夏目漱石 『吾輩は猫である』 「少し後れまして」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』

現代語化

「ちょっと遅れて」
「さっきから2人で大待ちに待ったんだよ。早速お願いしよう、なあ君」
「おう」
「コップに水を一杯もらおう」
「おや、本格的にやるのか。次は拍手をくださいとか言われるんだろうな」
「練習だから、遠慮なく批評をお願いします」
「罪人を絞首刑に処すというのは、主にアングロサクソン民族の間で行われた方法です。それより古くさかのぼると、首吊りは主に自殺の方法として行われていました。ユダヤ人には、罪人を石を投げて殺す習慣があったそうです。旧約聖書を調べると、ハンギングという語は罪人の死体を吊るして野獣や肉食鳥の餌にするという意味で使われているようです。ヘロドトスの説によると、ユダヤ人はエジプトを去る前から夜間に死体をさらされることをひどく嫌ったようです。エジプト人は罪人の首を斬って胴だけを十字架に釘付けにして、夜中にさらし者にしたそうです。ペルシャ人は……」
「寒月君、首吊りと関係がどんどん遠くなるけど大丈夫かい?」
「これから本論に入るところなので、少し我慢してください。……さて、ペルシャ人はどうでしょうかと言うと、これもやはり処刑には磔を使ったようです。ただし、生きているうちに張り付けたのか、死んでから釘を打ったのか、そのあたりはちょっとわかりません……」
「そんなことはどうでもいいよ」
「他にもいろいろお話ししたいこともありますが、迷惑でしょうから……」
「いらっしゃいましょうより、いらっしゃいましょうの方が聞き心地がいいよ、ねえ苦沙弥君」
「どっちでもいいよ」
「さて、いよいよ本題に入って論じます」
「論じますなんか講釈師の言い草だ。演説家はもっと上品な言葉を使ってほしいよね」
「論じますが下品なら、何と言えばいいでしょうか?」
「迷亭は聞いてるのか、しゃべってるのかよくわからないな。寒月君、そんな野次馬は気にせず、さっさとやればいい」
「ムッとして論じましたる柳かな」
「本当に処刑として絞首刑を使ったのは、私の調べた結果によると、オデュッセイア22巻に出てきます。つまり、テレマコスがペネロペーの12人の侍女を絞殺するというくだりです。ギリシャ語で本文を読み上げてもいいんですけど、ちょっとひけらかしているみたいになるからやめときます。465行から473行を見るとわかります」
「ギリシャ語の話はやめてくださいよ。まるでギリシャ語ができるかのように言うんだね、ねえ苦沙弥君」
「私も賛成。そんな地位をほしがっているようなことは言わない方が奥ゆかしくていい」

原文 (会話文抽出)

「少し後れまして」
「さっきから二人で大待ちに待ったところなんだ。早速願おう、なあ君」
「うむ」
「コップへ水を一杯頂戴しましょう」
「いよー本式にやるのか次には拍手の請求とおいでなさるだろう」
「稽古ですから、御遠慮なく御批評を願います」
「罪人を絞罪の刑に処すると云う事は重にアングロサクソン民族間に行われた方法でありまして、それより古代に溯って考えますと首縊りは重に自殺の方法として行われた者であります。猶太人中に在っては罪人を石を抛げつけて殺す習慣であったそうでございます。旧約全書を研究して見ますといわゆるハンギングなる語は罪人の死体を釣るして野獣または肉食鳥の餌食とする意義と認められます。ヘロドタスの説に従って見ますと猶太人はエジプトを去る以前から夜中死骸を曝されることを痛く忌み嫌ったように思われます。エジプト人は罪人の首を斬って胴だけを十字架に釘付けにして夜中曝し物にしたそうで御座います。波斯人は……」
「寒月君首縊りと縁がだんだん遠くなるようだが大丈夫かい」
「これから本論に這入るところですから、少々御辛防を願います。……さて波斯人はどうかと申しますとこれもやはり処刑には磔を用いたようでございます。但し生きているうちに張付けに致したものか、死んでから釘を打ったものかその辺はちと分りかねます……」
「そんな事は分らんでもいいさ」
「まだいろいろ御話し致したい事もございますが、御迷惑であらっしゃいましょうから……」
「あらっしゃいましょうより、いらっしゃいましょうの方が聞きいいよ、ねえ苦沙弥君」
「どっちでも同じ事だ」
「さていよいよ本題に入りまして弁じます」
「弁じますなんか講釈師の云い草だ。演舌家はもっと上品な詞を使って貰いたいね」
「弁じますが下品なら何と云ったらいいでしょう」
「迷亭のは聴いているのか、交ぜ返しているのか判然しない。寒月君そんな弥次馬に構わず、さっさとやるが好い」
「むっとして弁じましたる柳かな、かね」
「真に処刑として絞殺を用いましたのは、私の調べました結果によりますると、オディセーの二十二巻目に出ております。即ち彼のテレマカスがペネロピーの十二人の侍女を絞殺するという条りでございます。希臘語で本文を朗読しても宜しゅうございますが、ちと衒うような気味にもなりますからやめに致します。四百六十五行から、四百七十三行を御覧になると分ります」
「希臘語云々はよした方がいい、さも希臘語が出来ますと云わんばかりだ、ねえ苦沙弥君」
「それは僕も賛成だ、そんな物欲しそうな事は言わん方が奥床しくて好い」


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