夏目漱石 『吾輩は猫である』 「うん、こんな物までぶら下げなくちゃ、なら…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』

現代語化

「うん、こんなものまでぶら下げなきゃいけなくなったよ」
「それは本物かい?」
「18金だよ」
「君も大分年を取ったね。確か子どもがいたはずだけど、一人かい?」
「いや」
「二人?」
「いや」
「まだいるのか、じゃ三人か」
「うん、三人いる。この先何人できるかわからない」
「相変わらず気楽なことを言ってるな。一番大きいのはいくつになるかね、もうかなりだろう?」
「うん、いくつかよく知らないけど、多分6つか7つくらいかな」
「ははは。教師はのんびりでいいな。僕も教師になればよかった」
「なってみてみろ。3日で嫌になるよ」
「そうかな。なんだか上品で、気楽で、暇があって、好きな勉強ができて、よさそうじゃないか。実業家も悪くはないけど、うちの家はダメだ。実業家になるならずっと上にならないといけない。下の方になるとやっぱりつまらないお世辞を言ったり、嫌いな酒を一緒に飲まされたり、すごくバカげてるよ」
「僕は実業家は学校時代から大嫌いだ。金さえ取れれば何でもする、昔で言えば町人だから」
「まさか――そうばかりも言えないけど、少しは下品なところもあるよね。とにかく金と情死する覚悟がなきゃやり通せないんだ。でもその金っていうやつがクセモノで――こないだある実業家のところに行って聞いてきたんだけど、金を作るにも三角術を使わなきゃいけないんだって。義理をかく、人情をかく、恥をかくこれで三角になるそうだ。面白いじゃないか。はははは」
「誰がそんなバカなことを?」
「バカじゃないよ。なかなか賢い奴なんだよ。実業界でちょっと有名だけど。君、知らないかしら?ついこの先の横丁にいるんだけど」
「金田か?あんなやつか」
「すごく怒ってるね。あれはまぁ冗談だろうよ。そのくらいしなきゃ金は貯まらないっていうたとえ話だよ。君のように真剣に受け取っちゃ困る」
「三角術は冗談でもいいけど、あそこの奥さんの鼻はどうだ?君も行ったんなら見たでしょ、あの鼻を」
「奥さん?奥さんはなかなか気が利いて感じのいい人だよ」
「鼻だよ、大きい鼻のこと言ってるんだ。こないだ僕はあの鼻について俳体詩を作ったんだけど」
「何だよ俳体詩ってのは?」
「俳体詩を知らないのか?君も相当時代遅れだな」
「いやぁ、僕みたいに忙しいと文学なんてぜんぜんダメだよ。それに昔っからあまり風流な方じゃないから」
「君はシャーレマンの鼻の形を知ってるか?」
「はははは。ずいぶん気楽だな。知らないよ」
「エリントンは部下から『鼻々』ってあだ名をつけられてたんだ。知ってるか?」
「鼻のことばかり気にして、どうしたんだい。鼻なんて丸くても尖がっててもいいじゃないか」
「そうじゃないんだよ。君はパスカルのこと知ってるか?」
「また知ってるかか。まるで試験を受けに来たみたいだな。パスカルがどうしたんだい?」
「パスカルがこんなことを言ってる」
「何て言ったの?」
「もしクレオパトラの鼻がもう少し短かったなら、世界の姿は大きく変わっただろうって」
「なるほど」
「だから君みたいにむやみに鼻をバカにしちゃいけない」
「まぁいいよ。これから大事にするから。それはそうと、今日来たのは、ちょっと君に用事があって来たんだけど――あの元君の教えたとか言う、水島。ええ水島。ちょっと思い出せない。――そら君のところへしょっちゅう来ると言うじゃないか?」
「寒月のことか?」
「そうそう寒月寒月。あの人についてちょっと聞きたいことがあって来たんだけど」
「結婚のことじゃないか?」
「まぁ多少それっぽいことだよ。今日金田に行ったら……」
「こないだ鼻が自分で来た」
「そうか。そうらしいよ。奥さんもそう言ってたよ。苦沙弥さんに、よく伺おうと思って伺ったら、生憎迷亭が来ていて口を挟んで、何が何だかわからなくなってしまったって」
「あんな鼻をつけて来るから悪いんだよ」
「いや君のことを言ってるわけじゃないよ。あの迷亭君がいたから、そう突っ込んだことも聞けなくて残念だって言ってたから、もう一度僕に行ってよく聞いてきてくれないかって頼まれたものだからね。僕も今までこんなお世話はしたことないけど、もし当人同士が嫌じゃないなら、間に入ってまとめるのも悪いことじゃないしね。それで来たんだよ」
「ご苦労さん」

原文 (会話文抽出)

「うん、こんな物までぶら下げなくちゃ、ならんようになってね」
「そりゃ本ものかい」
「十八金だよ」
「君も大分年を取ったね。たしか小供があるはずだったが一人かい」
「いいや」
「二人?」
「いいや」
「まだあるのか、じゃ三人か」
「うん三人ある。この先幾人出来るか分らん」
「相変らず気楽な事を云ってるぜ。一番大きいのはいくつになるかね、もうよっぽどだろう」
「うん、いくつか能く知らんが大方六つか、七つかだろう」
「ハハハ教師は呑気でいいな。僕も教員にでもなれば善かった」
「なって見ろ、三日で嫌になるから」
「そうかな、何だか上品で、気楽で、閑暇があって、すきな勉強が出来て、よさそうじゃないか。実業家も悪くもないが我々のうちは駄目だ。実業家になるならずっと上にならなくっちゃいかん。下の方になるとやはりつまらん御世辞を振り撒いたり、好かん猪口をいただきに出たり随分愚なもんだよ」
「僕は実業家は学校時代から大嫌だ。金さえ取れれば何でもする、昔で云えば素町人だからな」
「まさか――そうばかりも云えんがね、少しは下品なところもあるのさ、とにかく金と情死をする覚悟でなければやり通せないから――ところがその金と云う奴が曲者で、――今もある実業家の所へ行って聞いて来たんだが、金を作るにも三角術を使わなくちゃいけないと云うのさ――義理をかく、人情をかく、恥をかくこれで三角になるそうだ面白いじゃないかアハハハハ」
「誰だそんな馬鹿は」
「馬鹿じゃない、なかなか利口な男なんだよ、実業界でちょっと有名だがね、君知らんかしら、ついこの先の横丁にいるんだが」
「金田か? 何んだあんな奴」
「大変怒ってるね。なあに、そりゃ、ほんの冗談だろうがね、そのくらいにせんと金は溜らんと云う喩さ。君のようにそう真面目に解釈しちゃ困る」
「三角術は冗談でもいいが、あすこの女房の鼻はなんだ。君行ったんなら見て来たろう、あの鼻を」
「細君か、細君はなかなかさばけた人だ」
「鼻だよ、大きな鼻の事を云ってるんだ。せんだって僕はあの鼻について俳体詩を作ったがね」
「何だい俳体詩と云うのは」
「俳体詩を知らないのか、君も随分時勢に暗いな」
「ああ僕のように忙がしいと文学などは到底駄目さ。それに以前からあまり数奇でない方だから」
「君シャーレマンの鼻の恰好を知ってるか」
「アハハハハ随分気楽だな。知らんよ」
「エルリントンは部下のものから鼻々と異名をつけられていた。君知ってるか」
「鼻の事ばかり気にして、どうしたんだい。好いじゃないか鼻なんか丸くても尖んがってても」
「決してそうでない。君パスカルの事を知ってるか」
「また知ってるかか、まるで試験を受けに来たようなものだ。パスカルがどうしたんだい」
「パスカルがこんな事を云っている」
「どんな事を」
「もしクレオパトラの鼻が少し短かかったならば世界の表面に大変化を来したろうと」
「なるほど」
「それだから君のようにそう無雑作に鼻を馬鹿にしてはいかん」
「まあいいさ、これから大事にするから。そりゃそうとして、今日来たのは、少し君に用事があって来たんだがね――あの元君の教えたとか云う、水島――ええ水島ええちょっと思い出せない。――そら君の所へ始終来ると云うじゃないか」
「寒月か」
「そうそう寒月寒月。あの人の事についてちょっと聞きたい事があって来たんだがね」
「結婚事件じゃないか」
「まあ多少それに類似の事さ。今日金田へ行ったら……」
「この間鼻が自分で来た」
「そうか。そうだって、細君もそう云っていたよ。苦沙弥さんに、よく伺おうと思って上ったら、生憎迷亭が来ていて茶々を入れて何が何だか分らなくしてしまったって」
「あんな鼻をつけて来るから悪るいや」
「いえ君の事を云うんじゃないよ。あの迷亭君がおったもんだから、そう立ち入った事を聞く訳にも行かなかったので残念だったから、もう一遍僕に行ってよく聞いて来てくれないかって頼まれたものだからね。僕も今までこんな世話はした事はないが、もし当人同士が嫌やでないなら中へ立って纏めるのも、決して悪い事はないからね――それでやって来たのさ」
「御苦労様」


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