夏目漱石 『吾輩は猫である』 「只今御宅へ伺いましたところで、ちょうどよ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』

現代語化

「今お宅に伺ったところ、ちょうどお会いできて良かったです」
「おう、そうか。実は先日からちょっと会いたかったんだ」
「へえ、それは良かったですね。何かご用ですか?」
「いや、たいした事じゃないんだけど、君じゃなきゃできない事なんだ」
「自分のできることであれば何でもやりますよ。どんな事ですか?」
「うん、そうか……」
「都合の悪いようでしたら、また伺います。いつがいいですか?」
「いや、そんな大したことじゃない。――じゃあ、お願いしようかな」
「遠慮なく言ってください」
「あの変人ね。君の友達じゃないか?苦沙弥とか何とかいう奴」
「ええ、苦沙弥で何か?」
「いや、別にどうってことはないんだけど、あの事件以来気になっていてね」
「ごもっともです。苦沙弥は傲慢ですから……自分の立場をわきまえていれば良いんですが、まるで自分が世界の中心みたいですから」
「そこなんだよ。金に目がくらんで、実業家どうとかこうとか生意気なことを言うから、じゃあ実業家の腕前を見せてやろうと思ってね。ここしばらく骨を削らせたんだけど、まだ頑張ってるんだ。しぶとい奴だな」
「どうも得とか損とかそういう感覚が欠落していて、むやみに強がるんでしょうね。昔からそういう癖があって、自分の損になることに気づかないんですから始末に負えません」
「ははは、ほんと始末に負えない。いろいろ手を使って試したんだけど、最後には学校の生徒を使った」
「それは妙案ですね。効果がありましたか?」
「そうしたら、さすがに困ったみたいだ。もう近いうちに降参するだろう」
「そりゃ結構です。どんなに偉ぶっても、人数にはかないませんからね」
「そうさ、一人じゃどうにもならない。それで大分弱ったみたいだから、様子を見てもらいに行ってもらおうと思ったんだ」
「なるほど、わかりました。すぐに行ってきます。帰り道に様子をお伝えします。あの頑固ものが意気消沈したところなんて、きっと面白いでしょう」
「ああ、それじゃあ帰りに寄ってね。待ってるから」
「それでは失礼します」

原文 (会話文抽出)

「只今御宅へ伺いましたところで、ちょうどよい所で御目にかかりました」
「うむ、そうかえ。実はこないだから、君にちょっと逢いたいと思っていたがね。それはよかった」
「へえ、それは好都合でございました。何かご用で」
「いや何、大した事でもないのさ。どうでもいいんだが、君でないと出来ない事なんだ」
「私に出来る事なら何でもやりましょう。どんな事で」
「ええ、そう……」
「何なら、御都合のとき出直して伺いましょう。いつが宜しゅう、ございますか」
「なあに、そんな大した事じゃ無いのさ。――それじゃせっかくだから頼もうか」
「どうか御遠慮なく……」
「あの変人ね。そら君の旧友さ。苦沙弥とか何とか云うじゃないか」
「ええ苦沙弥がどうかしましたか」
「いえ、どうもせんがね。あの事件以来胸糞がわるくってね」
「ごもっともで、全く苦沙弥は剛慢ですから……少しは自分の社会上の地位を考えているといいのですけれども、まるで一人天下ですから」
「そこさ。金に頭はさげん、実業家なんぞ――とか何とか、いろいろ小生意気な事を云うから、そんなら実業家の腕前を見せてやろう、と思ってね。こないだから大分弱らしているんだが、やっぱり頑張っているんだ。どうも剛情な奴だ。驚ろいたよ」
「どうも損得と云う観念の乏しい奴ですから無暗に痩我慢を張るんでしょう。昔からああ云う癖のある男で、つまり自分の損になる事に気が付かないんですから度し難いです」
「あはははほんとに度し難い。いろいろ手を易え品を易えてやって見るんだがね。とうとうしまいに学校の生徒にやらした」
「そいつは妙案ですな。利目がございましたか」
「これにゃあ、奴も大分困ったようだ。もう遠からず落城するに極っている」
「そりゃ結構です。いくら威張っても多勢に無勢ですからな」
「そうさ、一人じゃあ仕方がねえ。それで大分弱ったようだが、まあどんな様子か君に行って見て来てもらおうと云うのさ」
「はあ、そうですか。なに訳はありません。すぐ行って見ましょう。容子は帰りがけに御報知を致す事にして。面白いでしょう、あの頑固なのが意気銷沈しているところは、きっと見物ですよ」
「ああ、それじゃ帰りに御寄り、待っているから」
「それでは御免蒙ります」


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