GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』
現代語化
「ジャムですか?」
「いいえ、大根おろしを……あなた。『坊や、お父様がおいしいものあげるからいらっしゃい』って――たまには子供を可愛がってくれるかと思うと、そんなばかげたことばかりするんです。2、3日前には真ん中の娘を抱っこして箪笥の上にあげて……」
「どういうつもりだったんですか?」
「何もないです。ただその上から飛び降りてみろって言うんです。3つか4つの女の子が、そんなやんちゃなことができるわけないでしょ」
「なるほど、これはたしかにつまんないですね。でも、あの人は腹の中は素直な人ですよ」
「あの人が素直だったら、耐えられませんよ」
「そんなに不満を言わなくてもいいですよ。こうやって毎日食べていけるだけでありがたいと思わなきゃ。苦沙弥君みたいに、趣味もなくて、服装にもこだわらず、地味に暮らしてる人もいるんですから」
「それがあなた、全然違うんです……」
「何か裏でやってますか?油断ならない世の中ですからね」
「他の趣味はないんですけど、めちゃくちゃに本ばかり買って。それもたまには考えて買ってくれるならいいんですけど、勝手に丸善に行って何冊も持ってくるんです。そうすると月末になると知らんぷりしちゃうんですよ。去年の暮れなんて、毎月の分がたまって大変困りました」
「なになに、本なんて持って帰ってきたらそれでいいんですよ。お金を請求しに来たら『今やる、今やる』って言ってれば帰っちゃうんだから」
「それでも、ずっと引き延ばすわけにもいかないでしょう」
「それなら、事情を説明して本代を減らしてもらいなよ」
「なんで、そんなこと言っても、なかなか聞きませんよ。この間なんて『あなたったら学者の妻らしくないわ。本の価値が全然わかってない。昔、ローマにこんな話があったんだって。将来のためになるから聞いておきなさい』って言うんです」
「それは面白い。どんな話ですか?」
「なんでも昔、ローマに樽金っていう王様がいたんだそうです……」
「樽金?『金』ってのはちょっと変ですね」
「私は中国人の名前なんて難しくて覚えられないんです。なんでも7代目なんだそうです」
「なるほど、7代目の樽金は変ですね。それでその7代目の樽金は何かしたんですか?」
「あら、あなたまでからかわないでよ。知ってるなら教えてくれればいいじゃないですか。意地悪」
「からかってなんかいないよ。ただ、7代目の樽金って感じがしっくりこなくてさ……ああ、待ってくださいね。ローマの7代目の王様ですよね、そうだっけなぁ。たしかには覚えてないですけど、タークイン・ゼ・プラウドのことでしょう。ま、誰でもいいけど、その王様がどうしたんですか?」
「その王様のところに一人の女が9冊の本を持ってきて『買ってくれませんか』って言ったんだそうです」
「なるほど」
「王様がいくらなら売るのか聞いたら、すごく高い値段を言うんですって。あまりにも高いから少し負けてくれないかって言うと、その女がいきなり9冊のうち3冊を火にくべて燃やしてしまったそうです」
「もったいないことしましたね」
「その本のうちには予言とか、ほかのところでは手に入らないことが書いてあるんですって」
「へぇー」
「王様は9冊が6冊になったから、少しは値段も下がっただろうと思って6冊でいくらかって聞くと、やっぱり元の通り一銭も引かないそうです。それはひどいって言うと、その女はまた3冊とって火にくべたそうです。王様はまだまだ未練があったみたいで、残りの3冊をいくらで売るのかと聞くと、やっぱり9冊分の値段をくれって言うそうです。9冊が6冊になり、6冊が3冊になっても値段は元の通り一厘も引かない。それを引かせようとすると、残ってる3冊も火にくべるかもしれないので、王様はとうとう高いお金を出して残りの3冊を買ったんですって……この話で少しは本のありがたみが分かったでしょうって意気込んでたんですけど、私には何がありがたいのか、さっぱりわかりませんねぇ」
原文 (会話文抽出)
「この間などは赤ん坊にまで甞めさせまして……」
「ジャムをですか」
「いいえ大根卸を……あなた。坊や御父様がうまいものをやるからおいでてって、――たまに小供を可愛がってくれるかと思うとそんな馬鹿な事ばかりするんです。二三日前には中の娘を抱いて箪笥の上へあげましてね……」
「どう云う趣向がありました」
「なに趣向も何も有りゃしません、ただその上から飛び下りて見ろと云うんですわ、三つや四つの女の子ですもの、そんな御転婆な事が出来るはずがないです」
「なるほどこりゃ趣向が無さ過ぎましたね。しかしあれで腹の中は毒のない善人ですよ」
「あの上腹の中に毒があっちゃ、辛防は出来ませんわ」
「まあそんなに不平を云わんでも善いでさあ。こうやって不足なくその日その日が暮らして行かれれば上の分ですよ。苦沙弥君などは道楽はせず、服装にも構わず、地味に世帯向きに出来上った人でさあ」
「ところがあなた大違いで……」
「何か内々でやりますかね。油断のならない世の中だからね」
「ほかの道楽はないですが、無暗に読みもしない本ばかり買いましてね。それも善い加減に見計らって買ってくれると善いんですけれど、勝手に丸善へ行っちゃ何冊でも取って来て、月末になると知らん顔をしているんですもの、去年の暮なんか、月々のが溜って大変困りました」
「なあに書物なんか取って来るだけ取って来て構わんですよ。払いをとりに来たら今にやる今にやると云っていりゃ帰ってしまいまさあ」
「それでも、そういつまでも引張る訳にも参りませんから」
「それじゃ、訳を話して書籍費を削減させるさ」
「どうして、そんな言を云ったって、なかなか聞くものですか、この間などは貴様は学者の妻にも似合わん、毫も書籍の価値を解しておらん、昔し羅馬にこう云う話しがある。後学のため聞いておけと云うんです」
「そりゃ面白い、どんな話しですか」
「何んでも昔し羅馬に樽金とか云う王様があって……」
「樽金?`金はちと妙ですぜ」
「私は唐人の名なんかむずかしくて覚えられませんわ。何でも七代目なんだそうです」
「なるほど七代目樽金は妙ですな。ふんその七代目樽金がどうかしましたかい」
「あら、あなたまで冷かしては立つ瀬がありませんわ。知っていらっしゃるなら教えて下さればいいじゃありませんか、人の悪い」
「何冷かすなんて、そんな人の悪い事をする僕じゃない。ただ七代目樽金は振ってると思ってね……ええお待ちなさいよ羅馬の七代目の王様ですね、こうっとたしかには覚えていないがタークイン・ゼ・プラウドの事でしょう。まあ誰でもいい、その王様がどうしました」
「その王様の所へ一人の女が本を九冊持って来て買ってくれないかと云ったんだそうです」
「なるほど」
「王様がいくらなら売るといって聞いたら大変な高い事を云うんですって、あまり高いもんだから少し負けないかと云うとその女がいきなり九冊の内の三冊を火にくべて焚いてしまったそうです」
「惜しい事をしましたな」
「その本の内には予言か何かほかで見られない事が書いてあるんですって」
「へえー」
「王様は九冊が六冊になったから少しは価も減ったろうと思って六冊でいくらだと聞くと、やはり元の通り一文も引かないそうです、それは乱暴だと云うと、その女はまた三冊をとって火にくべたそうです。王様はまだ未練があったと見えて、余った三冊をいくらで売ると聞くと、やはり九冊分のねだんをくれと云うそうです。九冊が六冊になり、六冊が三冊になっても代価は、元の通り一厘も引かない、それを引かせようとすると、残ってる三冊も火にくべるかも知れないので、王様はとうとう高い御金を出して焚け余りの三冊を買ったんですって……どうだこの話しで少しは書物のありがた味が分ったろう、どうだと力味むのですけれど、私にゃ何がありがたいんだか、まあ分りませんね」