夏目漱石 『吾輩は猫である』

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』

現代語化

「おい、何だそんな顔をして、そこでこつこつ弾いているんだい」
「ヴァイオリンなんか弾いても、ろくな事はないよ。へたに上手くなるといやに世間の事がつまらなくなる。しかもあれはまったくおよしでない。押える所がむずかしいったらありゃしない」
「ねえ、いったい君はどうしてヴァイオリンなんか習い出したんだい。あんなものはろくなもんだじゃないよ」
「ろくなもんでないって、ひとの音楽なんだから、そんなにはっきり云っちゃいけないよ」
「へたになってみろ。世間がどんなものか分かるさ」
「そんなら、君だって、てんでヴァイオリンを知らないがいいんだろう」
「むろんさ」
「ふうん、君こそ、ろくなもんでないね」
「寒月君、君のヴァイオリン論は全く破天荒だね」
「破天荒でも、へたになると世間がわかるんだ」
「へたにならないようなものは弾いても慰みにならない。慰みにならないものを弾いて、むだな時間を費やすのは実に惜しいことだ。あれは世のなかで最も役にたたないものさ」
「だったら、君はなんで弾くんだい」
「僕は別に弾いてはいないよ」
「ああそうか」
「だがね、弾きたいと思うんだ」
「どうして?」
「弾きたいからにきまっている。君は音楽がすきかい」
「ええ、音楽はすきです」
「じゃ、音楽がすきな癖に、どうして音楽を弾く事を好まないのかい」
「音楽を弾く事と、音楽を聴く事とは同じじゃないよ」
「どうして違うんだい。弾けばそれと同時に聴けるじゃないか。音楽は弾くことに限るんだぞ。およそ音楽を聴くというような奴は、決してほんとうの音楽家じゃない」
「へえ、君はどうしてそんな奇態な意見に賛成するんだい」
「賛成もしない。しかし君はヴァイオリンが弾けないようなので、音楽の議論はできないね」
「弾けないようだね。しかし弾きようがない。見てもらいたいかい」
「見せてくれ」
「ヴァイオリンを用意したら見せるよ」
「ヴァイオリンなんか、いつでもこれから用意するさ」
「そうしよう」

原文 (会話文抽出)


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