GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 夏目漱石 『明暗』
現代語化
「何を生意気なことを言ってるんだ。黙ってろ、何も分かってないくせに」
「人格という言葉の意味が分かりますか?たかが女学校を卒業したくらいで、そんな言葉を人前で使うのはおかしいよ」
「私は言葉にこだわってません。事実に注目してるんです」
「事実とはなんだ。俺の頭の中の事実がお前みたいな教養のない女に分かると思うのか。バカだな」
「そんなに私をバカにするなら、聞いておいてください。まあいいですか」
「良いも悪いも答える必要はない。人の家の不幸なところに来て、なんて態度だ。それなのに妹だと思ってるのか?」
「あなたが兄らしくないからです」
「黙れ」
「黙りません。言うべきことは言います。兄さんはお姉さんに操られてます。お父さんやお母さんや私よりもお姉さんを大事にしてます」
「妹より妻を大事にするのは当たり前だ」
「それだけでは問題ないんです。でも兄さんの場合はそれだけじゃないんです。お姉さんを大事にしつつ、他にも大事にしてる人がいるんです」
「誰だ?」
「だから兄さんはお姉さんを恐れてるんです。それもその怖がり方は――」
原文 (会話文抽出)
「兄さん、妹は兄の人格に対して口を出す権利がないものでしょうか。よし権利がないにしたところで、もしそうした疑を妹が少しでももっているなら、綺麗にそれを晴らしてくれるのが兄の義務――義務は取り消します、私には不釣合な言葉かも知れませんから。――少なくとも兄の人情でしょう。私は今その人情をもっていらっしゃらない兄さんを眼の前に見る事を妹として悲しみます」
「何を生意気な事を云うんだ。黙っていろ、何にも解りもしない癖に」
「お前に人格という言葉の意味が解るか。たかが女学校を卒業したぐらいで、そんな言葉をおれの前で人並に使うのからして不都合だ」
「私は言葉に重きをおいていやしません。事実を問題にしているのです」
「事実とは何だ。おれの頭の中にある事実が、お前のような教養に乏しい女に捕まえられると思うのか。馬鹿め」
「そう私を軽蔑なさるなら、御注意までに申します。しかしよござんすか」
「いいも悪いも答える必要はない。人の病気のところへ来て何だ、その態度は。それでも妹だというつもりか」
「あなたが兄さんらしくないからです」
「黙れ」
「黙りません。云うだけの事は云います。兄さんは嫂さんに自由にされています。お父さんや、お母さんや、私などよりも嫂さんを大事にしています」
「妹より妻を大事にするのはどこの国へ行ったって当り前だ」
「それだけならいいんです。しかし兄さんのはそれだけじゃないんです。嫂さんを大事にしていながら、まだほかにも大事にしている人があるんです」
「何だ」
「それだから兄さんは嫂さんを怖がるのです。しかもその怖がるのは――」