夏目漱石 『吾輩は猫である』 「一体あなたの所の御主人は何ですか」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』

現代語化

「ところで、あなたのお家のご主人は何ですか?」
「あら、ご主人って、変ですね。師匠ですわ。琴の師匠よ」
「それは僕も知ってるんだけどね。身分は何なんだろう。きっと昔は偉い人なんでしょうな」
「ええ」
「いい声だね」
「いいみたいだけど、私にはよく分からない。そもそもあれって何なのよ」
「あれ? あれは何とかってものよ。師匠はあれが大好きなの。……師匠はあれで六十二よ。ずいぶん元気よね」
「はあ」
「あれでも、もとは身分がすごく良かったんだって。いつもそうおっしゃってるわ」
「へえ、元は何だったんですか?」
「何でも天璋院様の書記官の妹の嫁に行った人の奥さんの甥の娘なんだって」
「何ですって?」
「あの天璋院様の書記官の妹の嫁に行った……」
「なるほど。ちょっと待って。天璋院様の妹の書記官の……」
「あら違うの、天璋院様の書記官の妹の……」
「いいよ、分かったよ。天璋院様でしょ?」
「ええ」
「書記官でしょ?」
「そうよ」
「嫁に行ったでしょ?」
「妹の嫁に行ったのよ」
「そうそう、間違えた。妹の嫁に行った先の」
「奥さんの甥の娘なんですとさ」
「奥さんの甥の娘なんですか?」
「ええ。分かったでしょ?」
「いいえ。なんか入り組んでてよく分からないです。要するに天璋院様の何になるんですか?」
「あなたもよっぽど理解してないのね。だから天璋院様の書記官の妹の嫁に行った先の奥さんの甥の娘なんだって、先ほどから言ってるじゃないの?」
「それは分ってるんだけどね」
「それが分かればそれでいいでしょ」
「ええ」

原文 (会話文抽出)

「一体あなたの所の御主人は何ですか」
「あら御主人だって、妙なのね。御師匠さんだわ。二絃琴の御師匠さんよ」
「それは吾輩も知っていますがね。その御身分は何なんです。いずれ昔しは立派な方なんでしょうな」
「ええ」
「宜い声でしょう」
「宜いようだが、吾輩にはよくわからん。全体何というものですか」
「あれ? あれは何とかってものよ。御師匠さんはあれが大好きなの。……御師匠さんはあれで六十二よ。随分丈夫だわね」
「はあ」
「あれでも、もとは身分が大変好かったんだって。いつでもそうおっしゃるの」
「へえ元は何だったんです」
「何でも天璋院様の御祐筆の妹の御嫁に行った先きの御っかさんの甥の娘なんだって」
「何ですって?」
「あの天璋院様の御祐筆の妹の御嫁にいった……」
「なるほど。少し待って下さい。天璋院様の妹の御祐筆の……」
「あらそうじゃないの、天璋院様の御祐筆の妹の……」
「よろしい分りました天璋院様のでしょう」
「ええ」
「御祐筆のでしょう」
「そうよ」
「御嫁に行った」
「妹の御嫁に行ったですよ」
「そうそう間違った。妹の御嫁に入った先きの」
「御っかさんの甥の娘なんですとさ」
「御っかさんの甥の娘なんですか」
「ええ。分ったでしょう」
「いいえ。何だか混雑して要領を得ないですよ。詰るところ天璋院様の何になるんですか」
「あなたもよっぽど分らないのね。だから天璋院様の御祐筆の妹の御嫁に行った先きの御っかさんの甥の娘なんだって、先っきっから言ってるんじゃありませんか」
「それはすっかり分っているんですがね」
「それが分りさえすればいいんでしょう」
「ええ」


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