夏目漱石 『吾輩は猫である』 「何迷亭が洋行なんかするもんですか、そりゃ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』

現代語化

「って、何で俺が海外に行くんだ?金も暇もあるし、行こうと思えばいつでも行けるんだけど。多分、これから行くつもりだったのを、過去のことのように言ってるジョークじゃないの?」
「そうなんですね。いつの間にか行っちゃったのかと思って、真面目に聞いてしまいました。それに、見たことあるみたいにカタツムリのスープとか、カエルのシチューの話し方するから」
「あれは誰かに聞いたんだろ。嘘つくのはうまいんだ」
「その通りみたいですね」
「じゃ、要点ってのはそれなの?」
「いや、それは序章で、これからが本論なんです」
「へえ」
「それで、カタツムリやカエルなんて食えないから、まあイカみたいなもので我慢するって相談されたんで、俺も気の抜けた感じで、そうっすね、って言ってしまったんです」
「へー、イカって変だな」
「そうなんですよ。でも、先生が真面目だったから、気づかなかったんです」
「それでどうしたの?」
「それから、ウェイターに『イカを2人前』って言わせたら、ウェイターが『メンチカツですか?』って聞き返して、先生はまた真顔になって『メンチカツじゃない、イカだ』って訂正されたんです」
「おいおい。そのイカって料理、あるの?」
「いやぁ、俺もちょっとおかしいと思ったんですけど、先生が真面目だし、西洋通っぽいし、その時は海外に行ってるって信じてたんで、俺も『イカだ、イカだ』ってウェイターに教えてやりました」
「ウェイターはどうしたの?」
「ウェイターが、今思うとおかしくて、しばらく考えてたんですけど、『申し訳ございませんが、本日はイカはご用意がなく、メンチカツならお2人前すぐにできます』って言うんで、先生は残念そうな顔で、『じゃ、わざわざ来たのに仕方ないなぁ。なんとかイカを都合してもらえないかなぁ』ってウェイターに20銭銀貨を渡すと、ウェイターは『わかりました、料理長と相談してみます』って奥に行っちゃったんですよ」
「相当イカが食べたかったみたいだね」
「しばらくしてウェイターが出て来て、『本当に申し訳ございませんが、特注でなら作れますが、少し時間がかかります』って言うんで、迷亭先生は余裕かまして、『俺たちは正月で暇だから、待って食っていこうじゃねえか』って言いながら、ポケットから葉巻を出して吸い始めたんで、俺もやむを得ず、新聞を出して読み始めました。するとウェイターはまた奥に相談に行きました」
「ずいぶん手間がかかるんだなぁ」
「するとウェイターがまた出て来て、『最近、イカの材料がなくて、亀屋でも横浜の十五番でも買えないんです。しばらくの間はご用意できません』って気の毒そうに言うんで、先生は困ったなぁって俺の方を見て何度も言うんです。俺も黙ってられないんで、『残念ですよね、本当に残念』って同調したんです」
「そりゃそうだよなぁ」
「するとウェイターも気の毒そうにして、『材料が入ったら、どうかよろしくお願いします』って。先生が『材料ってなに使うんだい?』って聞くと、ウェイターは『へへへ』って笑って答えないんです。先生は『浮世絵の俳人だろう?』って問い詰めると、ウェイターは『そうです。だから、最近は横浜に行っても買えないんですよ』って、すごく気の毒そうに言ったんです」
「アハハ、それが落ちなの?面白いじゃん」

原文 (会話文抽出)

「何迷亭が洋行なんかするもんですか、そりゃ金もあり、時もあり、行こうと思えばいつでも行かれるんですがね。大方これから行くつもりのところを、過去に見立てた洒落なんでしょう」
「そうですか、私はまたいつの間に洋行なさったかと思って、つい真面目に拝聴していました。それに見て来たようになめくじのソップの御話や蛙のシチュの形容をなさるものですから」
「そりゃ誰かに聞いたんでしょう、うそをつく事はなかなか名人ですからね」
「どうもそうのようで」
「じゃ趣向というのは、それなんですね」
「いえそれはほんの冒頭なので、本論はこれからなのです」
「ふーん」
「それから、とてもなめくじや蛙は食おうっても食えやしないから、まあトチメンボーくらいなところで負けとく事にしようじゃないか君と御相談なさるものですから、私はつい何の気なしに、それがいいでしょう、といってしまったので」
「へー、とちめんぼうは妙ですな」
「ええ全く妙なのですが、先生があまり真面目だものですから、つい気がつきませんでした」
「それからどうしました」
「それからボイにおいトチメンボーを二人前持って来いというと、ボイがメンチボーですかと聞き直しましたが、先生はますます真面目な貌でメンチボーじゃないトチメンボーだと訂正されました」
「なある。そのトチメンボーという料理は一体あるんですか」
「さあ私も少しおかしいとは思いましたがいかにも先生が沈着であるし、その上あの通りの西洋通でいらっしゃるし、ことにその時は洋行なすったものと信じ切っていたものですから、私も口を添えてトチメンボーだトチメンボーだとボイに教えてやりました」
「ボイはどうしました」
「ボイがね、今考えると実に滑稽なんですがね、しばらく思案していましてね、はなはだ御気の毒様ですが今日はトチメンボーは御生憎様でメンチボーなら御二人前すぐに出来ますと云うと、先生は非常に残念な様子で、それじゃせっかくここまで来た甲斐がない。どうかトチメンボーを都合して食わせてもらう訳には行くまいかと、ボイに二十銭銀貨をやられると、ボイはそれではともかくも料理番と相談して参りましょうと奥へ行きましたよ」
「大変トチメンボーが食いたかったと見えますね」
「しばらくしてボイが出て来て真に御生憎で、御誂ならこしらえますが少々時間がかかります、と云うと迷亭先生は落ちついたもので、どうせ我々は正月でひまなんだから、少し待って食って行こうじゃないかと云いながらポッケットから葉巻を出してぷかりぷかり吹かし始められたので、私しも仕方がないから、懐から日本新聞を出して読み出しました、するとボイはまた奥へ相談に行きましたよ」
「いやに手数が掛りますな」
「するとボイがまた出て来て、近頃はトチメンボーの材料が払底で亀屋へ行っても横浜の十五番へ行っても買われませんから当分の間は御生憎様でと気の毒そうに云うと、先生はそりゃ困ったな、せっかく来たのになあと私の方を御覧になってしきりに繰り返さるるので、私も黙っている訳にも参りませんから、どうも遺憾ですな、遺憾極るですなと調子を合せたのです」
「ごもっともで」
「するとボイも気の毒だと見えて、その内材料が参りましたら、どうか願いますってんでしょう。先生が材料は何を使うかねと問われるとボイはへへへへと笑って返事をしないんです。材料は日本派の俳人だろうと先生が押し返して聞くとボイはへえさようで、それだものだから近頃は横浜へ行っても買われませんので、まことにお気の毒様と云いましたよ」
「アハハハそれが落ちなんですか、こりゃ面白い」


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