夏目漱石 『草枕』 「番茶を一つ御上り。志保田の隠居さんのよう…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『草枕』

現代語化

「番茶を飲んでよ。甘いお茶じゃないから」
「いらないです」
「あなたはあちこち行ってるみたいだけど、やっぱり絵を描くため?」
「道具は持って歩いてるけど、別に描かなくてもいいんです」
「へえ、じゃあ遊びみたいなもんなの?」
「そう言ってもいいでしょう。屁理屈言われるのは嫌なんで」
「屁理屈ってなに?」
「東京にいると屁理屈を言われるよ」
「なんで?」
「ははは、屁理屈だけならいいけどさ。人の屁を分析して『お尻の穴が三角だの四角だの』って余計なこと言うんだよ」
「へえ、衛生のこと?」
「衛生じゃないよ。探偵のこと」
「探偵?なるほど、警察のことか。でも警察は何の役に立つの?」
「まあ、絵描きには必要ないよね」
「俺も必要ないよ。警察のお世話になったことないもん」
「でしょ?」
「でも、警察が屁理屈を言おうが構わないよ。何も悪いことしてないんだから。警察ごときにどうこうされるわけないよ」
「屁くらいでどうこうされるわけないでしょ」
「俺が坊主だった頃、師匠がよく言ってたんだ。『人間は日本橋の真ん中で臓腑をさらけ出しても恥ずかしくないように暮らさなきゃ修業を積んだとは言えない』って。あなたもそれくらい修行したら?旅しなくても済むようになるよ」
「絵描きになりすませばいつでもそうなるよ」
「じゃあ絵描きになりすませばいいじゃん」
「屁理屈を言われたら無理だよ」
「ははは。ほら、あなたが泊まってる志保田の御那美さんも、嫁に行っちゃったけど、いろいろ気になって仕方ないって言って、俺のところに相談に来たんだよ。でも最近はだいぶマシになって、ほら、あんなにしっかりした女になったでしょ」
「へえ、ただの女じゃないと思った」
「いや、なかなか頭がいいんだよ――俺のところに修行に来てた泰安って小坊主も、あの女のせいでとんでもない目に遭って――でも今じゃいい勉強になってるみたいだよ」

原文 (会話文抽出)

「番茶を一つ御上り。志保田の隠居さんのような甘い茶じゃない」
「いえ結構です」
「あなたは、そうやって、方々あるくように見受けるがやはり画をかくためかの」
「ええ。道具だけは持ってあるきますが、画はかかないでも構わないんです」
「はあ、それじゃ遊び半分かの」
「そうですね。そう云っても善いでしょう。屁の勘定をされるのが、いやですからね」
「屁の勘定た何かな」
「東京に永くいると屁の勘定をされますよ」
「どうして」
「ハハハハハ勘定だけならいいですが。人の屁を分析して、臀の穴が三角だの、四角だのって余計な事をやりますよ」
「はあ、やはり衛生の方かな」
「衛生じゃありません。探偵の方です」
「探偵? なるほど、それじゃ警察じゃの。いったい警察の、巡査のて、何の役に立つかの。なけりゃならんかいの」
「そうですね、画工には入りませんね」
「わしにも入らんがな。わしはまだ巡査の厄介になった事がない」
「そうでしょう」
「しかし、いくら警察が屁の勘定をしたてて、構わんがな。澄ましていたら。自分にわるい事がなけりゃ、なんぼ警察じゃて、どうもなるまいがな」
「屁くらいで、どうかされちゃたまりません」
「わしが小坊主のとき、先代がよう云われた。人間は日本橋の真中に臓腑をさらけ出して、恥ずかしくないようにしなければ修業を積んだとは云われんてな。あなたもそれまで修業をしたらよかろ。旅などはせんでも済むようになる」
「画工になり澄ませば、いつでもそうなれます」
「それじゃ画工になり澄したらよかろ」
「屁の勘定をされちゃ、なり切れませんよ」
「ハハハハ。それ御覧。あの、あなたの泊っている、志保田の御那美さんも、嫁に入って帰ってきてから、どうもいろいろな事が気になってならん、ならんと云うてしまいにとうとう、わしの所へ法を問いに来たじゃて。ところが近頃はだいぶ出来てきて、そら、御覧。あのような訳のわかった女になったじゃて」
「へええ、どうもただの女じゃないと思いました」
「いやなかなか機鋒の鋭どい女で――わしの所へ修業に来ていた泰安と云う若僧も、あの女のために、ふとした事から大事を窮明せんならん因縁に逢着して――今によい智識になるようじゃ」


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