夏目漱石 『吾輩は猫である』 「先生ありゃ生徒ですか」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』

現代語化

「先生、あれ生徒ですか?」
「うん」
「すごい大きい頭ですね。勉強はできますか?」
「頭の割にはできないけど、時々変な質問をするよ。こないだコロンブスを訳してくれって言われて困ったよ」
「頭が大きすぎるから、そういう余計な質問をするんでしょう。先生は何て答えました?」
「え?適当でごまかしたよ」
「でも訳したんですか、すごいですね」
「子どもは何でも訳してやらないと納得しないからね」
「先生も政治家みたいになったんですね。でも今の様子だと、何だかすごく元気がなくて、先生を困らせるような感じはしませんね」
「今日はちょっと落ち込んでるんだよ。バカなやつだよ」
「どうしたんですか?見ただけでなんだかかわいそうになりました。どうしたんですか?」
「バカなことだよ。金田の娘にラブレターを送ったんだ」
「え?あの大頭がですか?最近の学生はすごいですね。びっくりしました」
「心配だろうけど……」
「全然心配してないです。むしろ面白いです。いくらラブレターが来ても問題ありません」
「君が安心してるならいいけど……」
「大丈夫です。全然問題ないです。でもあの大頭がラブレターを書いたって聞くと、ちょっと驚きますね」
「それがね。冗談にしたんだよ。あの娘がハイカラで生意気だから、からかってやろうって、3人でやったんだ」
「3人で1通の手紙を金田の娘に送ったんですか?ますます奇妙ですね。西洋料理を3人で食べるようなもんです」
「でも分担があるんだ。1人が文章を書いて、1人が投函して、1人が名前を貸す。で、今来たのは名前を貸したやつなんだけど、これが一番バカなんだよ。しかも金田の娘の顔も見たことないって言うんだ。なんでそんな無茶なことができたのか」
「それは、最近のすごい出来事ですよ。大作ですね。あの大頭が女に手紙を書くなんて、面白いじゃないですか」
「とんでもない間違いだよ」
「どうなってもいいんです、相手が金田ですから」
「でも君が受け取るかもしれない人だよ」
「受け取るかもしれないからいいんです。金田なんてどうでもいいです」
「君がどうでもいいとしても……」
「金田だってどうでもいいですよ。大丈夫です」
「それならそれでいいんだけど、本人が後で急に良心に責められて、怖くなって、先生に相談に来たんだ」
「へぇ、だからあんなにしょんぼりしてるんですか。気の小さい子なんですね。先生はどうにか言っておやりになったんでしょう」
「本人は退学になるでしょうかって、それを一番心配してるんだよ」
「なんで退学になるんです?」
「そんな悪いこと、不道徳なことをしたから」
「不道徳ってほどじゃないと思いますよ。どうってことないです。金田は名誉なことだと思って、きっと自慢してると思います」
「まさか」
「とにかくかわいそうですよ。そんなことをするのが悪いとしても、そんなに心配させちゃ、若い男を殺しているようなものです。頭は大きいけど、顔はそんなに悪くないし、鼻をぴくぴくさせててかわいいですよ」
「君もだいぶ迷亭みたいに呑気なことを言うね」
「これが時代の流れですよ。先生は古風過ぎるから、何でも難しく考えすぎなんです」
「でもバカじゃないか?知らない人にいたずらにラブレターを送るなんて、常識外れじゃないか」
「いたずらってだいたい常識外れですよ。助けてあげてください。徳を積むことになると思いますよ。あの様子だと自殺しそうです」
「そうだな」
「そうしてください。もっと偉い、もっともっといい坊さんが、もっとひどい悪さをして知らん顔してるんですよ。あんな子を退学させるくらいなら、そういうやつらを全部追い出さないと不公平じゃないですか」
「それもそうだね」
「上野へ虎の鳴き声聞きに行きませんか?」
「虎かい?」
「はい、行きましょう。実は2〜3日中に帰国しないといけなくなって、しばらく一緒に出かけられなくなるので、今日はぜひ一緒に散歩しようと思って来たんです」
「そうなのか。帰るのか?何か用事でも?」
「はい、ちょっと用事ができたんです。――とにかく出かけましょう」
「そうか。じゃあ行こうか」
「行きましょう。今日は私が夕食をおごりますよ。――それから運動してから上野に行くとちょうどいいですね」

原文 (会話文抽出)

「先生ありゃ生徒ですか」
「うん」
「大変大きな頭ですね。学問は出来ますか」
「頭の割には出来ないがね、時々妙な質問をするよ。こないだコロンバスを訳して下さいって大に弱った」
「全く頭が大き過ぎますからそんな余計な質問をするんでしょう。先生何とおっしゃいました」
「ええ? なあに好い加減な事を云って訳してやった」
「それでも訳す事は訳したんですか、こりゃえらい」
「小供は何でも訳してやらないと信用せんからね」
「先生もなかなか政治家になりましたね。しかし今の様子では、何だか非常に元気がなくって、先生を困らせるようには見えないじゃありませんか」
「今日は少し弱ってるんだよ。馬鹿な奴だよ」
「どうしたんです。何だかちょっと見たばかりで非常に可哀想になりました。全体どうしたんです」
「なに愚な事さ。金田の娘に艶書を送ったんだ」
「え? あの大頭がですか。近頃の書生はなかなかえらいもんですね。どうも驚ろいた」
「君も心配だろうが……」
「何ちっとも心配じゃありません。かえって面白いです。いくら、艶書が降り込んだって大丈夫です」
「そう君が安心していれば構わないが……」
「構わんですとも私はいっこう構いません。しかしあの大頭が艶書をかいたと云うには、少し驚ろきますね」
「それがさ。冗談にしたんだよ。あの娘がハイカラで生意気だから、からかってやろうって、三人が共同して……」
「三人が一本の手紙を金田の令嬢にやったんですか。ますます奇談ですね。一人前の西洋料理を三人で食うようなものじゃありませんか」
「ところが手分けがあるんだ。一人が文章をかく、一人が投函する、一人が名前を借す。で今来たのが名前を借した奴なんだがね。これが一番愚だね。しかも金田の娘の顔も見た事がないって云うんだぜ。どうしてそんな無茶な事が出来たものだろう」
「そりゃ、近来の大出来ですよ。傑作ですね。どうもあの大頭が、女に文をやるなんて面白いじゃありませんか」
「飛んだ間違にならあね」
「なになったって構やしません、相手が金田ですもの」
「だって君が貰うかも知れない人だぜ」
「貰うかも知れないから構わないんです。なあに、金田なんか、構やしません」
「君は構わなくっても……」
「なに金田だって構やしません、大丈夫です」
「それならそれでいいとして、当人があとになって、急に良心に責められて、恐ろしくなったものだから、大に恐縮して僕のうちへ相談に来たんだ」
「へえ、それであんなに悄々としているんですか、気の小さい子と見えますね。先生何とか云っておやんなすったんでしょう」
「本人は退校になるでしょうかって、それを一番心配しているのさ」
「何で退校になるんです」
「そんな悪るい、不道徳な事をしたから」
「何、不道徳と云うほどでもありませんやね。構やしません。金田じゃ名誉に思ってきっと吹聴していますよ」
「まさか」
「とにかく可愛想ですよ。そんな事をするのがわるいとしても、あんなに心配させちゃ、若い男を一人殺してしまいますよ。ありゃ頭は大きいが人相はそんなにわるくありません。鼻なんかぴくぴくさせて可愛いです」
「君も大分迷亭見たように呑気な事を云うね」
「何、これが時代思潮です、先生はあまり昔し風だから、何でもむずかしく解釈なさるんです」
「しかし愚じゃないか、知りもしないところへ、いたずらに艶書を送るなんて、まるで常識をかいてるじゃないか」
「いたずらは、たいがい常識をかいていまさあ。救っておやんなさい。功徳になりますよ。あの容子じゃ華厳の滝へ出掛けますよ」
「そうだな」
「そうなさい。もっと大きな、もっと分別のある大僧共がそれどころじゃない、わるいいたずらをして知らん面をしていますよ。あんな子を退校させるくらいなら、そんな奴らを片っ端から放逐でもしなくっちゃ不公平でさあ」
「それもそうだね」
「それでどうです上野へ虎の鳴き声をききに行くのは」
「虎かい」
「ええ、聞きに行きましょう。実は二三日中にちょっと帰国しなければならない事が出来ましたから、当分どこへも御伴は出来ませんから、今日は是非いっしょに散歩をしようと思って来たんです」
「そうか帰るのかい、用事でもあるのかい」
「ええちょっと用事が出来たんです。――ともかくも出ようじゃありませんか」
「そう。それじゃ出ようか」
「さあ行きましょう。今日は私が晩餐を奢りますから、――それから運動をして上野へ行くとちょうど好い刻限です」


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