夏目漱石 『吾輩は猫である』 「そんなら君は何だい」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』

現代語化

「それじゃあ君は何なの?」
「僕か、そうだな。僕なんかは――まあ自然薯くらいかな。長くなって土に埋まってるよ」
「君はいつも落ち着いてるみたいで楽しそうだね。うらやましいな」
「別に普通の人間と同じにやってるだけだよ。うらやましがられるほどのことじゃない。ただありがたいことに人をうらやましく思う気にもならないから、その分いいのかな」
「お金は最近どう?」
「いつも同じだよ。足りてるのか足りてないのか。でも食べてるんだから大丈夫。慌てないよ」
「僕はイライラして、腹が立ってしょうがない。何を見ても文句ばっかりだ」
「文句もあればいいんだよ。文句がたまったら出せばしばらくは気分が良くなる。人間はいろいろだから、僕みたいに誰にでもなれって勧めたりしても、なれるもんじゃない。箸は人と同じように持たないとご飯が食べにくいけど、自分の服は自分の好きなように着た方がいいみたいだ。上手な仕立て屋が服を作れば、着た瞬間から体に合うけど、へたくそな仕立て屋に作らせるとしばらくは我慢しなくちゃいけない。でも世の中はうまくできてて、着てるうちに服の方がこっちの骨格に合ってくるんだ。今の時代に合うようにいい両親がうまく産んでくれれば、それが幸せなんだよ。でも失敗作だったら世の中に合わなくて我慢するか、世の中に合うまで我慢するしかない」
「でも僕なんか、いつまでたっても合いそうにないな。不安だよ」
「無理に着ない背広は破れる。ケンカしたり、自殺したり、騒ぎが起きるんだ。でも君なんかつまらないって思ってるだけで、自殺はしないし、ケンカもしたことがないんだろ。だいぶマシだよ」
「でも毎日ケンカばっかりしてるよ。相手がいない時も怒ってればケンカだろ」
「なるほど、ひとりケンカか。面白いじゃん。いくらでもやってな」
「それがイヤになった」
「じゃあやめな」
「君の言う前でも自分の心がそんなに自由にならないんだ」
「まあ、全体何がそんなに不満なんだ?」

原文 (会話文抽出)

「そんなら君は何だい」
「僕か、そうさな僕なんかは――まあ自然薯くらいなところだろう。長くなって泥の中に埋ってるさ」
「君は始終泰然として気楽なようだが、羨ましいな」
「なに普通の人間と同じようにしているばかりさ。別に羨まれるに足るほどの事もない。ただありがたい事に人を羨む気も起らんから、それだけいいね」
「会計は近頃豊かかね」
「なに同じ事さ。足るや足らずさ。しかし食うているから大丈夫。驚かないよ」
「僕は不愉快で、肝癪が起ってたまらん。どっちを向いても不平ばかりだ」
「不平もいいさ。不平が起ったら起してしまえば当分はいい心持ちになれる。人間はいろいろだから、そう自分のように人にもなれと勧めたって、なれるものではない。箸は人と同じように持たんと飯が食いにくいが、自分の麺麭は自分の勝手に切るのが一番都合がいいようだ。上手な仕立屋で着物をこしらえれば、着たてから、からだに合ったのを持ってくるが、下手の裁縫屋に誂えたら当分は我慢しないと駄目さ。しかし世の中はうまくしたもので、着ているうちには洋服の方で、こちらの骨格に合わしてくれるから。今の世に合うように上等な両親が手際よく生んでくれれば、それが幸福なのさ。しかし出来損こなったら世の中に合わないで我慢するか、または世の中で合わせるまで辛抱するよりほかに道はなかろう」
「しかし僕なんか、いつまで立っても合いそうにないぜ、心細いね」
「あまり合わない背広を無理にきると綻びる。喧嘩をしたり、自殺をしたり騒動が起るんだね。しかし君なんかただ面白くないと云うだけで自殺は無論しやせず、喧嘩だってやった事はあるまい。まあまあいい方だよ」
「ところが毎日喧嘩ばかりしているさ。相手が出て来なくっても怒っておれば喧嘩だろう」
「なるほど一人喧嘩だ。面白いや、いくらでもやるがいい」
「それがいやになった」
「そんならよすさ」
「君の前だが自分の心がそんなに自由になるものじゃない」
「まあ全体何がそんなに不平なんだい」


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