夏目漱石 『吾輩は猫である』 「これは少々僕には解しかねる」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』

現代語化

「これちょっとムズいっす」
「ちょっと盛りすぎでしょ」
「なるほどね」
「先生に分かんないのも無理ないすよ。だって昔の詩と今の詩、全然違いますから。今の詩って、寝転がったり電車で読んでも全然わかんないし、作った本人に聞いたら答えられないことばっかっす。全部フィーリングで書いてるんで、詩人にはそれ以外の責任なんてないんです。解説とか注釈は先生がたにお任せして、こっちには関係ありません。こないだも友達が『一夜』って短編書いたんですけど、誰読んでもわけわからなくて、本人に聞いても『知らねえよ』って。これが詩人のすごいとこなんすかね」
「詩人ってやつは変なやつだな」
「アホっすよ」
「送籍ってやつは仲間でも変わり者ですけど、俺の詩もそういう目で読んでもらいたいです。特に注意してほしいのは『からきこの世』と『あまき口づけ』が対になってるトコです。そこが俺のこだわりなんで」
「苦労した跡がめっちゃ見えんすよ」
「ピリ辛と甘いのを対比させてるところが七味唐辛子のようでユニークで。東風さんならではの神業っす」
「東風さんの作品も読ませてもらったし、今度は俺の短文を聞いてもらって、感想もらってもいいっすかね」
「天然居士の墓碑銘は何度か聞いたよ」
「黙ってろよ。東風さん、これは自慢じゃありませんけど、ちょっとお遊びで聞いてください」
「ぜひ聞かせてください」
「寒月もついでにどうぞ」
「ついでじゃなくても聞きますよ。長くないんでしょ?」
「たったの60文字ぐらいです」
「大和魂って叫んで、日本人が結核みたいな咳をした」
「インパクトありますね」
「『大和魂』って新聞屋が言う。『大和魂』ってスリが言う。大和魂が海を超えてイギリスやドイツで演説したり芝居したりしてる」
「なるほど、天然居士よりすごい」
「東郷大将に大和魂がある。肴屋のオヤジにも大和魂がある。詐欺師や山師、殺人鬼にも大和魂がある」
「先生、そこに寒月も追加しといてくださいよ」
「大和魂ってなんだって聞いたら、『大和魂だよ』って答えて歩き出した。5、6歩進んだところで『エヘン』って声がした」
「その一言は傑作だ。君、才能あるね。で、次の句は?」
「三角なヤツが大和魂か、四角なヤツが大和魂か。大和魂ってのは名前の通り魂だから。魂だから、いつもフラフラしてる」
「ちょっと面白いですけど、大和魂が多すぎやしませんか?」
「同意」
「誰も言わないけど、誰も見たことない。誰も聞いたことがあるけど、誰も会ったことない。大和魂ってのは天狗みたいなものか?」

原文 (会話文抽出)

「これは少々僕には解しかねる」
「これは少々振い過ぎてる」
「なああるほど」
「先生御分りにならんのはごもっともで、十年前の詩界と今日の詩界とは見違えるほど発達しておりますから。この頃の詩は寝転んで読んだり、停車場で読んではとうてい分りようがないので、作った本人ですら質問を受けると返答に窮する事がよくあります。全くインスピレーションで書くので詩人はその他には何等の責任もないのです。註釈や訓義は学究のやる事で私共の方では頓と構いません。せんだっても私の友人で送籍と云う男が一夜という短篇をかきましたが、誰が読んでも朦朧として取り留めがつかないので、当人に逢って篤と主意のあるところを糺して見たのですが、当人もそんな事は知らないよと云って取り合わないのです。全くその辺が詩人の特色かと思います」
「詩人かも知れないが随分妙な男ですね」
「馬鹿だよ」
「送籍は吾々仲間のうちでも取除けですが、私の詩もどうか心持ちその気で読んでいただきたいので。ことに御注意を願いたいのはからきこの世と、あまき口づけと対をとったところが私の苦心です」
「よほど苦心をなすった痕迹が見えます」
「あまいとからいと反照するところなんか十七味調唐辛子調で面白い。全く東風君独特の伎倆で敬々服々の至りだ」
「東風君の御作も拝見したから、今度は僕が短文を読んで諸君の御批評を願おう」
「天然居士の墓碑銘ならもう二三遍拝聴したよ」
「まあ、だまっていなさい。東風さん、これは決して得意のものではありませんが、ほんの座興ですから聴いて下さい」
「是非伺がいましょう」
「寒月君もついでに聞き給え」
「ついででなくても聴きますよ。長い物じゃないでしょう」
「僅々六十余字さ」
「大和魂! と叫んで日本人が肺病やみのような咳をした」
「起し得て突兀ですね」
「大和魂! と新聞屋が云う。大和魂! と掏摸が云う。大和魂が一躍して海を渡った。英国で大和魂の演説をする。独逸で大和魂の芝居をする」
「なるほどこりゃ天然居士以上の作だ」
「東郷大将が大和魂を有っている。肴屋の銀さんも大和魂を有っている。詐偽師、山師、人殺しも大和魂を有っている」
「先生そこへ寒月も有っているとつけて下さい」
「大和魂はどんなものかと聞いたら、大和魂さと答えて行き過ぎた。五六間行ってからエヘンと云う声が聞こえた」
「その一句は大出来だ。君はなかなか文才があるね。それから次の句は」
「三角なものが大和魂か、四角なものが大和魂か。大和魂は名前の示すごとく魂である。魂であるから常にふらふらしている」
「先生だいぶ面白うございますが、ちと大和魂が多過ぎはしませんか」
「賛成」
「誰も口にせぬ者はないが、誰も見たものはない。誰も聞いた事はあるが、誰も遇った者がない。大和魂はそれ天狗の類か」


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