夏目漱石 『吾輩は猫である』 「あら多々良さんの頭は御母さまのように光か…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』

現代語化

「あら、多々良さんの頭って、お母さんみたいにつるつるしてるね」
「黙ってなさいって」
「お母さん、昨夜の泥棒の頭もツルツルしてたよ」
「さあさあ、みんな少し庭に出て遊んでおいで。今にお母さんが美味しいお菓子あげるから」
「多々良さんの頭ってどうしたの?」
「虫に食われちゃったんです。なかなか治らないんですよ。奥さんもハゲてらっしゃいますか?」
「あらやだ、虫に食われるなんて。女は髷で釣るところを少しハゲますよ」
「ハゲは全部バクテリアのせいなんです」
「私のじゃないよ」
「奥さんって意地っ張りだなあ」
「なんでもバクテリアのせいじゃないよ。でも英語でハゲってなんて言うの?」
「ハゲはボールドとか言います」
「違うの、もっと長い名前があるはずよ」
「先生に聞いたらすぐ分かるでしょ」
「先生は絶対教えてくれないから、あなたに聞くんです」
「私はボールドより知らないけど。長かったら、どんな感じ?」
「オタンチン・パレオロガスって言うんです。オタンチンってのがハゲって字で、パレオロガスが頭でしょう?」
「そうかもしれませんね。今に先生の書斎に行ってウェブスターを引いて調べてあげましょう。でも先生も変わってますよね。こんないい天気なのに、家にじっとして――奥さん、これじゃ胃病は治らないですよ。ちょっと上野の花見にでも連れて行ってあげてくださいよ」
「あなたが連れて行ってください。先生は女の言うことは絶対に聞かない人ですから」
「この頃もジャムを舐めてますか?」
「ええ、相変わらずです」
「こないだ、先生こぼしてたんです。『うちのジャムの舐め方が激しくて困るけど、私はそんなに舐めてるつもりはない。なんか勘違いしてるんだろう』って。それはきっとお嬢さんと奥さんが一緒に舐めてるんじゃないかって――」
「いやな多々良さん、何でそんなこと言うんですか」
「でも奥さんも舐めそうな顔してますよ」
「顔でそんなこと分かるんですか?」
「分かんないけど――じゃあ奥さんは全然舐めないんですか?」
「それは少し舐めますよ。舐めたっていいじゃないの。うちのものだし」
「ハハハハ、そうだろうと思った――でも本の件、泥棒は迷惑でしたね。山の芋だけ持って行ったんですか?」
「山の芋だけならよかったんですけど、普段着を全部持って行かれました」
「それは困りましたね。また借金しなきゃいけないんですか。この猫が犬ならよかったのに――惜しいことしたなあ。奥さん、大きな犬をぜひ1匹飼ってください。――猫はダメですよ、飯を食うだけで――せめてネズミくらいは捕まえますか?」
「1匹も捕ったことありません。本当に怠け者の図々しい猫ですよ」
「いや、それはどうにもならないですね。早く捨てちゃいなさい。私がもらって行って煮て食べようかなあ」
「あら、多々良さんは猫を食べるの?」
「食べました。猫は美味しいですよ」
「相当な強者ねえ」

原文 (会話文抽出)

「あら多々良さんの頭は御母さまのように光かってよ」
「だまっていらっしゃいと云うのに」
「御母あさま夕べの泥棒の頭も光かってて」
「さあさあ御前さん達は少し御庭へ出て御遊びなさい。今に御母あさまが好い御菓子を上げるから」
「多々良さんの頭はどうしたの」
「虫が食いました。なかなか癒りません。奥さんも有んなさるか」
「やだわ、虫が食うなんて、そりゃ髷で釣るところは女だから少しは禿げますさ」
「禿はみんなバクテリヤですばい」
「わたしのはバクテリヤじゃありません」
「そりゃ奥さん意地張りたい」
「何でもバクテリヤじゃありません。しかし英語で禿の事を何とか云うでしょう」
「禿はボールドとか云います」
「いいえ、それじゃないの、もっと長い名があるでしょう」
「先生に聞いたら、すぐわかりましょう」
「先生はどうしても教えて下さらないから、あなたに聞くんです」
「私はボールドより知りませんが。長かって、どげんですか」
「オタンチン・パレオロガスと云うんです。オタンチンと云うのが禿と云う字で、パレオロガスが頭なんでしょう」
「そうかも知れませんたい。今に先生の書斎へ行ってウェブスターを引いて調べて上げましょう。しかし先生もよほど変っていなさいますな。この天気の好いのに、うちにじっとして――奥さん、あれじゃ胃病は癒りませんな。ちと上野へでも花見に出掛けなさるごと勧めなさい」
「あなたが連れ出して下さい。先生は女の云う事は決して聞かない人ですから」
「この頃でもジャムを舐めなさるか」
「ええ相変らずです」
「せんだって、先生こぼしていなさいました。どうも妻が俺のジャムの舐め方が烈しいと云って困るが、俺はそんなに舐めるつもりはない。何か勘定違いだろうと云いなさるから、そりゃ御嬢さんや奥さんがいっしょに舐めなさるに違ない――」
「いやな多々良さんだ、何だってそんな事を云うんです」
「しかし奥さんだって舐めそうな顔をしていなさるばい」
「顔でそんな事がどうして分ります」
「分らんばってんが――それじゃ奥さん少しも舐めなさらんか」
「そりゃ少しは舐めますさ。舐めたって好いじゃありませんか。うちのものだもの」
「ハハハハそうだろうと思った――しかし本の事、泥棒は飛んだ災難でしたな。山の芋ばかり持って行たのですか」
「山の芋ばかりなら困りゃしませんが、不断着をみんな取って行きました」
「早速困りますか。また借金をしなければならんですか。この猫が犬ならよかったに――惜しい事をしたなあ。奥さん犬の大か奴を是非一丁飼いなさい。――猫は駄目ですばい、飯を食うばかりで――ちっとは鼠でも捕りますか」
「一匹もとった事はありません。本当に横着な図々図々しい猫ですよ」
「いやそりゃ、どうもこうもならん。早々棄てなさい。私が貰って行って煮て食おうか知らん」
「あら、多々良さんは猫を食べるの」
「食いました。猫は旨うござります」
「随分豪傑ね」


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