GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』
現代語化
「その後の私生活は特に変わったこともなく、変な手紙も来なくて、まあ無事に過ごしていますので、ご安心ください」
「ちょっと顔を出したいのですが、あなたの消極的な考え方に反して、この前代未聞の新年に向けてできる限り積極的な計画を立てているので、毎日毎日目が回るほど忙しいのです……」
「昨日は少し時間ができたので、東風子さんにイカの料理をごちそうしようと思ったのですが、材料がなくてそれがかないませんでした。残念至極です。……」
「明日は子爵の歌留多会、明後日は美学協会の新春宴会、その翌日は鳥部教授歓迎会、さらに翌日は……」
「謡曲会、俳句会、短歌会、新体詩会などがあり、しばらくは連日出勤せざるを得ないので、手紙で新年の挨拶を代えさせていただきます。ご理解ください。……」
「今度はご来訪いただいたときに、久しぶりに夕食でも振る舞いたいです。うちの台所には珍味はありませんが、イカでも出そうかと思っています。……」
「ですが、イカは最近材料がなくて、間に合わないかもしれません。その場合は孔雀の舌を味わっていただければと。……」
「ご存じのとおり、孔雀1羽あたりの舌は小指の半分にも満たず、貴方の食欲を満たすには……」
「20〜30羽の孔雀を捕獲する必要があると思います。しかし、孔雀は動物園や浅草花やしきにはたまに見かけますが、普通の鳥屋では見つからず、困っています。……」
「孔雀の舌料理は古代ローマ時代の一時期に流行したそうで、私は豪華で風流な極みとしてひそかに憧れていました。……」
「16〜17世紀頃までヨーロッパでは、孔雀は宴会になくてはならない珍味でした。レスター伯がエリザベス女王をケニルワースに招いたときも、確か孔雀を使ったと思います。有名なレンブラントが描いた『饗宴の図』にも、孔雀が尾を広げたまま食卓に横たわっています……」
「いずれにせよ、近頃のようでごちそうを食べ続けると、私でも貴方のように胃弱になることは間違いありません……」
「歴史家の話によると、ローマ人は1日に2〜3回宴会を開いていたそうです。それだけの料理を食べれば、どんな健胃の人でも消化不良を起こすでしょうから、自然と貴方と同じように……」
「しかし、贅沢と健康を両立させようと研究した彼らは、過剰な美食と胃腸の健康維持の必要性を認識し、ある秘法を考案しました……」
「彼らは食後必ず入浴し、入浴後は一定の方法で食事前に飲み込んだものをすべて吐き出し、胃の中を掃除しました。胃の中をきれいにした後に再び食卓に着き、満腹になるまで珍味を楽しみ、食べ終わるとまたお風呂に行って吐き出しました。こうすれば、好きなだけ食べても内臓に負担をかけず、一石二鳥だったのではないかと思います……」
「20世紀の今日、交通の発達や宴会の増加は言うまでもなく、日露戦争の2年目というこのタイミングにおいて、私たちは戦勝国の国民として、ぜひともローマ人に倣って入浴嘔吐の術を研究すべき時が来たと考えます。そうでなければ、私たちの偉大な国民も近い将来、全員が貴方のような胃病患者になってしまうのではないかと、ひそかに心配しています……」
原文 (会話文抽出)
「新年の御慶目出度申納候。……」
「其後別に恋着せる婦人も無之、いず方より艶書も参らず、先ず先ず無事に消光罷り在り候間、乍憚御休心可被下候」
「一寸参堂仕り度候えども、大兄の消極主義に反して、出来得る限り積極的方針を以て、此千古未曾有の新年を迎うる計画故、毎日毎日目の廻る程の多忙、御推察願上候……」
「昨日は一刻のひまを偸み、東風子にトチメンボーの御馳走を致さんと存じ候処、生憎材料払底の為め其意を果さず、遺憾千万に存候。……」
「明日は其男爵の歌留多会、明後日は審美学協会の新年宴会、其明日は鳥部教授歓迎会、其又明日は……」
「右の如く謡曲会、俳句会、短歌会、新体詩会等、会の連発にて当分の間は、のべつ幕無しに出勤致し候為め、不得已賀状を以て拝趨の礼に易え候段不悪御宥恕被下度候。……」
「今度御光来の節は久し振りにて晩餐でも供し度心得に御座候。寒厨何の珍味も無之候えども、せめてはトチメンボーでもと只今より心掛居候。……」
「然しトチメンボーは近頃材料払底の為め、ことに依ると間に合い兼候も計りがたきにつき、其節は孔雀の舌でも御風味に入れ可申候。……」
「御承知の通り孔雀一羽につき、舌肉の分量は小指の半ばにも足らぬ程故健啖なる大兄の胃嚢を充たす為には……」
「是非共二三十羽の孔雀を捕獲致さざる可らずと存候。然る所孔雀は動物園、浅草花屋敷等には、ちらほら見受け候えども、普通の鳥屋抔には一向見当り不申、苦心此事に御座候。……」
「此孔雀の舌の料理は往昔羅馬全盛の砌り、一時非常に流行致し候ものにて、豪奢風流の極度と平生よりひそかに食指を動かし居候次第御諒察可被下候。……」
「降って十六七世紀の頃迄は全欧を通じて孔雀は宴席に欠くべからざる好味と相成居候。レスター伯がエリザベス女皇をケニルウォースに招待致し候節も慥か孔雀を使用致し候様記憶致候。有名なるレンブラントが画き候饗宴の図にも孔雀が尾を広げたる儘卓上に横わり居り候……」
「とにかく近頃の如く御馳走の食べ続けにては、さすがの小生も遠からぬうちに大兄の如く胃弱と相成るは必定……」
「歴史家の説によれば羅馬人は日に二度三度も宴会を開き候由。日に二度も三度も方丈の食饌に就き候えば如何なる健胃の人にても消化機能に不調を醸すべく、従って自然は大兄の如く……」
「然るに贅沢と衛生とを両立せしめんと研究を尽したる彼等は不相当に多量の滋味を貪ると同時に胃腸を常態に保持するの必要を認め、ここに一の秘法を案出致し候……」
「彼等は食後必ず入浴致候。入浴後一種の方法によりて浴前に嚥下せるものを悉く嘔吐し、胃内を掃除致し候。胃内廓清の功を奏したる後又食卓に就き、飽く迄珍味を風好し、風好し了れば又湯に入りて之を吐出致候。かくの如くすれば好物は貪ぼり次第貪り候も毫も内臓の諸機関に障害を生ぜず、一挙両得とは此等の事を可申かと愚考致候……」
「廿世紀の今日交通の頻繁、宴会の増加は申す迄もなく、軍国多事征露の第二年とも相成候折柄、吾人戦勝国の国民は、是非共羅馬人に傚って此入浴嘔吐の術を研究せざるべからざる機会に到着致し候事と自信致候。左もなくば切角の大国民も近き将来に於て悉く大兄の如く胃病患者と相成る事と窃かに心痛罷りあり候……」