夏目漱石 『吾輩は猫である』 「あの苦沙弥と云う変物が、どう云う訳か水島…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』

現代語化

「あの苦沙弥という変人が、なぜか水島に知恵をつけて、あの金田の娘を貰ってはいけないなんてほのめかしているそうだ――なあ、鼻クソ野郎だな」
「ほのめかすどころじゃないんです。あんな奴の娘を貰うバカがどこにいるんです?寒月君、絶対に貰っちゃダメだって言ってるんです」
「あんな奴とは?失礼な!そんな乱暴なことを言ったの?」
「言ったどころじゃありません。ちゃんと車屋の奥さんが知らせに来てくれたんです」
「鈴木君、どうだい?聞いたとおりだよ。かなり厄介だろう?」
「困りますね。他のことと違って、こういうことには他人が勝手に口を出すべきじゃないんです。それくらいのことは、いくら苦沙弥でもわかってるはずですが。一体どうしてこうなったんでしょう?」
「それで君、学生時代から苦沙弥と同宿してて、今はどうだか知らないけど、昔は親しかったんでしょ?だから頼みたいんだけど、君が本人に行って、よくメリットデメリットを説明してくれないか?何か腹を立ててるかもしれないけど、腹を立てる方が悪いんだから、向こうが大人しくしていれば、メリットも十分あげられるし、気に障るようなこともやめるよ。でも向こうが向こうならこっちもこっちになるよ。つまり、そんなことを言い張るのは本人の損なんだよ」
「はい、まったくおっしゃる通りです。愚かな抵抗をしても本人の損になるだけなので、何の得にもなりません。よく言っておきますよ」
「それから、娘にはいろいろと話があるから、必ず水島にやると決めるわけにもいかないけど、だんだん聞いてみると、学問も性格も悪くないみたいだから、もし本人が勉強して近い内に博士になれたら、結婚できるかもしれないくらいはそれとなくほのめかしてもいいよ」
「そう言ったら本人もやる気が出て、勉強するでしょう。わかりました」
「それから、変な話だけど、水島にしては似合わないと思うけど、あの変人の苦沙弥を『先生、先生』って言って、苦沙弥の言うことはたいてい聞くみたいで困ってる。それはまぁ水島に限ったことじゃないんだけど、苦沙弥が何を言おうが邪魔しようが、こっちには別に支障はないんだけど……」
「水島さんがかわいそうですよね」
「水島さんにはお会いしたこともありませんが、とにかくこちらと縁組ができれば生涯の幸せで、本人も異存はないんでしょう?」
「はい。水島さんは乗り気なんですが、苦沙弥とか迷亭とかの変り者があれこれ言ってるんです」
「それはよくないことだね。相当な教育のある人には似合わない行いだね。私が苦沙弥のところに行って話をしてきますよ」
「ああ、どうか面倒でもお願いします。それから実は水島のことも苦沙弥が一番詳しいんですが、こないだ妻が行ったときは今日の話で ろくに聞くこともできなかったんです。なので、君からも今一度、本人の性格や学力などをよく聞いておいて欲しいんです」
「かしこまりました。今日は土曜日ですから、これから行ったらもう帰ってるでしょう。最近はどこに住んでるのか知りませんか?」
「ここの前を右へ突き当って、左へ1丁ばかり行くと、崩れかけた黒い塀のあるうちです」
「それじゃ、すぐ近所ですね。問題ありません。帰りにちょっと寄ってみますよ。標札を見れば大体わかるでしょ」
「標札はあるときとないときがありますよ。名刺を糊で門に貼ってるみたいなんです。雨が降ると剥がれちゃうんです。すると晴れた日にまた貼るんです。だから標札はあてになりませんよ。あんな面倒なことをするより、せめて木札でもかけたらいいのにね。ほんとうにどこまでもいい加減な人ですよ」
「それは驚きですね。でも、崩れた黒い塀の家と聞いたら大体わかるでしょう」
「はい。あんな汚い家は町内に一軒しかないから、すぐわかりますよ。あ、そうそう。それでもわからなかったらいいことがあります。とにかく屋根に草が生えた家を探していけば間違いないですよ」
「よほど特徴のある家ですね。はははは」

原文 (会話文抽出)

「あの苦沙弥と云う変物が、どう云う訳か水島に入れ智慧をするので、あの金田の娘を貰っては行かんなどとほのめかすそうだ――なあ鼻子そうだな」
「ほのめかすどころじゃないんです。あんな奴の娘を貰う馬鹿がどこの国にあるものか、寒月君決して貰っちゃいかんよって云うんです」
「あんな奴とは何だ失敬な、そんな乱暴な事を云ったのか」
「云ったどころじゃありません、ちゃんと車屋の神さんが知らせに来てくれたんです」
「鈴木君どうだい、御聞の通りの次第さ、随分厄介だろうが?」
「困りますね、ほかの事と違って、こう云う事には他人が妄りに容喙するべきはずの者ではありませんからな。そのくらいな事はいかな苦沙弥でも心得ているはずですが。一体どうした訳なんでしょう」
「それでの、君は学生時代から苦沙弥と同宿をしていて、今はとにかく、昔は親密な間柄であったそうだから御依頼するのだが、君当人に逢ってな、よく利害を諭して見てくれんか。何か怒っているかも知れんが、怒るのは向が悪るいからで、先方がおとなしくしてさえいれば一身上の便宜も充分計ってやるし、気に障わるような事もやめてやる。しかし向が向ならこっちもこっちと云う気になるからな――つまりそんな我を張るのは当人の損だからな」
「ええ全くおっしゃる通り愚な抵抗をするのは本人の損になるばかりで何の益もない事ですから、善く申し聞けましょう」
「それから娘はいろいろと申し込もある事だから、必ず水島にやると極める訳にも行かんが、だんだん聞いて見ると学問も人物も悪くもないようだから、もし当人が勉強して近い内に博士にでもなったらあるいはもらう事が出来るかも知れんくらいはそれとなくほのめかしても構わん」
「そう云ってやったら当人も励みになって勉強する事でしょう。宜しゅうございます」
「それから、あの妙な事だが――水島にも似合わん事だと思うが、あの変物の苦沙弥を先生先生と云って苦沙弥の云う事は大抵聞く様子だから困る。なにそりゃ何も水島に限る訳では無論ないのだから苦沙弥が何と云って邪魔をしようと、わしの方は別に差支えもせんが……」
「水島さんが可哀そうですからね」
「水島と云う人には逢った事もございませんが、とにかくこちらと御縁組が出来れば生涯の幸福で、本人は無論異存はないのでしょう」
「ええ水島さんは貰いたがっているんですが、苦沙弥だの迷亭だのって変り者が何だとか、かんだとか云うものですから」
「そりゃ、善くない事で、相当の教育のあるものにも似合わん所作ですな。よく私が苦沙弥の所へ参って談じましょう」
「ああ、どうか、御面倒でも、一つ願いたい。それから実は水島の事も苦沙弥が一番詳しいのだがせんだって妻が行った時は今の始末で碌々聞く事も出来なかった訳だから、君から今一応本人の性行学才等をよく聞いて貰いたいて」
「かしこまりました。今日は土曜ですからこれから廻ったら、もう帰っておりましょう。近頃はどこに住んでおりますか知らん」
「ここの前を右へ突き当って、左へ一丁ばかり行くと崩れかかった黒塀のあるうちです」
「それじゃ、つい近所ですな。訳はありません。帰りにちょっと寄って見ましょう。なあに、大体分りましょう標札を見れば」
「標札はあるときと、ないときとありますよ。名刺を御饌粒で門へ貼り付けるのでしょう。雨がふると剥がれてしまいましょう。すると御天気の日にまた貼り付けるのです。だから標札は当にゃなりませんよ。あんな面倒臭い事をするよりせめて木札でも懸けたらよさそうなもんですがねえ。ほんとうにどこまでも気の知れない人ですよ」
「どうも驚きますな。しかし崩れた黒塀のうちと聞いたら大概分るでしょう」
「ええあんな汚ないうちは町内に一軒しかないから、すぐ分りますよ。あ、そうそうそれで分らなければ、好い事がある。何でも屋根に草が生えたうちを探して行けば間違っこありませんよ」
「よほど特色のある家ですなアハハハハ」


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