夏目漱石 『吾輩は猫である』 「君少し顔色が悪いようだぜ、どうかしやせん…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』

現代語化

「ちょっと顔色悪いみたいだけど、大丈夫?」
「別にどこも悪くないよ」
「でも青白いね。気をつけた方がいいよ。今は体調崩しやすい時期だから。夜はちゃんと寝れてる?」
「うん」
「何か悩み事でもあるの?僕にできることなら何でもするよ。遠慮なく言ってね」
「悩み事って、何?」
「ないといいんだけど、もしあるならってことで。悩みは一番毒だからね。世の中は笑って楽しく過ごした方がいいんだ。君ってちょっと暗すぎない?」
「笑うのも毒だよ。むやみに笑うと死ぬこともあるぜ」
「冗談言うなよ。笑う門には福来るって言うじゃん」
「昔、ギリシャにクリシッパスって哲学者がいんだけど、知ってる?」
「知らない。それで?」
「その人が笑いすぎて死んだんだ」
「へえー、それは変だね。でもそれは昔の話でしょ……」
「昔も今も変わらないよ。ロバが銀の器からイチジクを食べて、おかしくてたまらなくなって笑い続けたんだ。そしたら笑い止まらなくなって、結局笑い死にしたんだって」
「ははは。でもそんなに止められなくなるほど笑うことはないよ。少し笑えばいい――ほどほどにね。そうすれば気分も良くなるよ」
「ちょっとボールが入っちゃったから、取りに行ってもいい?」
「どうぞ」
「隣の学校の生徒が庭にボールを投げ込んだんだ」
「隣の学校?隣に学校があるの?」
「落雲館って学校」
「ああそうか、学校ね。うるさいだろうね」
「うるさいのなんのって。まともに勉強できないよ。僕が文部大臣だったらすぐに閉鎖を命じる」
「ははは、相当怒ってるね。何か気に障る事でもあるのかい?」
「気に障る事?朝から晩までずっと気に障ってるよ」
「そんなに気に障るなら引っ越せばいいんじゃない?」
「誰が引っ越すかってんだ。失礼な」
「僕に怒っても仕方ないよ。なあに、子供だよね。放っておけばいいさ」
「君はいいよ。僕はダメだ。昨日は先生を呼び出して文句言ってきた」
「それは面白かったね。ビックリしただろう」
「うん」
「ちょっとボールが入っちゃったから、取りに行ってもいい?」
「いや、結構な数だねぇ。またボールだ」
「うん。表から来るって約束したんだ」
「なるほど、だからこんなに来るんだね。そうか、わかった」
「何がわかったんだよ」
「なに、ボールを取りに来る原因がさ」
「これで今日は16回目だ」
「君、うるさくないの?来ないようにしたらいいじゃない」
「来ないようにしたって、来る時は来るよ」
「来ないようにするって言えばそれまでだけど、そんなに頑固にならなくてもいいでしょ。人間は角があると世の中を生きていくのが難しくなるよ。丸いものは転がしてどこへでもラクラク行けるけど、角ばったものは転がすのが大変な上、転がるたびに角が当たって痛いんだ。自分だけが世の中の中心じゃないんだから、自分の思い通りに人は動かないよ。要するにね、お金持ちに楯突いても損なだけだ。ただ神経が痛んで、体は弱り、誰も褒めてくれない。相手は平気なもんだよ。人を雇って座ってるだけでいいんだから。大勢に一人じゃ、どうせ敵わないのはわかってるよ。頑固もいいけど、ずっと言い張ってると、自分の勉強の邪魔になったり、仕事に支障が出たりして、結局損ばかりだ」
「ごめん。今、ボールが飛んでいったから、裏口に行って取ってもいい?」
「また来たよ」
「失礼な」

原文 (会話文抽出)

「君少し顔色が悪いようだぜ、どうかしやせんか」
「別にどこも何ともないさ」
「でも蒼いぜ、用心せんといかんよ。時候がわるいからね。よるは安眠が出来るかね」
「うん」
「何か心配でもありゃしないか、僕に出来る事なら何でもするぜ。遠慮なく云い給え」
「心配って、何を?」
「いえ、なければいいが、もしあればと云う事さ。心配が一番毒だからな。世の中は笑って面白く暮すのが得だよ。どうも君はあまり陰気過ぎるようだ」
「笑うのも毒だからな。無暗に笑うと死ぬ事があるぜ」
「冗談云っちゃいけない。笑う門には福来るさ」
「昔し希臘にクリシッパスと云う哲学者があったが、君は知るまい」
「知らない。それがどうしたのさ」
「その男が笑い過ぎて死んだんだ」
「へえー、そいつは不思議だね、しかしそりゃ昔の事だから……」
「昔しだって今だって変りがあるものか。驢馬が銀の丼から無花果を食うのを見て、おかしくってたまらなくって無暗に笑ったんだ。ところがどうしても笑いがとまらない。とうとう笑い死にに死んだんだあね」
「はははしかしそんなに留め度もなく笑わなくってもいいさ。少し笑う――適宜に、――そうするといい心持ちだ」
「ちょっとボールが這入りましたから、取らして下さい」
「はい」
「裏の書生がボールを庭へ投げ込んだんだ」
「裏の書生? 裏に書生がいるのかい」
「落雲館と云う学校さ」
「ああそうか、学校か。随分騒々しいだろうね」
「騒々しいの何のって。碌々勉強も出来やしない。僕が文部大臣なら早速閉鎖を命じてやる」
「ハハハ大分怒ったね。何か癪に障る事でも有るのかい」
「あるのないのって、朝から晩まで癪に障り続けだ」
「そんなに癪に障るなら越せばいいじゃないか」
「誰が越すもんか、失敬千万な」
「僕に怒ったって仕方がない。なあに小供だあね、打ちゃっておけばいいさ」
「君はよかろうが僕はよくない。昨日は教師を呼びつけて談判してやった」
「それは面白かったね。恐れ入ったろう」
「うん」
「ちょっとボールが這入りましたから取らして下さい」
「いや大分来るじゃないか、またボールだぜ君」
「うん、表から来るように契約したんだ」
「なるほどそれであんなにくるんだね。そうーか、分った」
「何が分ったんだい」
「なに、ボールを取りにくる源因がさ」
「今日はこれで十六返目だ」
「君うるさくないか。来ないようにしたらいいじゃないか」
「来ないようにするったって、来るから仕方がないさ」
「仕方がないと云えばそれまでだが、そう頑固にしていないでもよかろう。人間は角があると世の中を転がって行くのが骨が折れて損だよ。丸いものはごろごろどこへでも苦なしに行けるが四角なものはころがるに骨が折れるばかりじゃない、転がるたびに角がすれて痛いものだ。どうせ自分一人の世の中じゃなし、そう自分の思うように人はならないさ。まあ何だね。どうしても金のあるものに、たてを突いちゃ損だね。ただ神経ばかり痛めて、からだは悪くなる、人は褒めてくれず。向うは平気なものさ。坐って人を使いさえすればすむんだから。多勢に無勢どうせ、叶わないのは知れているさ。頑固もいいが、立て通すつもりでいるうちに、自分の勉強に障ったり、毎日の業務に煩を及ぼしたり、とどのつまりが骨折り損の草臥儲けだからね」
「ご免なさい。今ちょっとボールが飛びましたから、裏口へ廻って、取ってもいいですか」
「そらまた来たぜ」
「失敬な」


青空文庫現代語化 Home リスト