夏目漱石 『吾輩は猫である』 「なるほどあの男が水島さんを教えた事がござ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』

現代語化

「なるほど、あいつが水島さんを教えていたのか。いい考えですね。なるほど」
「ところがどうも要領を得なくて」
「あぁ、苦沙弥君は要領を得ないわけよ。あいつは私が一緒に下宿していたときから優柔不断で。それも困ったろうな」
「困るどころか、私はこんな歳になって、人の家に行ってあんな不親切な扱いを受けたことはありません」
「何か失礼なことを言ったのかね?昔っから頑固な性格だから。とにかく10年間ずっとリーダー専門の教師をしているんだから、大体分かるでしょう」
「いや、話にならないくらいなんです。妻が何か聞くと、まるでわけのわからない返事だそうで……」
「それはひどいな。勉強をしているとどうしても慢心が芽生えるものだし、その上に貧乏だと負け惜しみを言う。いやぁ、世の中にはずいぶん無法な奴がいるよ。自分の働きがないのに気づかないで、やたらと財産のある者に食ってかかるなんて、まるで相手の財産でも奪ったような気分になるんだろうな。はははは」
「いや、まったく同感です。ああいうのは結局世の中を知らない我儘から来るんですから、ちょっと懲らしめのためにからかってやろうと思って、少し突っかかってみましたよ」
「なるほど、それでは大分答えたんじゃないか。本人のためにもなることだし」
「ところが鈴木さん、あいつってばなんと頑固なんでしょう?学校に行っても、ピン助先生や津木先生にも口を利かないそうです。ビビって黙ってるのかと思ったら、こないだは罪のないうちの下宿人をステッキを持って追い掛けたんですって。30も過ぎた大人が、よくまあ、そんなバカな真似ができるもんです。完全にやけになって気がおかしくなってるんですよ」
「へぇ、なんでそんな乱暴なことをしたんですか?」
「いや、ただあいつの前を何やら言って通ったらしいんです。すると、いきなりステッキを持って裸足で飛び出して来たんですって。ちょっと何か言ったとしても、子どもじゃないんだから。ヒゲを生やした大人が、しかも教師じゃないか」
「そうです。教師ですから」
「教師だからな」
「それに、あの迷亭という男はよっぽどな嘘つきですね。役に立たない嘘を並べ立てて。私はあんなヘンな人には初めて会いましたよ」
「ああ、迷亭ですか。相変わらず法螺を吹いてるみたいですね。やっぱり苦沙弥さんの家で会ったんですか?あいつにかかると手に負えませんよ。あいつも昔は自炊仲間でしたが、人をバカにするもんだからよくケンカしましたよ」
「誰だって腹が立ちますよ、あんな奴には。そりゃ嘘をつくのもいいですよ。たとえば、義理が悪いとか、嘘をつかないと都合が悪いとか。そんな時は誰しも本心じゃないことを言うもんです。でもあいつのは、わざわざ言わなくてもいいのにやたらと言うんだから始末に負えないじゃないですか。何が楽しくて、あんな出鱈目を?よくもまぁしらじらしく言えるもんだと思いますよ」
「ごもっともです。完全に道楽からくる嘘だから困ります」
「あなたがあんなに真面目に聞きに行った水島のこともめちゃくちゃになっちゃって。私は腹が立って腹が立って。それでも義理は義理だから、人の家に行って知らん顔の半兵衛もおかしいので、後から車夫にビールを1ダース持たせてやったんです。ところがどうでしょう?『こんなものを受け取る理由がない。持って帰れ』って言うんだそうです。『いいえ、お礼なので、どうかお受け取りください』と車夫が言うと、ひどいじゃないですか。『俺はジャムは毎日舐めるけど、ビールみたいに苦いものは飲んだことがない』と、さっさと奥に入ってしまったそうです。言い訳にもならない、まったく失礼でしょ?」
「それはひどいな」
「それで今日わざわざあなたを呼んだんだけどね」
「そんなアホは、陰からからかってるだけで十分だと思うけど、少し困ることもあるよね……」

原文 (会話文抽出)

「なるほどあの男が水島さんを教えた事がございますので――なるほど、よい御思い付きで――なるほど」
「ところが何だか要領を得んので」
「ええ苦沙弥じゃ要領を得ない訳で――あの男は私がいっしょに下宿をしている時分から実に煮え切らない――そりゃ御困りでございましたろう」
「困るの、困らないのってあなた、私しゃこの年になるまで人のうちへ行って、あんな不取扱を受けた事はありゃしません」
「何か無礼な事でも申しましたか、昔しから頑固な性分で――何しろ十年一日のごとくリードル専門の教師をしているのでも大体御分りになりましょう」
「いや御話しにもならんくらいで、妻が何か聞くとまるで剣もほろろの挨拶だそうで……」
「それは怪しからん訳で――一体少し学問をしているととかく慢心が萌すもので、その上貧乏をすると負け惜しみが出ますから――いえ世の中には随分無法な奴がおりますよ。自分の働きのないのにゃ気が付かないで、無暗に財産のあるものに喰って掛るなんてえのが――まるで彼等の財産でも捲き上げたような気分ですから驚きますよ、あははは」
「いや、まことに言語同断で、ああ云うのは必竟世間見ずの我儘から起るのだから、ちっと懲らしめのためにいじめてやるが好かろうと思って、少し当ってやったよ」
「なるほどそれでは大分答えましたろう、全く本人のためにもなる事ですから」
「ところが鈴木さん、まあなんて頑固な男なんでしょう。学校へ出ても箆さんや、津木さんには口も利かないんだそうです。恐れ入って黙っているのかと思ったらこの間は罪もない、宅の書生をステッキを持って追っ懸けたってんです――三十面さげて、よく、まあ、そんな馬鹿な真似が出来たもんじゃありませんか、全くやけで少し気が変になってるんですよ」
「へえどうしてまたそんな乱暴な事をやったんで……」
「なあに、ただあの男の前を何とか云って通ったんだそうです、すると、いきなり、ステッキを持って跣足で飛び出して来たんだそうです。よしんば、ちっとやそっと、何か云ったって小供じゃありませんか、髯面の大僧の癖にしかも教師じゃありませんか」
「さよう教師ですからな」
「教師だからな」
「それに、あの迷亭って男はよっぽどな酔興人ですね。役にも立たない嘘八百を並べ立てて。私しゃあんな変梃な人にゃ初めて逢いましたよ」
「ああ迷亭ですか、あいかわらず法螺を吹くと見えますね。やはり苦沙弥の所で御逢いになったんですか。あれに掛っちゃたまりません。あれも昔し自炊の仲間でしたがあんまり人を馬鹿にするものですから能く喧嘩をしましたよ」
「誰だって怒りまさあね、あんなじゃ。そりゃ嘘をつくのも宜うござんしょうさ、ね、義理が悪るいとか、ばつを合せなくっちゃあならないとか――そんな時には誰しも心にない事を云うもんでさあ。しかしあの男のは吐かなくってすむのに矢鱈に吐くんだから始末に了えないじゃありませんか。何が欲しくって、あんな出鱈目を――よくまあ、しらじらしく云えると思いますよ」
「ごもっともで、全く道楽からくる嘘だから困ります」
「せっかくあなた真面目に聞きに行った水島の事も滅茶滅茶になってしまいました。私ゃ剛腹で忌々しくって――それでも義理は義理でさあ、人のうちへ物を聞きに行って知らん顔の半兵衛もあんまりですから、後で車夫にビールを一ダース持たせてやったんです。ところがあなたどうでしょう。こんなものを受取る理由がない、持って帰れって云うんだそうで。いえ御礼だから、どうか御取り下さいって車夫が云ったら――悪くいじゃあありませんか、俺はジャムは毎日舐めるがビールのような苦い者は飲んだ事がないって、ふいと奥へ這入ってしまったって――言い草に事を欠いて、まあどうでしょう、失礼じゃありませんか」
「そりゃ、ひどい」
「そこで今日わざわざ君を招いたのだがね」
「そんな馬鹿者は陰から、からかってさえいればすむようなものの、少々それでも困る事があるじゃて……」


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