほど、これは困る。実際、音が出るんだから、小督の方もこれで失敗したんだからね。これが盗み食いをするとか、偽札を作るなんてことなら、まだ始末がいいけど、音楽は人に隠せないものだからね」
「音さえ出なきゃどうにでもなるんですが……」
「ちょっと待った。音さえ出なけりゃって言うけど、音が出なくても隠せないものがあるよ。昔、僕たちが小石川のお寺で自炊してた時に鈴木の藤さんっていうのがいて、この藤さんがすごく味醂が好きで、ビールの徳利に味醂を買ってきては1人で楽しく飲んでたんだ。ある日、藤さんが散歩に出た後で、やめておけばよかったのに苦沙弥君がちょっと盗んで飲んだところ……」
「俺が鈴木の味醂なんか飲むわけないよ。飲んだのは君だ」
「おや、本を読んでるから大丈夫かと思ったら、やっぱり聞いてるね。油断ならないね。耳も8丁、目も8丁とは君の事だよ。なるほど言われてみれば僕も飲んだ。僕も飲んだことに間違いはないけど、バレたのは君の方だよ。――両君、まあ聞いてよ。苦沙弥先生はもともと酒が飲めないんだ。ところが人の味醂だと思って一生懸命に飲んだものだから、さあ大変、顔中真っ赤に腫れ上がってね。もう2度と見られないありさまさ……」
「黙ってろ。ラテン語も読めない癖に」
「はははは、それで藤さんが帰ってきてビールの徳利を振ってみると、半分以上足りない。誰かが飲んだに違いないと思って見回してみると、なんと大将が隅の方に朱泥を練り固めた人形みたいに固まってらあね……」

原文 (会話文抽出)

「羅甸語は分ってるが、何と読むのだい」
「だって君は平生羅甸語が読めると云ってるじゃないか」
「無論読めるさ。読める事は読めるが、こりゃ何だい」
「読める事は読めるが、こりゃ何だは手ひどいね」
「何でもいいからちょっと英語に訳して見ろ」
「見ろは烈しいね。まるで従卒のようだね」
「従卒でもいいから何だ」
「まあ羅甸語などはあとにして、ちょっと寒月君のご高話を拝聴仕ろうじゃないか。今大変なところだよ。いよいよ露見するか、しないか危機一髪と云う安宅の関へかかってるんだ。――ねえ寒月君それからどうしたい」
「とうとう古つづらの中へ隠しました。このつづらは国を出る時御祖母さんが餞別にくれたものですが、何でも御祖母さんが嫁にくる時持って来たものだそうです」
「そいつは古物だね。ヴァイオリンとは少し調和しないようだ。ねえ東風君」
「ええ、ちと調和せんです」
「天井裏だって調和しないじゃないか」
「調和はしないが、句にはなるよ、安心し給え。秋淋しつづらにかくすヴァイオリンはどうだい、両君」
「先生今日は大分俳句が出来ますね」
「今日に限った事じゃない。いつでも腹の中で出来てるのさ。僕の俳句における造詣と云ったら、故子規子も舌を捲いて驚ろいたくらいのものさ」
「先生、子規さんとは御つき合でしたか」
「なにつき合わなくっても始終無線電信で肝胆相照らしていたもんだ」
「それで置き所だけは出来た訳だが、今度は出すのに困った。ただ出すだけなら人目を掠めて眺めるくらいはやれん事はないが、眺めたばかりじゃ何にもならない。弾かなければ役に立たない。弾けば音が出る。出ればすぐ露見する。ちょうど木槿垣を一重隔てて南隣りは沈澱組の頭領が下宿しているんだから剣呑だあね」
「困るね」
「なるほど、こりゃ困る。論より証拠音が出るんだから、小督の局も全くこれでしくじったんだからね。これがぬすみ食をするとか、贋札を造るとか云うなら、まだ始末がいいが、音曲は人に隠しちゃ出来ないものだからね」
「音さえ出なければどうでも出来るんですが……」
「ちょっと待った。音さえ出なけりゃと云うが、音が出なくても隠し了せないのがあるよ。昔し僕等が小石川の御寺で自炊をしている時分に鈴木の藤さんと云う人がいてね、この藤さんが大変味淋がすきで、ビールの徳利へ味淋を買って来ては一人で楽しみに飲んでいたのさ。ある日藤さんが散歩に出たあとで、よせばいいのに苦沙弥君がちょっと盗んで飲んだところが……」
「おれが鈴木の味淋などをのむものか、飲んだのは君だぜ」
「おや本を読んでるから大丈夫かと思ったら、やはり聞いてるね。油断の出来ない男だ。耳も八丁、目も八丁とは君の事だ。なるほど云われて見ると僕も飲んだ。僕も飲んだには相違ないが、発覚したのは君の方だよ。――両君まあ聞きたまえ。苦沙弥先生元来酒は飲めないのだよ。ところを人の味淋だと思って一生懸命に飲んだものだから、さあ大変、顔中真赤にはれ上ってね。いやもう二目とは見られないありさまさ……」
「黙っていろ。羅甸語も読めない癖に」
「ハハハハ、それで藤さんが帰って来てビールの徳利をふって見ると、半分以上足りない。何でも誰か飲んだに相違ないと云うので見廻して見ると、大将隅の方に朱泥を練りかためた人形のようにかたくなっていらあね……」


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