GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』
現代語化
「そうさ、君などは向こうが騒ぐんだが、中にはおかしいやつもいるよ。図書館に小便しに来た老梅君なんかはすごく変わってるからね」
「何をしたんだい?」
「まあ、こういうわけさ。先生、昔静岡の東西館に泊まったことがあるのさ。――たった一夜だけだぜ――それでその夜すぐにそこの女中に結婚を申し込んだのさ。僕も随分呑気だけど、まだそこまで進化してない。まあ当時は、あの宿屋に御夏さんっていう有名な美女がいて、老梅君の部屋に出たのがちょうどその御夏さんだから仕方がないんだけどね」
「仕方がないどころか、君の何とか峠と全く同じじゃないか」
「少し似てるね。実は僕と老梅君ってそんなに違わないからな。とにかく、その御夏さんに結婚を申し込んで、まだ返事を聞いてないうちにスイカが食べたくなったんだがね」
「何だって?」
「御夏さんを呼んで、静岡にスイカはあるか?って聞くと、御夏さんが、静岡だってスイカくらいありますよ、ってお盆にスイカを山盛りにして持ってくる。それで老梅君、食べたそうだ。山盛りのスイカを全部平らげて、御夏さんの返事を待っていると、返事の来ないうちに腹が痛み出してね、うーんうーんって唸ったけど効かないからまた御夏さんを呼んで今度は静岡に医者はあるか?って聞いたら、御夏さんがまた、静岡だって医者くらいありますよ、って天地玄黄とかいう千字文を盗んだような名前のドクトルを連れて来た。翌朝になって、腹の痛みも治ったからありがたいって、出発する15分前に御夏さんを呼んで、昨日申し込んだ結婚の返事を尋ねると、御夏さんは笑いながら、静岡にはスイカもあります、医者もありますが、一夜だけの嫁はありませんよ、って出て行って顔を見せなかったそうだ。それから老梅君も僕と同じように失恋して、図書館には小便をするためにしか来なくなったんだって。考えると女って罪な者だよ」
「本当にそうだ。こないだミュッセの脚本を読んだら、その中の人物がローマの詩人を引用してこんなことを言ってた。――『羽よりも軽いものは塵である。塵よりも軽いものは風である。風よりも軽いものは女である。女よりも軽いものは無である。』――よく言ったもんだよ。女なんかどうしようもない」
「女の軽いのが悪いとおっしゃるけれども、男の重いんだっていいことはないでしょう?」
「重いた、どんなことだ?」
「重いとって、重いんですってば、あなたみたいな方のことです」
「俺がなんで重い?」
「重いじゃないですか!」
「そう、赤くなって互いに弁解したり攻撃したりするのが夫婦の本当の姿だな。昔の夫婦なんてまったく無意味なものだったんだろう」
原文 (会話文抽出)
「ええなるべく珠ばかり磨っていたいんですが、向うでそうさせないんだから弱り切ります」
「そうさ、君などは先方が騒ぎ立てるんだが、中には滑稽なのがあるよ。あの図書館へ小便をしに来た老梅君などになるとすこぶる奇だからね」
「どんな事をしたんだい」
「なあに、こう云う訳さ。先生その昔静岡の東西館へ泊った事があるのさ。――たった一と晩だぜ――それでその晩すぐにそこの下女に結婚を申し込んだのさ。僕も随分呑気だが、まだあれほどには進化しない。もっともその時分には、あの宿屋に御夏さんと云う有名な別嬪がいて老梅君の座敷へ出たのがちょうどその御夏さんなのだから無理はないがね」
「無理がないどころか君の何とか峠とまるで同じじゃないか」
「少し似ているね、実を云うと僕と老梅とはそんなに差異はないからな。とにかく、その御夏さんに結婚を申し込んで、まだ返事を聞かないうちに水瓜が食いたくなったんだがね」
「何だって?」
「御夏さんを呼んで静岡に水瓜はあるまいかと聞くと、御夏さんが、なんぼ静岡だって水瓜くらいはありますよと、御盆に水瓜を山盛りにして持ってくる。そこで老梅君食ったそうだ。山盛りの水瓜をことごとく平らげて、御夏さんの返事を待っていると、返事の来ないうちに腹が痛み出してね、うーんうーんと唸ったが少しも利目がないからまた御夏さんを呼んで今度は静岡に医者はあるまいかと聞いたら、御夏さんがまた、なんぼ静岡だって医者くらいはありますよと云って、天地玄黄とかいう千字文を盗んだような名前のドクトルを連れて来た。翌朝になって、腹の痛みも御蔭でとれてありがたいと、出立する十五分前に御夏さんを呼んで、昨日申し込んだ結婚事件の諾否を尋ねると、御夏さんは笑いながら静岡には水瓜もあります、御医者もありますが一夜作りの御嫁はありませんよと出て行ったきり顔を見せなかったそうだ。それから老梅君も僕同様失恋になって、図書館へは小便をするほか来なくなったんだって、考えると女は罪な者だよ」
「本当にそうだ。せんだってミュッセの脚本を読んだらそのうちの人物が羅馬の詩人を引用してこんな事を云っていた。――羽より軽い者は塵である。塵より軽いものは風である。風より軽い者は女である。女より軽いものは無である。――よく穿ってるだろう。女なんか仕方がない」
「女の軽いのがいけないとおっしゃるけれども、男の重いんだって好い事はないでしょう」
「重いた、どんな事だ」
「重いと云うな重い事ですわ、あなたのようなのです」
「俺がなんで重い」
「重いじゃありませんか」
「そう赤くなって互に弁難攻撃をするところが夫婦の真相と云うものかな。どうも昔の夫婦なんてものはまるで無意味なものだったに違いない」