夏目漱石 『吾輩は猫である』 「しかし奥さん」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』

現代語化

「でも奥さん」
「あんなに本を買ってむやみに詰め込むものだから、世間からちょっとは学者だとか何だとか言われてるんですよ。この間ある文学雑誌を見たら、苦沙弥君の評が出てましたよ」
「ほんとですか?」
「こう書いてあったんです」
「なになに、2、3行だけだけど、苦沙弥君の文章は雲が流れるように水も流れていくようだって書いてありましたよ」
「それだけです?」
「そのあとにね――現れるかと思えばすぐに消え、去っては永遠に帰らずってありましたよ」
「それは褒めたんでしょうか?」
「まあ褒めたんでしょうね」
「本は仕事道具だから、仕方がないんでしょうけど、かなり偏屈ですよね」
「偏屈はちょっと偏屈ですね。学問する人って、大体ああいうものですよ」
「こないだなんて、学校から帰ってすぐ外に出なきゃいけなくて、着物を着替えるのが面倒だったみたいで、あなた、上着も脱がずに机に座ってご飯を食べるんです。お膳を炬燵の上に載せて――私はお櫃を抱えて座ってたんですけど、おかしくて……」
「なんだかハイカラの首実験みたいですね。でも、そういうところが苦沙弥君の苦沙弥君たる所以で――とにかく普通じゃない」
「普通じゃないのかどうなのか、私にはわかりませんが、いくらなんでも、ちょっと乱暴すぎますよ」
「でも、普通よりいいでしょう?」
「そもそも、普通って、みんなよく言うけど、どんなものが普通なんですか?」
「普通ですか、普通って言うと――まあとにかく説明しにくいのですが……」
「そんな曖昧なものなら、普通だっていいんじゃないですか?」
「曖昧じゃないですよ、ちゃんとわかってます。ただ説明するのが難しいだけなんです」
「結局、自分が嫌いなものを普通って言うんでしょう」

原文 (会話文抽出)

「しかし奥さん」
「あんなに本を買って矢鱈に詰め込むものだから人から少しは学者だとか何とか云われるんですよ。この間ある文学雑誌を見たら苦沙弥君の評が出ていましたよ」
「ほんとに?」
「何とかいてあったんです」
「なあに二三行ばかりですがね。苦沙弥君の文は行雲流水のごとしとありましたよ」
「それぎりですか」
「その次にね――出ずるかと思えば忽ち消え、逝いては長えに帰るを忘るとありましたよ」
「賞めたんでしょうか」
「まあ賞めた方でしょうな」
「書物は商買道具で仕方もござんすまいが、よっぽど偏屈でしてねえ」
「偏屈は少々偏屈ですね、学問をするものはどうせあんなですよ」
「せんだってなどは学校から帰ってすぐわきへ出るのに着物を着換えるのが面倒だものですから、あなた外套も脱がないで、机へ腰を掛けて御飯を食べるのです。御膳を火燵櫓の上へ乗せまして――私は御櫃を抱えて坐っておりましたがおかしくって……」
「何だかハイカラの首実検のようですな。しかしそんなところが苦沙弥君の苦沙弥君たるところで――とにかく月並でない」
「月並か月並でないか女には分りませんが、なんぼ何でも、あまり乱暴ですわ」
「しかし月並より好いですよ」
「一体、月並月並と皆さんが、よくおっしゃいますが、どんなのが月並なんです」
「月並ですか、月並と云うと――さようちと説明しにくいのですが……」
「そんな曖昧なものなら月並だって好さそうなものじゃありませんか」
「曖昧じゃありませんよ、ちゃんと分っています、ただ説明しにくいだけの事でさあ」
「何でも自分の嫌いな事を月並と云うんでしょう」


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