夏目漱石 『明暗』 「つまり批評家って云うんだろうね、ああ云う…

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青空文庫図書カード: 夏目漱石 『明暗』

現代語化

「つまり評論家って言うんだろうね、そういう人のことを。でもあれじゃ仕事はできない」
「仕事ができなくて、ただ理論をこねてる人、そういう人に世間はどんな用があるだろう。そういう人がお金を稼げなくて困るのは当然じゃないか」
「最近藤井さんに行きましたか?」
「うん、この間も散歩の帰りにちょっと寄ったよ。疲れた時、休むにはちょうどいい場所にある家だからね、あそこは」
「何か面白い話でもしましたか?」
「相変わらず変なことを考えてるよ、あの男は。この間は、男が女を引っ張って、女がまた男を引っぱるって話をしきりにしてた」
「あら嫌だ」
「バカみたい、いい年をして」
「いや、面白いことがあるんだよ。先生がいろいろ調べていて感心する。先生の言うところによると、こうなんだ。どこの家でも、男の子は母親を慕い、女の子は反対に父親を慕うのが普通なんだって。なるほどそう言えば、そうだね」
「それでどうしたの?」
「それでこうなんだ。男と女はいつも引っ張り合わないと、完全な人間になれないんだ。つまり自分に足りないところがどこかあって、一人じゃそれをどうしても埋められないんだ」

原文 (会話文抽出)

「つまり批評家って云うんだろうね、ああ云う人の事を。しかしあれじゃ仕事はできない」
「仕事ができなくって、ただ理窟を弄んでいる人、そういう人に世間はどんな用があるだろう。そういう人が物質上相当の報酬を得ないで困るのは当然ではないか」
「近頃藤井さんへいらしって」
「うんこないだもちょっと散歩の帰りに寄ったよ。草臥れた時、休むにはちょうど都合の好い所にある宅だからね、あすこは」
「また何か面白いお話しでもあって」
「相変らず妙な事を考えてるね、あの男は。こないだは、男が女を引張り、女がまた男を引張るって話をさかんにやって来た」
「あら厭だ」
「馬鹿らしい、好い年をして」
「いや妙な事があるんだよ。大将なかなか調べているから感心だ。大将のいうところによると、こうなんだ。どこの宅でも、男の子は女親を慕い、女の子はまた反対に男親を慕うのが当り前だというんだが、なるほどそう云えば、そうだね」
「それでどうしたの」
「それでこうなんだ。男と女は始終引張り合わないと、完全な人間になれないんだ。つまり自分に不足なところがどこかにあって、一人じゃそれをどうしても充たす訳に行かないんだ」


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